3月3日

ハードロックの中森明菜「Stock」キーパーソンは北島健二とマイケル・ツィマリング

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妄想―― もしも中森明菜がハードロックやヘヴィメタルを歌ったら…


長く音楽を聴いてきた方々なら、自分が聴く音楽で、現実には叶わぬ妄想を抱いたことはないだろうか? 例えば、好きなアーティスト同士を組み合わせて夢のバンドを作ってみたり、カバーしたら合いそうな曲を考えてみたり… そうした妄想をあれこれ抱く時間は、音楽ファンなら案外楽しいものだ。

僕の場合、色んなジャンルの上手いシンガーを聴くと、自分が好きなハードロックやヘヴィメタルをこのシンガーが歌ったらどうなるだろう? と、たまに妄想することがある。

とはいえ、あまりにかけ離れたものではなく、まずは他ジャンルの中にあるハードロックやメタル “らしさ” を見い出すのがきっかけになるだろう。80年代当時、そんな風にしてハードロックらしさを感じた1曲が、以前のコラム『中森明菜に見いだしたハードロック魂!攻めのロックナンバー「1/2の神話」』で書いた中森明菜の「1/2の神話」だった。

同曲のリリース後、明菜がトップアイドルとしてスター街道を邁進する中で、ロック路線の「十戒」や、ハードロック色強めの「LA BOHÈME」といった楽曲を聴くたびに、やはり明菜とロックの相性の良さを一層強く感じずにはいられなかった。

できればもう一段ギアを上げた「ハードなロックに染まる明菜」を体験したい。そんな願いに応えてくれたのが、12枚目のオリジナルアルバム『Stock』だ。ここではあくまでもハードロック、メタルファン目線から、そのサウンドの魅力に改めて触れてみたい。

女性シンガー「ハードロック化」請負人! 北島健二の非凡なるアレンジ力


『Stock』は、1985年から87年の3年間に、シングル候補として制作し、“ストック” された中から、ロックテイストの楽曲を集めて完成させたことは、ファンにとって周知の通りだ。

著名な作家陣がこぞって名を連ねているだけに、楽曲クオリティの高さは改めて言及するまでもないだろう。ただし、本作がハードなロックを標榜するのであれば、その良さを活かせるか否かは、アレンジ能力にも左右されるはずだ。ロックに精通しているのは当然として、一方で明菜の歌を最大限に輝かせるポピュラリティとのバランス感覚が重要となる。そうした意味で、大半のアレンジに関与したキーパーソン、北島健二の起用は大きなポイントだ。10代よりビーイングを起点にプロギタリストとして活動し、1981年にアルバム『反逆のギター戦士 ~ Zodiac』でソロデビュー。若くして卓越したテクニックで数々のスタジオワーク、セッションをこなした。とりわけジャパメタファンには、浜田麻里の初期作での活躍で知られている。

90年代にはパール、近年ではアニソン歌手、水樹奈々のバンド等でも活躍しているが、あくまでも歌を立てながら、ロックのエレメントを注入し、ハードなアレンジに仕立てる能力に長けている。ハードロックを標榜する女性シンガーのパートナーとしては、まさに適任だ。

『Stock』の制作に関与していた頃は、ちょうど自身のバンド、フェンス・オブ・ディフェンスの活動も絶好調で、北島の創造力にも磨きがかかった時期と言えるだろう。

日本ロックのサウンドクオリティを推し上げた、マイケル・ツィマリング起用!


制作面におけるもう1人のキーパーソンが、ミックスを担当したドイツ人エンジニアのマイケル・ツィマリングだ。

80年代には7年間も日本に在住した異色の経歴を持つマイケルは、佐久間正英氏とのスタジオワークを基軸に、当時の日本のロックシーンと密接な関係を構築。ベルリンでレコーディングしたBOØWYを筆頭に、GLAY、ストリート・スライダーズをはじめ、数多くの有名ロックバンドの作品において、音作りを行ってきた人物だ。自らが手掛けた日本人アーティスト達のサウンドクオリティを、欧米レベルに底上げするのに少なからぬ貢献を果たしてきた。

そんな80sジャパニーズロックシーンにとってもキーパーソンであるマイケルが、トップアイドルの中森明菜とこのタイミングで交じり合ったのは意義深い。マイケルのエンジニアとしての高い技量により、『Stock』は特徴ある強いアタックの効いたドラムサウンドと、クリアで分離がよい残響感のある上質なロックサウンドに仕上がった。

かくして、ロックを熟知した北島とマイケルの組み合わせに加え、関与した全ての制作陣のプロフェッショナルなチカラを結集。創られた土台の上に、キャリア史上でも脂の乗り切った時期に収録された明菜の珠玉のボーカルが重なっていく。

アイドルとしては異例のシングル未収録ながらも、結果として、明菜ファンならずとも納得する本格派ロックアルバムが誕生したのは、このスタッフィングの妙から必然の結果といえるだろう。

ハードロック&メタルファン目線で「Stock」全10曲を振り返る!


