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スクイーズにもっと評価を!少なくとも XTC くらいには日本でも知られてほしい

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Squeeze / Argybargy


「80%の安心と20%のスリル」の法則


大衆が音楽に求めるものは、「80%の安心と20%のスリル」。これはモーツァルトの言葉…… ではありません、私の思いつきです。ほんとは「スリル」を日本語で言いたいんだけど、ちょうどいい言葉が見当たらないんだなぁ。

好きなあの感じに似ている、響きが美しい、踊れるリズム、すぐ覚えてしまう、歌いやすい…… そういったことが「安心」。それに対して、今まで聴いたことがない、ビックリする、不可解な、ゾクゾクする…… などと感じるのが「スリル」。「安心」がないと落ち着かないし、「スリル」がないと物足りません。ざっくりだけど、ジャンルで言うと、遊園地のBGMなんかが「安心」100%で、「現代音楽」などは(幅はあるけど)、「スリル」だらけ、という感じですか。その間じゃないと、やはり多くの人には支持されません。

そういうことから、ジャンルの盛衰も起こってくると思います。新しいジャンルには当然新しい要素が多いので、「スリル」の比率が高い。その「スリル」の中味がうまく時代の空気を捉えられると人気が高まっていきます。でも、ポピュラーになればなるほど、今度は「安心」率が上がり、その分「スリル」が少なくなって、廃れ始めるのです。するとまた、何か違う「スリル」を持った新たなジャンルが現れて、それに取って替わってゆく。で、その時いちばん流行ってる=人々を満足させているのが、「80%の安心と20%のスリル」の状態にあるジャンルなのだろうと思う次第です。ジャンルだけではなく、個々のアーティストの盛衰にも当てはまる法則だと考えています。

XTCやスクイーズは「ひねくれポップ」だから売上は地味


「パンク」というジャンルが70年代中頃に生まれたのは、60年代末から人気を博してきたハードロックやプログレッシブロックがマンネリ化したからでしょう。テクニックを誇ったり、複雑な音楽性を競うのにはもう飽きた。ヘタでいい、シンプルでいい、やりたいことをストレートにやるんだという姿勢が、新しい「スリル」となって、でも音楽性は、ロックンロールという「安心」に回帰することで、人々の共感を得たのです。

で、パンクは、「既成の価値観をぶち壊す」という考え方自体も世の中に衝撃を与えて、一時は大きなブームとなりましたが、音楽性は基本単純だったので、飽きられるのも早かった。70年代後半にはもう、人々は次の「スリル」を求め始めたのです。

パンクでスタートしたバンドたちも、パンク要素を多く持っていたアーティストも、センスある人たちは、パンクという今や「安心」となったベースに、新たな「スリル」を足して、「ニューウェイブ」と呼ばれるようになっていきました。

「ニューウェイブ(New Wave)」という言葉は、英国の音楽雑誌「Melody Maker」が1977年、“XTC” と “スクイーズ” を紹介する記事で、初めて使ったところから広がったようです。「新しい波」とは守備範囲の広すぎる言葉ですが、「ニューミュージック」がユーミンのイメージとして捉えられたように、XTCやスクイーズがいたからこのジャンルが生まれたと言ってもよいでしょう。

XTCは3曲入りEP『3D EP』で1977年10月にデビュー、スクイーズも3曲入りEP『Packet of Three』で1977年7月にデビュー。1stアルバムは、XTC『White Music』が78年1月、スクイーズ『Squeeze』が78年3月と、ほぼ申し合わせたような同時期のスタートで、音楽のセンスにもかなり近いものがあると思っています。そしてそのセンスが、私はとても好きです。どういうセンスか? 私は「ひねくれポップ」と呼んでいます。文字通り、一ひねりも二ひねりもあって、でもあくまでもポップ。要するに前述の、「安心」と「スリル」の共存です。ただ、彼らの場合、「スリル」の分量がかなり多目。だいたい50:50くらいですかね。実はそれくらいの比率が私の好みです。だけど、それだと、やはり大きくは売れないんですねー。

両バンドとも同じような売れ行きで、アルバムが英国チャートでだいたい20〜40位あたり、米国ではよくて40位程度といった感じで、“セックス・ピストルズ” や “ザ・クラッシュ” らのパンクバンドに比べるとかなり地味です。ジャンルの代表的存在としてはちょっと寂しいですね。

