70年代からプログレッシブロック・シーンで活躍したジェネシス。
80年代はポップロックのシーンでも大ヒットを連発、知名度も飛躍的に増しました。また元ジェネシスのピーター・ガブリエルのアルバム『SO』の大ヒットやフィル・コリンズの多方面での成功などジェネシス関連の躍進ぶりは目を見張るものがありました。
個人的にもそれぞれ大好きでしたが、忘れてはならないのがジェネシス創設時からのオリジナルメンバーでありベーシスト兼ギタリスト、マイク・ラザフォードによるプロジェクト、マイク&ザ・メカニックスです。
フィルやピーターに比べるとやや地味な印象のマイク。趣味に走ったマニアックなものになるのでは? という、こちらの勝手な思い込みによる予想をはるかに上回る完璧なポップロックアルバムを作ってくれました。
気になるヴォーカリストはなんと二人。エースというパブロックバンド出身でロキシー・ミュージックやスクイーズでキーボードを担当していたこともあるポール・キャラック(※
スクイーズのコラム参照)とサッド・カフェというソフトロックバンドに所属していたポール・ヤング(80年代に活躍したUKのソウルシンガーとは別人)という二人のポールです。
実に渋い人選ではありますが、かなり私好み。そのWポール(漫才師ではありません、笑)をうまく楽曲によって振り分け(1曲だけWリード)、非常にバランスのいい、かつ斬新なアルバムが仕上がったのです。
やっぱり特筆すべきはシングルでしょうか。まずは「サイレント・ランニング」(全米6位)。ミュージックビデオにタイアップの映画『激突! 空中アトミック戦略 ヒーロー・ボンバー』のシーンが印象的に差し込まれたこの曲、ポール・キャラックの熱唱が光ります。そして “Can You Hear Me” のフレーズがもう頭から離れません。
いきなり名曲認定! 的な曲で来られたかと思うと次のシングルはウルトラキャッチーな「ミラクル(All I Need Is A Miracle)」(全米5位)。ポール・ヤングの爽やかだけれども力強いヴォーカルも良いですね。ビートルズの映画『ヘルプ! 4人はアイドル』に出演していた俳優、ヴィクター・スピネッティとロイ・キニアが登場するコミカルなミュージックビデオもよくできてます(二人とも名優です。是非チェックしてください)。ポール・キャラックもベーシストとしてちゃんと出演しているのが嬉しい。
ちなみに88年アトランティック・レコード40周年記念コンサートではジェネシスでこの曲を演奏してます。フィル・コリンズ・ヴァージョンでも素晴らしい!
続くポール・ヤングのヴォーカルによるシングル「テイクン・イン」(全米32位)はまさにマイク&ザ・メカニックス版AOR。お洒落なコンピに収録していただきたいほどの趣き。引き続きツアーマネージャー役としてロイ・キニアが出演しているミュージックビデオもほのぼのとしていて素敵です(こちらのポール・キャラックはキーボーディスト)。
他のアルバム収録曲も含めてポップなんだけれども飽きのこない、本当によく練リあげられたサウンドが魅力です。彼らは、この3年後にセカンドアルバム『リヴィング・イヤーズ』と同名シングルを大ヒットさせます。
その後は大きなヒットには恵まれませんでしたが、バンド名通りのまさに職人気質の良質なアルバムを作り続けてます(2000年にポール・ヤングが急逝。2011年以降はヴォーカルをアンドリュー・ローチフォードとティム・ハウアーが担当)。
それにしてもジェネシスを牽引していたのはピーター・ガブリエル、スティーヴ・ハケット、フィル・コリンズらと思っていたので、まさにマイクさんゴメンナサイという感じです。
期間限定だからこそ結成し得たメンバー構成だったのかもしれませんが、サイドプロジェクトと呼ぶにはもったいない、あまりに素晴らしく完成されたこのバンド。ツアーでもして来日してほしいものです(個人的にはポール・キャラックで)。
2018.05.03