3月26日

サザン・アクセンツ — 薄い月明かりの下でトム・ペティを口ずさんだ夜

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トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの「サザン・アクセンツ」が米国でリリースされた日
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photo:UNIVERSAL MUSIC  

トム・ペティがこの世を去ってから1年あまりが経つ。2017年10月、その日の朝に危篤と知り、夜には訃報が届いた。僕は夜道を歩きながら、雲間にぼんやりと浮かぶ月を眺めていた。

頭の中をトム・ペティの曲が、まるで終わりのない螺旋階段のように流れ続けた。

「フリー・フォーリン」
「ヒア・カムズ・マイ・ガール」
「ラーニング・トゥ・フライ」
「ストレイト・イントゥ・ダークネス」

そして、気がつくと、僕は「ドント・カム・アラウンド(Don't Come Around Here No More)」を口ずさんでいた。

この曲を知ったのは、高校1年の春。ユーリズミックスのデイヴ・スチュワートがプロデュースに参加しており、ストレートなロックンロールというよりは、少し捻じ曲がった雰囲気のナンバーだった。


 もうこの辺をうろつくな
 もうこの辺をうろつくな
 何を探してるのかは知らないが
 ヘイ もうこの辺をうろつくな


ミュージックビデオでは、『不思議の国のアリス』の設定を借り、うろつくアリスをトム・ペティが食べてしまう。いかにもデイヴ・スチュワートが好みそうな、薄気味悪いユーモア感覚を持ったビデオだった。でも、そこには中毒性があったし、突き放すような歌詞も気に入って、僕はこの曲が収録されたアルバム『サザン・アクセンツ』を手にしたのだ。

『サザン・アクセンツ』は、バラエティに富んだアルバムだった。「ドント・カム・アラウンド」のような捻じくれたナンバーもあれば、「反逆者(Rebels)」に代表される決意に満ちたロックンロールもあった。そして、バラードからは、滲み出るような叙情性が感じられた。

トム・ペティはウエストコーストを活動の拠点としていたが、元々はアメリカ南部の出身である。タイトルナンバーの「サザン・アクセンツ」=「南部訛り」では、そんなトムのアイデンティティが見え隠れする。


 南部訛りの土地から俺はやって来た
 若い奴らが田舎だと言い
 北部の奴らが最低呼ばわりする場所
 俺には俺のしゃべり方があるし
 何だって南部のやり方でやるんだよ
 俺の故郷ではね


ゆったりとしたメロディーが、南部の広大な土地と、たゆたうような風を想起させる。この曲とアルバムのラストを飾る「ベスト・オブ・エヴリシング」で聴ける懐の深さ、ノスタルジックな情感は格別だ。

アルバムの曲順だと、「ドント・カム・アラウンド」の次が「サザン・アクセンツ」である。異なるタイプの曲だが、違和感はない。それはアルバム全体を、巨大な背骨が貫いているからだろう。今になってみて思うのだが、僕をなにより魅了したのは、大地をしっかりと踏みしめているかのような、トム・ペティ自身の揺るぎなさだったのかもしれない。

そして、あの夜、気がつくと、僕は「サザン・アクセンツ」を口ずさんでいた。薄い月明かりの下、トム・ペティの音楽と出会った頃の自分と彼の死が、時空を超えて繋がり、ひとつの弧を描いたように思えた。

トム・ペティがこの世を去ってから1年あまりが経つ。そして、今日(10月20日)はトムの誕生日だ。もう悲しくはない。でも、ほのかな淋しさは、薄い膜のように心の底に貼り付いたままだ。あの夜の想い出とともに、それはこれからも残り続けるのだと思う。

2018.10.20
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  YouTube / tompetty


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カタリベ
1970年生まれ
宮井章裕
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