11月28日

80年代の七不思議!なぜか不発に終わったグレン・ヒューズのプロジェクト

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ヒューズ / スロールのアルバム「仮面の都市(Hughes / Thrall)」がリリースされた日
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photo:glennhughes.com  

パープルファミリーきっての人気者グレン・ヒューズ。「ヴォイス・オブ・ロック」という最高の称号に相応しい声は衰えを知らず、本日2018年8月21日に69歳を迎えた今も精力的にシーンの第一線で活躍を続けている。彼の永きに渡るキャリアの中で僕が最も忘れられないのが、80年代に挑んだプロジェクト「ヒューズ / スロール」だ。

「ヒューズ」はもちろんグレン・ヒューズから、「スロール」はギタリストのパット・スロールのことだ。

パット・スロールは、パット・トラヴァース・バンドやツトム・ヤマシタなどでキャリアを重ね、80年のギタープレイヤー誌でベストギタリストに輝いた強者。90年には僕も観たがエイジアのメンバーで来日している。その2人が手を組み、ヒューズ / スロール名義で唯一残したアルバムが 『仮面の都市(Hughes / Thrall)』だった。

お世辞にもクールとは言えないジャケットデザインと邦題に騙されてはいけない。アルバムを通じ、楽曲、アレンジ、グレンの歌唱、パットのギターワーク、その全てが奇蹟的なバランスで成り立っている逸品だ。

80年代の到来に呼応するような洗練されたアレンジとポップ感覚。そして、グレンが70年代から培ってきた熱きハードロック魂が根底に流れる。そこはかとなく漂うグレンが醸し出すソウルフルでファンクな黒っぽいテイストもいい。

そこに絶妙に絡むのがパットの斬新なギターワークだ。当時出始めたデジタルディレイを駆使し、トリッキーなフレーズを曲中に的確に盛り込むことで空間的な広がりを生み出している。ドラマーには複数のプレイヤーがクレジットされているが、その中心はのちに全米チャートを席巻して成功を納めるクワイエット・ライオットのフランキー・バネリだ。

直線的にドライヴするハードロック「ガット・ユア・ナンバー」でA面は幕を開ける。ヒューズ / スロールの魅力がギュッと濃縮された代表曲といっていい。極上のキャッチーなメロディが心を高揚させてくれるシングル「瞳の叫び(The Look In Your Eye)」、ポリシンセの響きが 80s ポップテイストを醸し出す「ベッグ・バロウ・オア・スティール」、大人のメロウなロック「想い出は帰らない(Where Did The Time Go)」、骨太なメタル風味のリフが血を滾らせる「マッスル&ブラッド」。

B面に入り、パットのディレイを駆使した空間処理が圧巻の「ホールド・アウト・ユア・ライフ」、コードワークの非凡なセンスが光る「君は誰のもとへ(Who Will You Run To)」、トラピーズ時代のリメイクでアーバンな夕暮れの情景が浮かぶ「コースト・トゥ・コースト」、そして、グレンの凄まじいシャウトが炸裂するダイナミックな「ファースト・ステップ・オブ・ラヴ」。

洗練されていながらも古典的、ポップでありながらも骨太なハードロック。こんな黄金比が成り立つ作品はなかなかない―― すでに35年以上愛聴しているが、未だに飽きないどころか新たな発見すらある。

日本でも積極的なプロモーションを行ったヒューズ / スロールが、商業的には成功を収めることができなかった事実は、80年代 HM/HR の七不思議といってもいい。同時期にデビューしたナイト・レンジャーが大成功したことを思えば尚更である。

今思えば、リリース当時はアメリカで LA メタルブームが勃発する前夜。HM/HR の範疇に留まらず、斬新で多様な音楽性を内包した彼らの登場は少し早すぎたのかもしれない。また、バンドではなく2人のプロジェクトである点もイメージ的に魅力を半減させたのかもしれない。結局、セカンドアルバムの予定もあったのに、たった1枚で自然消滅してしまったのが本当に残念なことだ。

僕がレコード会社のディレクター時代にグレン・ヒューズのソロアルバムを1枚だけリリースしたこともあり、実はヒューズ / スロールの新作の可能性を模索したことがあった。残念ながら実現には至らなかったが、グレンとパットは2016年にヒューズ / スロール名義でのライヴを行っている――

70歳を目前にしても精力的なグレンだけに、ぜひ何らかの形で復活させ、幻となった新作の実現を祈りたい。

2018.08.21
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カタリベ
1968年生まれ
中塚一晶
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