8月25日

令和の中森明菜ブームがとまらない!全曲英語詞の意欲作「Cross My Palm」

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4月には「AKINA EAST LIVE INDEX-XXIII」が劇場公開。活動再開への期待が高まっている中森明菜


令和の明菜ブームがとまらない。

昨年、NHKで放送されて評判となった1989年のライブ映像『AKINA EAST LIVE INDEX-XXIII』が本人の音声コメント付きで4月に劇場公開されたことは記憶に新しいが、リマインダーの特設サイトを通じて行われた『80年代アイドル総選挙 ザ・ベスト100』でも堂々の第1位。しかも全世代(19歳以下 / 20代 / 30代 / 40代 / 50代 / 60歳以上)でトップを飾る完全制覇だった。

2017年のディナーショー以来、表舞台から遠ざかっているものの、昨年8月にTwitterで新事務所設立を宣言。活動再開への期待が高まっていることも背景にあったかもしれない。

とはいえ注目度はそれ以前から高かった。テレビや雑誌で組まれる歌謡曲の特集では必ずと言っていいほど明菜をフィーチャー。特筆すべきは80年代をともに過ごしたリアルタイム組だけでなく、近年は平成生まれの若いファンが増えているということだ。

昨今の大人数型アイドルにはない、1人で歌の世界を構築し、余すところなく表現する。その魅力が動画サイトや定額制音楽配信サービスの普及で、世代を超えて拡散、浸透しているのだろう。昨年8月に放送された『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日系)の「昭和の伝説的アイドルベスト20」では平均年齢15歳の少年少女による投票で、山口百恵、松田聖子を抑えての1位だった。

高セールスを記録している「ワーナーイヤーズ・全アルバム復刻シリーズ」


過熱する人気を裏付けるがごとく、昨年、デビュー40周年を記念してスタートした『ワーナーイヤーズ・全アルバム復刻シリーズ』も軒並み高セールスを記録している。過去に何度も再発されてきた明菜のアルバムだが、今回は2〜3ヶ月ごとに3タイトルずつをリリース。

全曲のオリジナルカラオケを初めて収録しているほか、アナログのふくよかな音に近いラッカーマスターサウンドの採用や当時の宣材の緻密な復刻など、てんこ盛りの企画となっていることに加え、ファン層が拡大したことがヒットの要因と言えそうだ。

すべて英語詞で歌った意欲作「Cross My Palm」


前置きが少々長くなった。その復刻シリーズの第6弾として本日(7月1日)発売されたのが今回取り上げる『Cross My Palm』(「運命を占う」の意)である。初出は1987年8月25日で11作目のオリジナルアルバム。外国人作家から提供された12曲をすべて英語詞で歌った意欲作だ。

当時の明菜はデビュー6年目の22歳。前年に日本レコード大賞2連覇を達成しただけでなく、音楽ソフトの総売上でも3年連続(1985〜1987年)で1位に輝くなど、名実ともに歌謡界の女王として君臨していた。音楽面では洋楽A&R出身の藤倉克己氏が2代目ディレクターに就任して以降、洋楽的でアーティスティックな路線にシフト。人気も実力も国内無双の評価を確立していたので、新たな地平を求めて全曲英語詞のアルバムに行きつくことは必然と言えた。

しかし、かつてのピンク・レディーや松田聖子のように海外進出を見据えたものではなく、あくまでも国内向け。巷では “ニューヨーク録音” とされているが、実際はオケも歌も国内でレコーディングされており、ミックスだけをロサンゼルスで行ったという。「どうしてそんな情報が出回ったのか」。藤倉氏は首をかしげるが、そういう都市伝説が流布して定着してしまうのも、彼女がビッグスターたる所以。

松田聖子をはじめとするアイドルがリリースした英語詞のアルバム


それはさておき、80年代後半はアイドルが英語詞のアルバムをリリースすることがちょっとしたムーヴメントになっていた。筆者が知る限り、明菜以外では以下の4タイトルが挙げられる。

■ SOUND OF MY HERAT / 松田聖子(1985年8月)ニューヨーク録音
■ YU’S GOODS / 早見優(1986年7月)
■ OVERSEA / 本田美奈子(1987年6月)ロサンゼルス録音
■ VERGE OF LOVE / 荻野目洋子(1988年12月)サンフランシスコ録音



帰国子女で、自らの曲を英語でカバーした早見優以外はいずれも米国でレコーディングしたオリジナルアルバム。時あたかもバブル景気で、海外で仕事がしやすかった側面もあろうが、松田聖子はフィル・ラモーン、荻野目洋子はナラダ・マイケル・ウォルデンという、グラミー賞受賞歴のある大物がプロデュースしたことも話題を呼んだ。ちなみに本田美奈子のアルバムにはマイケル・ジャクソンのスタッフが関わっている。