日本人はスクイーズにもっと評価を


さらに日本では、スクイーズは、売り方が悪かったのか、ほとんど話題にもなりませんでした。マニアックな作品も網羅する、「ミュージック・マガジン」誌の1981年2月号での「ベスト・アルバム 1980」という恒例の特集で、選者30名がそれぞれ10作ずつのアルバムを挙げている中に、スクイーズの『Argybargy』(1980年2月発売)は全く入っていません。XTCの『Black Sea』は2人が選んでいます。“トーキング・ヘッズ” の『Remain in Light』など8人が選び、XTCのアンディ・パートリッジがXTCの音源をリミックスしている『Take Away』というマニアックなアルバムまで4人が選んでいるというのに。



私もXTCは、リアルタイムでも何作か買いましたが、スクイーズは全く知りませんでした。今はどうなんでしょうか? やはり知られてませんよね。

「ひねくれポップ」でもビートルズは売れました。初期はひねくれてない真っ当なポップですが。でも『Rubber Soul』あたりからは、安心:スリル=60:40くらいはいってますよね。だけど彼らは、「安心」部分の “ポップ力” が尋常じゃなかった。あそこまで売れなくてもかまいませんが、スクイーズも日本で、XTCくらいには知られてほしかった&ほしい。

ということで、改めてスクイーズについてザッと紹介。

クリス・ディフォード(Chris Difford:1954年11月4日、ロンドン生まれ / vocal, guitar, 作詞)とグレン・ティルブルック(Glenn Tilbrook:1957年8月31日、ロンドン生まれ / vocal, guitar, 作曲)の二人が全ての曲をつくり、バンドの頭脳です。そこにキーボード、ベース、ドラムの3人が加わって、1974年に結成、前述のように77年にデビュー、78年にはA&Mと契約しました。2ndアルバム『Cool for Cats』(1979年4月発売)からカットされたシングル「Cool for Cats」と「Up the Junction」は2作とも全英2位となりましたが、アルバムは45位止まり。

3rd『Argybargy』(1980年2月)、4th『East Side Story』(1981年5月)、5th『Sweets from a Stranger(甘い誘惑)』(1982年5月)、順に32位→19位→20位で、『East Side Story』からも「Labelled with Love」というシングルが全英4位とヒットしているのに、それもあまりアルバムに響いていません。82年10月に出したシングルコンピレーション『Singles – 45's and Under』が全英アルバムチャート3位と、こちらに反映しました。



この数字だけ見ていると、「シングルはいいけど、アルバムの他の曲がつまらなかったんだろうな」などと判断してしまいそうですが、私の見解は真逆です。

シングルヒットしたそれらの曲はいずれも物足りません。一応「Cool for Cats」は、8分音符で「ソソソソソソレレミミミレミ」という音型とその変形で全編貫くというパンク的な大胆さが面白いのですが、さすがにちょっと単純過ぎるのが残念。そして「Up the Junction」と「Labelled with Love」は、ちっともスクイーズらしくない。安心:スリル=50:50のバンドなのに、その2曲は80:20程度。ポップだけど普通なんです。アルバムには他にいくつも面白い曲があるのに。

『Argybargy』からのシングル「Another Nail in My Heart」は傑作です。50:50です。XTCの名作「Making Plans for Nigel」を凌いでいると思います。個人的にとても好きなのは、Aメロの4小節目毎に登場する8分音符の「ファミレドミレドシ」という「キメ」音型に、ギターソロもそこだけさりげなく合わせるところ…… 細かいけど、細かいところでのセンスの共鳴が、音楽を聴く時の無類の喜びなんですよね。

ただ、ランキングは全英17位止まりです。偶然にも「Making Plans for Nigel」も同じ17位。2位の曲をけなして17位を絶賛する私はやはりひねくれ者? そうかもしれませんが、せめて、XTCの「Making Plans for Nigel」くらいには、日本でも知られてほしい。その価値は充分過ぎるほどにあるので。

スクイーズ最高♪

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2023.02.13
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カタリベ
1954年生まれ
ふくおかとも彦
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