11月25日

大滝詠一「レッツ・オンド・アゲン」は和製サージェント・ペパーズだった?

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ナイアガラフォーリンスターズのアルバム「レッツ・オンド・アゲン」がリリースされた日
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photo:SonyMusic  
photo:thebeatles.com  

商業的成功とは全く無縁だった 70年代の「ナイアガラ / 大滝詠一」


氷原に反射するオーロラの輝きが小田和正で、水平線の彼方から海原を這う風が井上陽水なら、台所の小窓をすりぬけてトースターに届く日射しが大滝詠一。

永く人々に愛されてきたポップシンガーの中でも、最も身近な世界で生まれたもののようでいて、最もつかみどころのない美声をもつ才人である。ただし、それは80年代からのハナシ。

商業的成功とは無縁のところで奮闘していた時代の彼を知る人・知らない人のイメージは、おそらく凄まじい落差があるだろう。その不遇期の集大成といえる作品がナイアガラフォーリンスターズ名義で発表された『レッツ・オンド・アゲン』(1978年)である。

大滝はもともと日本語ロックの先駆 はっぴいえんど の一員であり、それまでの歌謡界のマナーにない歌唱法、作曲法で歴史を動かした。また、解散後主宰したナイアガラレコードは、ミキシングまでも自ら手がけるというプライベートレーベルの先駆。ここを拠点にセルフプロデューサーとして、または深夜ラジオの DJ として、フラワームーブメント以降唾棄すべきものとされていた50's~60's アメリカンポップスの再評価を体現。さらには、それまでの洋楽上位主義者が断絶していた日本の大衆娯楽全般(歌謡曲、広告音楽、演芸、邦画、スポーツ等々)を地続きにする超域の文化批評精神を後世のサブカルシーンに波及させた。

膨大な知識を備え、日米文化間の障壁と正面から向き合った上で、彼ほどすばやく軽やかな回答を導きだした人はいない。もちろん、洗練されたレコード作品として。国内音楽産業の主戦場において欧米のテクニックと日本のユーモアが融合するとき、70年代のナイアガラ / 大滝詠一は、その形容詞として確実に有効なものとなっている。

様々なパロディの玉手箱「レッツ・オンド・アゲン」


さて、ナイアガラの倒産が決定してから制作されたという本作。聴くたびに発見があるという表現がしっくりくるアルバムだ。各曲の随所に洋楽オールディーズをはじめとする様々なパロディが散りばめられており、すべてを把握することはウン十年来のファン(ナイアガラー)でも困難。

収録内容を大まかに分けると--
【A】スパイク・ジョーンズ風のコミックインスト
【B】洋邦ヒット曲のパロディ
【C】既発自作曲のパロディ
で構成されている。

特筆すべきは、音頭の大胆な導入だ。チャビー・チェッカー「レッツ・ツイスト・アゲイン」を音頭化した表題曲、レイ・チャールズの 「ホワッド・アイ・セイ」を音頭化した「呆阿津怒哀声音頭」。バカバカしいを通り越して、あらぬ感動をおぼえる。

著作権の都合で当初収録できなかった「河原の石川五右衛門」は「渚のシンドバッド」のパロディ。今では、ピンク・レディーがいかに時代の寵児であったかを説明する変則的な資料音源となった。盗賊つながりで「五右衛門」なわけだが「河原」のほうは「渚」とは別に「瓦」ともかかっている… と、記述するだけで力が抜ける。同曲も含めた場合の曲順は、下記の通り。

01. 峠の早駕籠 / 多羅尾伴内楽団
02. 337秒間世界一周 / 多羅尾伴内楽団
03. 空飛ぶカナヅチ君 / 宿霧十軒
04. 烏賊酢是!此乃鯉(※いかすぜ!この恋)/ Each Ohtaki
05. アン・アン小唄 / 山形かゑるこ
06. ピンク・レディー / モンスター
07. 河原の石川五右衛門 / オシャマンベ・キャッツ
08. ハンド・クラッピング音頭 / イーハトブ田五三九
09. 禁煙音頭 / 竜ケ崎宇童
10. 呆阿津怒哀声音頭 / 蘭越ジミー
11. レッツ・オンド・アゲン / アミーゴ布谷

布谷文夫、伊集加代、鈴木雅之… 不朽の大傑作「レッツ・オンド・アゲン」


大滝自身が歌うのは、(03)(04)(08)の3曲のみ。アルバムを締めくくる(10)(11)は、旧友のブルースシンガー布谷文夫が担当。また各曲のコーラスと(05)(07)のボーカルは、伊集加代が担当している。

伊集加代は『ルパン三世』『アルプスの少女ハイジ』『11PM』『ネスカフェゴールドブレンド』等々、数多のテーマソングや CMソングを歌い足跡を残すセッションボーカリスト。ナイアガラ作品には決まって参加した。本作では全編コブシを利かせて歌っているが、彼女の膨大な経歴の中でそんな依頼はこのときだけだったはずである。

そして(09)の正体は、シャネルズでデビューする前の鈴木雅之。ヒトによっては黒歴史と捉えてもおかしくない役回りだが、メディアで度々大滝について述懐している鈴木の発言を見聞する限り、本作での仕事もずっと誇りに思っているようだ。

各曲のクレジットには、すっとぼけた変名が並んでいる。大滝特有の内輪遊びなのだが、コレらを “レーベルの最後を湿っぽくしないために招いた架空音楽集団” なのだとすると、本作はナイアガラ版『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と位置づけることも決してムリは、いやムリあるか。

ともあれ、発表から40年経った現在でも、日本語ロックの一つの到達点として不朽の大傑作であることは揺るがない。


※2018年1月22日に掲載された記事をアップデート

2019.11.25
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カタリベ
1982年生まれ
山口順平
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