歌唱力に定評のあるアイドルがアーティストへ進むステップとして、英語で歌うアルバムをリリースする。そんな戦略が存在していたことが見て取れるが、『Cross My Palm』に関しては大物プロデューサーを迎えたわけでも、海外録音をしたわけでもなく、箔付け的な要素は皆無。アルバム1作ごとに音楽的な挑戦を続けてきた延長にあったという点が明菜らしい。

楽曲の完成度やアルバム全体のバランスを基準に12曲をセレクト


制作は洋楽を扱う音楽出版社を通じて、外国人作家の楽曲を集めることから始まったという。寄せられた数百曲のなかにはマイケル・ジャクソンが作詞・作曲を手がけた作品もあったそうだが、名前で選ぶことをしなかった明菜プロジェクトは採用せず、楽曲の完成度やアルバム全体のバランスを基準に12曲をセレクト。結果的に洋楽の人気アーティストの曲を手がけている作家の作品が収められることになった。

たとえば「SLAVE FOR LOVE」「EASY RIDER」はアイリーン・キャラ、マイケル・センベロ、ロバート・パーマーらに書き下ろしていたデイヴィッド・バチュー、シングル「BLONDE」の原曲「THE LOOK THAT KILLS」は世界的なヒットを記録した「Kung Fu Fighting」(1974年 / カール・ダグラス)を手がけたビドゥ、「HOUSE OF LOVE」はフリートウッド・マックにも提供していたシンガーソングライターのサンディ・スチュワート、「HE'S JUST IN LOVE WITH THE BEAT」はパット・ベネターのアルバム制作に関わっていたソングライターチームといった具合だ。

収録曲を決めた藤倉氏はいつもどおり、明菜のキーに合わせたオケを制作するが、そこで思わぬ事態に直面する。オケを聴いた本人が「デモテープと同じキーで歌いたい」と言い出したのだ。作家から提出されたデモテープを繰り返し聴いているうちに、自分のなかでイメージが出来上がっていたのだろう。その意向を尊重することにした藤倉氏は彼女のコンサートの音楽監督を務めていた藤野浩一氏に連絡。バックバンドのファンタスティックスの演奏でオケを録り直したという。

大ヒットが確実な明菜プロジェクトだからこそ可能だった決断。それでもスケジュールや予算を管理するディレクターとしては胃が痛かったに違いない。

こうして完成したオケに明菜は曲ごとに違った表情、異なるスタイルのヴォーカルを乗せる。「THE LOOK THAT KILLS」などで、それまでにない超ハイトーンボイスを聴かせる一方、「MODERN WOMAN」ではアンニュイに、「SOFT TOUCH」では官能的に――。このアルバムが当時流行していたオムニバス形式の洋画サントラ盤と重ね合わされるのは、作家が作ったデモテープの世界観に限りなく彼女が寄り添ったからに違いない。だからこそ12通りの表現となったわけだ。

肝心の英語に関してはこんな逸話がある。本作のエンジニアを務めたフランシス・バックリー(1997年にグラミー賞を受賞)は明菜のヴォーカルが入ったチャンネルだけを聴いたときは「何を言っているのか分からない」という反応だったが、オケと一緒に聴いた途端、「分かる」と言ったらしいのだ。おそらくデモテープの音源をサウンドごと自分の身体に採り入れ、十二分に咀嚼してからレコーディングに臨んだからだろう。



言語を超えた表現力、情念の歌い手とも言われる中森明菜のヴォーカル


ありがたいことに筆者は歴代の担当ディレクター(島田雄三氏、藤倉克己氏、川原伸司氏)に直接話を聞く機会に恵まれてきたが、3人が異口同音に証言するのは類まれな表現力。情念の歌い手とも言われる中森明菜のヴォーカルは言語を超えて聴き手に訴える力があるのだろう。

本日2023年7月1日に発売となった『Cross My Palm』3アイテム(2CD / Blu-ray / 2CD+Blu-ray)のブックレットには、1987年12月にVHSとレーザーディスクの2形態でリリースされた同名映像作品に関する藤倉氏の制作回想記も掲載されている。構成を担当している筆者が言うのは宣伝めいて気が引けるが、ディレクターしか知り得ない情報が満載なので、リアタイ組も、令和のファンも、ぜひ真剣勝負のプロジェクトの熱気を感じ取っていただきたい。

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2023.07.01
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