3月25日

唯一無二の「イモ臭さ」それが個性のポール・ヤング

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ポール・ヤングのセカンドアルバム「シークレット・オブ・アソシエーション」がリリースされた日(心の道標 収録)
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photo:SonyMusic  

ヴォーカルなら女性より男性、ソロよりかはグループ。別に決めているわけではないけれど、普段聴く音楽を分類するとそんな感じになる。でも棚を見ると、80年代には結構男性ヴォーカルものを聴いていたようだ。

「ラブ・サムバディ」で一目惚れしたリック・スプリングフィールドは『タオ』まではほぼ揃っている。ブライアン・アダムスは「ラン・トゥー・ユー」と「ヘヴン」の12インチを持っているし、今も知っている人がいるのかいないのか、活動しているのかいないのか、「サングラス・アット・ナイト」で暗くややヒステリックな歌声を響かせたコリー・ハート、「イフ・アイ・ウォズ」(だけ?)でチャートを賑わせた元ウルトラ・ヴォックスのミッジ・ユーロ、中学生の一時期聴く度に涙していたジョン・ウェイトの「ミッシング・ユー」。

ラジオの「全米トップ40」と、眠りに落ちなければその後の「全英トップ20」は毎週末の楽しみで、特に小さな島国イギリスから大国アメリカに進出するアーチストに注目していた。カジャグーグーのリマールやワムのジョージ・マイケルほどには売れなかったが、ポール・ヤングはそんなアーチストの一人だった。

かすれているようにも聞こえる独特な声(ソウルフルというらしいが本当にソウル?)、どこかぎこちない危うい歌い方とサウンド。ベースのまったりした音と垢抜けないヴォーカルのせいで、そう聞こえたのではないかと思うけど、スヌーピーこと今泉さんの「イモ臭い」という形容(放言?)に、言いえて妙と感心したのを覚えている。

ファーストアルバムの『何も言わないで(No Parlez)』という題名も奇妙に響いた。フランス語を職業にするようになった今、初学者でもしない間違いを敢えて題名につけたところがやっぱり変わっている。タイトル曲はカヴァーだから、ポールは選んだだけだとしても。

マーヴィン・ゲイによるずばりソウル「愛の放浪者(Wherever I Lay My Hat)」をカヴァーすればどんよりまったり。ホール&オーツのアルバム曲を世に知らしめた「エブリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」、ジョイ・ディヴィジョンの「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」、ジャック・リーの「カムバック・アンド・ステイ」、アメリカのフォークバラード「愛の絆(Love of the Common People)」。

どれもほんとうに優れたカヴァーだと思うが、ポールのオリジナル曲「心の道標(Everything must change)」と並べると、一聴、すべてポールの曲になっているのがわかる。どれもこれも、フレットレス・ベースを全面に押し出したどんよりまったりの曲で、どんくさく、そして野暮ったい。

前述のスヌーピーさんだったか湯川れい子さんだったか、ポール・ヤングの「イモ臭さ」が失われてゆくのを嘆いていたが、僕もそんな貴重な「イモ臭さ」が好きだった。だからというわけではないけれど3枚目以降聴かなくなってしまったし、今も持っていない。久しぶりにアルバムをとりだし、少しネットで調べてみたらLos Pacaminosというバンドでツアーをしていたらしい。

名曲を発掘する嗅覚、あくまで自分色に染めてしまう編曲、自国語(英語)にこだわらない(どうにもかっこいいとは思えない)題名やバンド名。ポール・ヤングはそんな個性の、唯一無二のアーチストだった。

2017.02.08
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カタリベ
1970年生まれ
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