人生初のエアチェックテープを完成させたのは小学6年生でした。当時の僕はCMソングで聴いたビリー・ジョエルの「マイ・ライフ」で洋楽に開眼(開耳?)して音楽への熱量が一気に高まっていたのですが、小学生のお小遣いではレコードも買えません。それに、洋楽が好きになったとはいっても、知っているアーティストはまだビリー・ジョエルとABBAくらいでした。
まずはいろいろなアーティストの音楽を貪欲に片っ端から聴いてみたい。そう思っているときに『ラジカセ大作戦』(実業之日本社)という子供向けの本で、FMを録音するエアチェックという方法を知ったのです。
とはいえ、家にあったナショナル製のモノラルラジカセはもちろんダブルカセットではないので、番組を丸ごと録音して編集することができません。当時はまだFM雑誌の存在を知る前だし、音楽の知識もないし、編集することもできない。
ではどうのようにして1本のテープに曲をまとめていったのかというと、録音をポーズ(一時停止)状態のままFMをひたすら聴いて、曲が流れる度に逐一録音していったのです。
DJが曲名を告げる→録音開始→流れてきた曲を気に入れば最後まで録音。
好みに合わない場合は録音を中止→テープを元の位置に戻して再び録音待機。
これを延々と繰り返してテープの録音曲を少しずつ増やしていくという、とてつもなく非効率的な作業でした。さらにいうと、当時の僕が住んでいた札幌にはFM局がNHKしかなかったことも、録音作業の長時間化に拍車をかけました。しかし、洋楽教の洗礼を受けたばかりの僕は、新しい音楽との出会いを待つ作業が何より楽しかったのです。
こうして出来上がった初めての「マイセレクション」の記念すべきオープニングを飾ったのは、エレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)の「ロンドン行き最終列車(Last Train to London)」(以下「ロンドン」)でした。
このテープにはブームタウン・ラッツやフォリナーのほかに、ボニーM「怪僧ラスプーチン(Rasputin)」、M「ポップ・ミューヂック(Pop Muzik)」なども収録しましたが、もっとも思い出深いのはやはりELOの「ロンドン」です。
というのも、当時の僕は鉄オタならぬ「鉄童」だったのです。しかもほかの鉄道好きな子供達とはちょっと違い、新型特急より夜行やローカル線みたいな旅愁の漂う風情が好きでした。そんなこともあって、まず曲のタイトルに魅了されてしまいました。
このロンドン行き最終列車はどんなところを通るのだろう。そして車内はどんな雰囲気なのか。曲を聴く度に夜の漆黒の中を都会へ向かうローカル線と、ロンドンの綺羅びやかな街の灯を交互に思い浮かべながら空想旅行していました。
ELOと鉄道の組み合わせといえば『電車男』の「トワイライト」の方が一般的には有名かもしれませんが、僕にとってはこの「ロンドン」が今でも全洋楽の中で最高の鉄道ソングです。
そしてこの曲には忘れられないエピソードがもうひとつ。ある日「ロンドン」を聴いていたら、母が「この曲、ヒゲダンスみたいじゃない!?」と言ったのです。
ヒゲダンスといえば当時の『8時だョ! 全員集合』のコントとして人気絶頂の頃で、僕も毎週楽しみに観ていました。しかし、遥か遠い地へのロマンを感じる「ロンドン」と似ていると言われると複雑な気持ちでした。空想旅行の景色はヒゲの二人組とすり替わってしまいました。
とはいえ、聴き比べてみると似てると言えなくもない…。たぶん、母は両曲ともベースラインの音が際立っている程度のことを言いたかったのだと思います。
しかし、母のひと言を真に受けてしまった当時の僕は、2曲を交互に流しては「んー、違うと思うなぁ」「いやいや、意外と似てるかな?」などと、ひとり比較研究に没頭したのでした。
ということで、僕の思い出の中ではELOの「ロンドン」のカップリング曲がヒゲダンスになってしまったのです。
2018.03.15
YouTube / ELOVEVO
YouTube / nikoo Williamson
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