ドラマ「3年B組金八先生」最終回から3か月後に田原俊彦歌手デビュー
『3年B組金八先生』の最初のシーズンが最終回を迎えたのは1980年3月28日のことだった。当時、ドラマと同じ中3だった身としては格別の思いで桜中学の卒業式を見守ったものだ。生徒のひとり、沢村正治役で人気を得ていた田原俊彦が歌手デビューしたのは、それから3ヶ月とたたない6月21日。
デビュー曲となった「哀愁でいと」はダンサブルで垢抜けておりトシちゃんにピッタリの曲だったが、それもそのはず、洋楽のカヴァーで、オリジナルはレイフ・ギャレットの「ニューヨーク・シティ・ナイツ」で、田原盤がヒットすると、元はB面だったレイフ・ギャレットのシングルも新たなジャケットで再発されてレコード店に並べられていたのを憶えている。
勢いでつい “トシちゃん” と書いてしまったが、当時から今に至るまで、どうしてもそう呼びづらいのは、自分より3つ年上だから(後に4つ違いと判明)。杉田かおるや鶴見辰吾ら役柄と合致する同世代が多かった金八先生の生徒で、田原は実年齢がだいぶお兄さんだった。なので、たのきんトリオでもタメ年の近藤真彦や野村義男は、普通にマッチ、ヨッちゃんと呼べるのに、トシちゃんだけは躊躇してしまうのだ。もちろんあくまでも一視聴者としての話。自分と同い年で田原をトシちゃんと呼べる、爆笑問題の田中裕二がうらやましいが、さすがに氏も本番中以外は「田原さん」呼びなのだろうか。
CMに起用でセカンドシングル「ハッとして!Good」も大ヒット
閑話休題。セカンドシングルの「ハッとして!Good」は、1980年9月21日にリリースされた。ここからがオリジナル楽曲のスタートという意味でも重要な一曲にあたるわけで、クラシックのピアニスト、宮下智の作詞・作曲によるもの。古きよき時代のビッグバンドスタイルの軽快なジャズサウンドを施したのは、アレンジの船山基紀である。船山は後に、自身の編曲作品の中でもベストと言える出来と述懐している。
グリコアーモンドチョコレート&セシルチョコレートのCM曲に起用されてテレビから頻繁に流されたことも手伝ってか、「哀愁でいと」に次ぐ大きなヒットとなる。自身初のオリコン1位を初登場週で記録し、大晦日の『第22回日本レコード大賞』では、同曲で最優秀新人賞を受賞した。松田聖子との熾烈な争いの結果、田原が賞に輝き、近藤と野村が駆け付けて胴上げをする名シーンが生まれた。
当時番組のADで、後にプロデューサーも務めた齋藤薫氏によれば、TBSとジャニーズ事務所との約束で、受賞の際は田原だけが舞台に上がる取り決めになっていたのに、そのことを知らずに応援のために客席にいたふたりをステージへと促してしまい、後で上司に怒られたのだとか。しかし型にはまらない、そうしたハプニング性がより感動的な場面を演出したのではないだろうか。
もともとのタイトルは「Sweet Situation」?
「ハッとして!Good」はもともと「Sweet Situation」のタイトルで、キャニオン・レコードのディレクターだった羽島亨氏のもとへ宮下が持ち込んだ曲であった。CMソングへの起用自体は既に決まっており、楽曲の選定に難航していた中で、最終的にはプロデューサーのジャニー喜多川のジャッジで採用が決められた。
その辺りの嗅覚はさすがである。グリコチョコレートのCMでの強烈な印象は、この曲の最大の強みといえる。リアルタイムで聴いた世代なら、田原本人が出演して松田聖子との初々しくも仲睦まじいカップルに扮していた光景が、メロディと同時に思い浮かぶだろう。
当時の田原ファンたちはヤキモキし、それが『ザ・ベストテン』で隣同士に座らせない事件へと発展していったわけで。松田聖子ファンの自分としては田原に敵意を抱くどころか、むしろ似合いのふたりと思って見ていたのだが、女性ファンと男性ファンでは好きのベクトルがかなり異なるらしいというのを実感されられた曲でもあった。なにしろ前任が三浦友和と山口百恵のCMだっただけに、このふたりはもしかするともしかするかもと思った次第。田原ファンの女性の中にもそれを望んだ寛大なファンはいたのかもしれない。
歌詞の内容にリンクするCMは青春ストーリー仕立て
CMは歌詞の内容にリンクして、高原のテレフォンボックスが登場する。八ヶ岳の麓、清里でロケが行われた。電話をかけている松田と出会った田原が一目惚れし、テニスコートなどでの偶然の出会いが重なって互いに惹かれ合ってゆくという青春ストーリー。
おどけて見せる松田の表情がたまらなく可愛かった。ふたりの名にかけた “聖俊コンビ” へのスポンサーの期待度は相当に高かったようだ。この2年後には、渡辺徹と小泉今日子が同CMを引き継いで共演し、そこで使われた渡辺のセカンドシングル「約束」がヒットしている。
ちなみに、グリコとは競合関係にあたる森永製菓がスポンサーだったフジテレビ『夜のヒットスタジオ』ではヒット中にも拘わらず「ハッとして!Good」が歌えず、代わりにB面だった「青春ひとりじめ」が披露された。こちらは網倉一也の作曲。網倉はこの後も「悲しみ2ヤング」「ピエロ」などの楽曲を手がけ、「キミに決定!」や「NINJIN娘」など多くの作品を提供してゆく宮下と共に、田原のヒットソング群を形成した作家陣の一角を担う。1982年の「誘惑スレスレ」は、宮下の作詞、網倉の作曲によるものだった。
パフォーマンスのキレは健在! 日本が誇るエンターテイナー田原俊彦
間もなくリリースされる初のオールタイムベスト『田原俊彦 オリジナル・シングル・コレクション 1980-2021』では、全て最新リマスターによるオリジナル音源でそれらの楽曲を聴ける。「ハッとして!Good」はその中でも、一段と輝くヒットソングである。デビュー42年目、そして還暦を迎えることが信じられないくらい、現在の田原が見せてくれるパフォーマンスもキレがあって実に素晴らしい。正に日本が誇るエンターテイナーの名に相応しい存在ではないだろうか。
今回は5枚のCDに加えてDVDも内包され、『氣志團万博2019』のライブ映像を収録。「抱きしめてTONIGHT」で始まるヒットメドレーには、もちろん「ハッとして!Good」も組み込まれている。現在進行形のトシちゃんが歌うかつてのヒットソングも必見である。あ、ついまたトシちゃんと言ってしまった。ごめんなさい。
特集 田原俊彦 No.1の軌跡
2021.08.13