ピンク・レディーの楽曲は作詞家・阿久悠の「巨大遊園地」
ピンク・レディーの歌は、ビックリ箱だ。私は当時小学生だったが、新曲が出るたび、「さあ、とんでもない展開が来るぞ!」とブラウン管の前でワクワクしたものだ。作詞家・阿久悠氏が「巨大遊園地」をイメージしてピンク・レディーの楽曲を作ったというエピソードを知ったのは、30を超えた大人になってから。けれど、子どもの頃なにも知らずとも、私はまさにジェットコースターに乗るがごとく、彼女たちの歌を聴いていたのだ。
なんだかわけのわからない名前の「ペッパー警部」、アラブの大富豪が出てくる「ウォンテッド(指名手配)」、宇宙人と恋する「UFO」――。子どもの頃は歌詞の世界観なんて深読みせず、ただただ変わった単語に反応して楽しんだ。ワケがわからないことが、最高に面白かったのだ。
「モンスター」はその中でも特にエキサイティング! いきなり男性の「ワッハッハッハ……」という笑い声(作曲家・都倉俊一氏の声だったとは!)を受け「キャー!」と叫び、顔を隠し怖がる振り付けをするミーちゃんとケイちゃん。
なになに、今回は怪物パニック的な!? こちらも「おもしろーい!」と振り付けを真似、小学校で友達と歌い踊りまくった。今でも「♪モンスター」と聴くと、手の指を歪め、前に出してからぐいーんと引っ込めるダンスが自動的に出る。
「ザ・ベストテン」では1位を獲れなかった「モンスター」
この曲が発売された1978年は、まさにピンク・レディー全盛期。デビューから2年目でシングルは右肩上がりの売れ行きを見せ、同年末には「UFO」で第20回日本レコード大賞受賞、「サウスポー」で第9回日本歌謡大賞受賞受賞。押しも押されもせぬ歌謡界のトップに立った。こんな短期間でアイドルが大賞を獲るというのは前代未聞だった。
「モンスター」は「UFO」「サウスポー」というメガヒットの次の勝負曲。まさに時代のモンスターになった彼女たちが「モンスター」を歌うという図式だ。ただ、データ的に見ると「モンスター」は折り返し地点。大ヒットした7th「サウスポー」の約146万枚に比べ売り上げは約110万枚、100万枚超えはこれが最後となっている。オリコンチャートでは週間1位を記録したもののザ・ベストテンでは1位をとれていない(それを阻んだのは、同じく阿久悠作詞の「ダーリング」だった)。
けれど、当時の動画を見ると「モンスター」のパフォーマンスをする二人は、「過熱」のさらにその上をいくような異様なパワーを感じる。多忙も多忙、超多忙を極めていた頃で、体力気力もピークを超えた時期だっただろう。そのためかなり疲れている様子も見える。ただ、どこかランナーズハイというか、見えない何かに動かされているような不思議な迫力に満ちている。
1976年のデビュー曲「ペッパー警部」から実に3か月スパンで新曲を出し、恐ろしい勢いで売れていった彼女たち。嫉妬も凄かったに違いない。加えて上下関係がはっきりしていた昭和の歌謡界では、売れても「出たばかりのアイドル」という立場のまま。委縮することが多かったはずだ。秒のスケジュールで、自分たちの「待ち」で現場をストップさせる罪悪感もあっただろう。
モンスター もうお前は優しすぎて
モンスター ぼろぼろなのね
エキサイティングなパフォーマンスの裏で、誰よりも自分の状況にびっくりし震えていたのは、若くして時代の寵児となった彼女たちのはず。この歌詞に出てくる「気弱なモンスター」はピンク・レディーそのもの。実際、阿久悠さんが彼女たちのことを書いたという話をどこかで見たが、なるほど納得である。
「モンスター」に込められたエール
また、この「モンスター」には、SF的、マンガ的な謎の歌詞が多かったそれまでのピンクレディーの歌とはちょっと異質な、メッセージ性が強い歌詞がひょんと出てくる。
顔に縫い目があったって
こわいひとと限らない
爪がキリキリとがっても
悪いひとと限らない
阿久悠からピンク・レディーの二人へのエールと同時に、価値観が偏っていた昭和の時代、そこから外れてしまった人達へのエールも強く強く感じるのだ。いろんな個性があるし、いろんな愛し方がある。サビの「モンスター」という言葉に続くのも――
さあ 勇気を出してごらん
おおいばりでね
ふるえていちゃ駄目じゃないの
自信を持って。そう肩を叩いてくれているような言葉ばかり。「おおいばりでね」が本当に好きだ! 私が子どもの頃「ビックリ箱や!」と楽しんだ不思議な言葉には、そんな素晴らしく強く美しい魔法がかけられていた、そんなイメージ。
古くなるはずがない。さあ、振り付けとともに何度も楽しもう!
ワーオ! ワオワオ!
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2022.12.15