80年代のビーチ・ボーイズ、「ココモ」と「ゲッチャ・バック」
ザ・ビーチ・ボーイズの80年代を代表する曲といえば、全米1位を記録した「ココモ」が一般的だが、1985年5月8日にリリースされた「ゲッチャ・バック」もまた忘れ難い佳曲だ。
ビーチ・ボーイズは、1983年12月28日にドラマーのデニス・ウィルソンを事故で失っている。「ゲッチャ・バック」は、バンドがその悲しみを乗り越えて最初にリリースした曲だった。
リズムパターンから伝わる、デニス・ウィルソンへの追悼
ビーチ・ボーイズの陽性な面がよく出た典型的なウエストコースト・サウンドのこの曲は、マイク・ラヴとテリー・メルチャーの共作。ブルース・スプリングスティーンの「ハングリー・ハート」にインスピレーションを受けて書かれたという。とはいえ、スプリングスティーンにしても、ビーチ・ボーイズをはじめとする60年代のポップミュージックを念頭に「ハングリー・ハート」を書いたはずなので、お互いにとって実りある連鎖だったと言えるだろう。
注目すべきは、この曲のドラムが打ち込みであること。デニスの不在を思うと実に象徴的だ。名曲「ドント・ウォーリー・ベイビー」を彷彿させるリズムパターンに、メンバーからデニスへの追悼の気持ちが伝わってくる。全員で1本のマイクを囲みコーラスを録音したという逸話もあり、もし事実なら感動的だが、実際はどうだったのだろう。
アルバムのプロデューサーはスティーヴ・レヴィン
この曲を収録したアルバム『ザ・ビーチ・ボーイズ '85』は、プロデューサーに当時カルチャー・クラブを手掛けていたスティーヴ・レヴィンを起用。ボーイ・ジョージやスティーヴィー・ワンダーが曲を提供し、ゲイリー・ムーアもギターで参加するなど、時代に寄った面もあったが、基本はメンバー全員が自作曲を持ち寄り、デニス亡き後もバンドを続けていこうと結束する様子が窺える。
個人的に印象的だったのはミュージックビデオで、「ゲッチャ・バック」とそれに続くシングル「イッツ・ゲッティン・レイト」が連作になっていることだ。2曲目の途中、夜の波間から現れるサーファーは、海で溺死したデニス・ウィルソンを思わせるし(デニスはバンドで唯一人のサーファーだった)、また最後のシーンでは、ブライアン・ウィルソンがそのサーファーの持ち込んだ貝がらに耳に当てると、アルバム収録曲の「カリフォルニア・コーリング」が聞こえてくる。この曲でドラムを叩いているのが、リンゴ・スターなのだ。故デニスに捧げたドラムマシーンの打ち込みに始まり、リンゴのドラムで終わる物語。美しいではないか。
全米チャート26位、夏の手前でヒットした「ゲッチャ・バック」
「ゲッチャ・バック」は、1985年6月29日付の全米チャートで最高26位を記録している。その週に1位だったのがブライアン・アダムスの「へヴン」。他にもプリンス&ザ・レボリューションの「ラズベリー・ベレー」や、デュラン・デュランの「美しき獲物たち(A View to a Kill)」などがトップ10にランクインしていた。季節はまだ梅雨とはいえ、夏至を過ぎ、少しずつ夏が近づいて来ている頃だった。
数ヵ月前には、デイヴ・リー・ロスがビーチ・ボーイズの名曲「カリフォルニア・ガールズ」をヒットさせていたこともあり、タイミングも悪くなかったのだろう。ラジオでもよくオンエアされていたし、ミュージックビデオをテレビの画面で楽しく観たのも懐かしい。
あれから35年がたった。今年はどんな夏になるのだろう。
2020.07.04