誰もが知って歌えたピンク・レディーの大ヒットソング
デビューから丸2年が経った1978年9月9日、人気絶頂のスーパーアイドル、ピンク・レディーの9枚目のシングルとして発売された「透明人間」は、前作「モンスター」に続いて週刊チャート1位を獲得。年間チャートでも6位を記録する大ヒットとなった。この後の「カメレオン・アーミー」も1位に輝くのだが、年末の紅白歌合戦を辞退したあたりから、レコードの売上げが少しずつ下降してゆくことになる。1979年に入ってから出された「ジパング」は首位に届かなかった。それでも充分すぎるヒットであったわけだが。
そういった意味では、誰もが知って歌えたピンク・レディーの大ヒットソングというのは「透明人間」か「カメレオン・アーミー」までなのかもしれない。明らかなピークは「UFO」、「サウスポー」だったろう。
それにしても、阿久悠×都倉俊一のコンビはよくぞここまで、奇抜ながらも覚えやすく親しみやすいノヴェルティタイプの優れた楽曲を次々と生み出したものだとつくづく感心してしまう。放送作家から作詞家へ転じた阿久悠のトレンドを読み込む力と、10歳以上も年下だった作曲の都倉俊一の若きセンスが最高の形で組み合わさった奇跡的な作品群だったのだ。
カップリングは「スーパーモンキー孫悟空」
「モンスター」までは大人の男性へ向けたお色気要素も盛り込まれていたものの、「透明人間」ではそれが一切見られず、一気に対象年齢が引き下げられたような気がする。ともすれば人間の煩悩を惑わす題材の透明人間をあえて健全な内容にしたのは、それまで以上に低年齢層を意識したためであろうか。タイムマシンを使える「ドラえもん」の世界に、子供の世界とはいえ不自然なくらい犯罪や金儲けの話が出てこない(近いものは少しはあったが)のと同じ思考かもしれない。
単純にカップリング(シングルのB面)が、やはり子供たちに絶大な人気があったドリフターズのテレビ人形劇『飛べ!孫悟空』の主題歌「スーパーモンキー孫悟空」だったこともある。「透明人間」はトリッキーなピンク・レディーの楽曲の中でも、もっとも「およげ! たいやきくん」のラインに近い作品といえるだろう。
そんな無粋な考察は抜きにして、「透明人間」は無類に愉しい楽曲である。なんといっても『ザ・ベストテン』での演出が忘れられない。ピンクのシースルーの衣装で歌う二人の姿が透明人間のように消えたり現れたりする映像処理が話題となる。正に "ショック!" だった。
スタジオに来られなかった週では、順位が発表されてミラーゲートから登場するところから姿が見えないという設定に。歌い始めたところでようやく二人が姿を現すという体でVTRが流されるという凝った演出が施されたこともある。10週にわたってランクインした『ザ・ベストテン』での最高位は4位に終わった。
"現れないのが透明人間"という見事なロジック
阿久の著書『歌謡曲の時代 歌もよう人もよう』の記述によれば、"透明人間あらわる" というフレーズは、少年の頃に観たという特撮映画『透明人間現わる』(1949年)に由来するものだったそう。30年の時を超えて、1978年の少年たちに響いたことになる。
最終的に "現れないのが透明人間" というロジックで落とすところもお見事。ピンク・レディーの曲の中では改めて語られる機会が少ないかもしれないが、今でも時折無意識に口ずさんでしまうことがたまにある、実にインパクトのある作品なのだ。
特集! ピンク・レディー伝説
▶ ピンク・レディーのコラム一覧はこちら!
2023.01.18