大学時代、恐ろしく美形の先輩がサークルにいた。デュラン・デュランのサイモンを地で行くようなフェイス。見た目はリック・スプリングフィールドの「ジェシーズ・ガール」のジャケットそのままのタンクトップとブラックデニムのファッション。休み時間になると大抵ウォークマンで音楽を聴きながら、部室に煙草を吸いにやってくる。
その道すがら、通り過ぎる女の子たちから「誰?あの人…ちょっとカッコイイよね。」なんて声が漏れてくる。途中、先輩が学生食堂で煙草を吸って口の中が苦くなり、子供みたいにメロンソーダを口に流し込むとそれに気付いた隣の席の女子が「フフフ…」と楽しそうに笑う。美しい青年が見せる子供じみた仕草が母性本能をくすぐってしまうというシーンを私はテレビドラマ以外で初めて見た。なぜか一緒にいる僕たちの方が恥ずかしくなってしまいホント参ってしまう。
そして、そんな彼が部室でアーケイディアやパワーステーションを聴きながら気分が高まってくる頃を後輩たちは狙っている。煙草を吸いジュースに口を付ける。紙コップの中身が空になる。その瞬間を見計らって「先輩、ジュース買ってきますか?」と聞く後輩。「おう。」と答えて財布からコインを出す先輩に追い打ちをかけるように言う。
「リック先輩、メロンソーダで良いですよね。」
先輩は「お前ら仕方ねぇなぁ」と言いながら満更でもない様子。そして、そこにいた後輩全員がジュースを御馳走になった。リック・スプリングフィールドを意識しているのを見透かされ『リック先輩』はちょっとだけ照れた顔をしてアルバム『TAO』(1985年)をダビングしたカセットをデッキにかけた。
Walking On The Edge
作詞・作曲:Rick Springfield
発売:1985年(昭和60年)3月27日
2016.01.30
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