タイトルとは裏腹にオープニングを告げる「FAREWELL」。徐々に音数が増えていくアレンジが、アルバムへの期待感を抱かせる。サビに合わせてスピード感のあるリズムが走り出し、抑え目だった明菜のボーカルも伸びやかなビブラートを伴い響き渡る。タイトでデジタルテイストの音像は今聴いても古さを感じずロックそのものだ。

ホーンセクションをフィーチャーした「夢のふち」は、北島のアレンジではなく、ロックという観点では本作で最も遠い印象を受けるが、メランコリックなメロディと明菜の情熱溢れる歌唱が実に印象的だ。

ロックナンバーは続かない? と油断していると、ヘヴィで粘り気のあるギターリフが、ガツンと脳天を直撃する「CRYSTAL HEAVEN」が始まる。これも北島のアレンジでないのは意外だが、松原正樹によるロックテイストも素晴らしい。歌謡ロックをアップデートしたような作風で、明菜の不良少女路線の完成形といった雰囲気も漂う。

80sアメリカンハードロック風味の「まだ充分じゃない」は、ボン・ジョヴィあたりの影響を強く押し出した爽快な楽曲だ。メジャー主体の曲調と明菜のウェットで哀感のあるボイス、切なげな歌唱のアンバランスさが、絶妙な味わいを醸し出す。

当時大ブレイク中のガンズ・アンド・ローゼズを彷彿とさせる、ジャングルビートと怪しげでヘヴィなギターリフが光る「FIRE STARTER」。明菜もいつになくワイルドな歌唱を披露しており「Watch Out!」の叫びは強烈だ。

LPではB面トップ飾る「NIGHTMARE 悪夢」は、イントロからヘヴィなギターとパワーコードリフを主体にした真性ハードロックだ。作曲も含め北島ワールド全開で、浜田麻里あたりが歌ってもおかしくないジャパメタテイストを漂わせる。中低音域を駆使した明菜の歌唱は、ジャパメタならではの侘び寂びを見事に表現しており、僕の妄想を具現化してくれた1曲でもある。

強烈なギターのフィードバックとアーミングで始まる「I WANNA CHANCE」は、エッジの効いたTOTOといった印象のドラマティックなハードロックが展開される。北島の弾きまくるギターと、明菜の憂いを湛えた歌唱のコントラストが実にいい。

ピアノのリフレインが印象的な「POISON LIPS」は、ハードなロックのダイナミズムを保ちながらも、シティポップ然とした洒落た感覚を理想的なバランスで同居させた珠玉のナンバーだ。表現が難しそうな曲調も、一瞬で明菜色に染める彼女の見事な歌いっぷりに心揺さぶられる。

ミッドテンポのリズムで迫る「処女伝説」は、ホーンとクリーン&ディストーションギターが絶妙に絡み合うアレンジの妙が光る1曲。中間部の楽器陣の絡み合いは実にスリリングだ。空間を生かしたアレンジで、明菜の声の魅力と巧さも存分に堪能できる。

最後を飾るのはダンサブルな「FOGGY RELATION」。ロック度は多少低めながら、リズミカルなギターワークに乗せて弾ける、ポジティヴで軽快なフィーリングが心地良い。どんな曲調も明菜ワールドに引き寄せて歌いこなすチカラを、改めて実感させられるだろう。



80年代のジャパメタファンにこそ聴いてほしい! 中森明菜「Stock」の凄み


アイドルとしては異例の、シングル曲を含まないアルバムという果敢な挑戦は、明菜がアーティストとしての真骨頂を見せつける全10曲に仕上がった。強力な制作陣が明菜の持つロックへのポテンシャルと親和性の高さを、想像以上に引き出す結果となった。

個人的には、明菜にジャパメタを歌ってほしい妄想が、図らずもほぼ実現に近づいた奇跡のアルバムと言っても過言ではないだろう。多くのハードロック、ヘヴィメタルファン、とりわけジャパメタファンにこそ、この珠玉の1枚を聴いてもらいたいと願ってやまない。

明菜のアルバムデビュー41周年を記念して、2023年の7月1日に『Stock』が再発される。昨今の明菜に対しての再評価の高まりが、こうした過去の重要作の積極的な再発へと繋がっているのは喜ばしいことだろう。

今回のリイシューに際しては、2023年マスタリングのオリジナルカラオケCDが付属される。明菜の歌声を彩ったハードなアレンジのバッキングトラックにも、集中して耳を傾けてみてほしい。明菜をロックの女王に昇華させた、あの時代の音作りの凄みが垣間見られるはずだ。

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2023.07.02
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