10月21日
月夜は自分を照らし出す。中島みゆきの「悪女」と映画「ムーンライト」
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photo:帆船模型の情報発信基地  
photo:moonlight-movie  

「子守唄は中島みゆき」と言ってもいい。幼い頃、寝室の隣が父の部屋で、ステレオからいつも流れていた。


幼稚園の頃から、


 みちに倒れて誰かの名を
 叫び続けたことがありますか
 (わかれうた)


 今はこんなに悲しくて
 涙も枯れ果てて
 (時代)


 おもいで河へと身を投げて 
 もう私はどこへも流れない
 (おもいで河)


と歌いながら、こんなに泣いたり死にそうになったりするなんて、恋ってなんて大変なんだろう、したくないなと思った。


小学生になり、FM東京(現 TOKYO FM)土曜午後1時からの『コーセー歌謡ベストテン』を毎週聞いて、カセットテープにエアチェックしていた。

10歳の時、この番組で中島みゆきの新曲「悪女」を聞いた。中島みゆきにとって、「わかれうた」以来のオリコンチャ-ト第1位となった歌だ。

聞いてすぐ、「いつも地べたで嘆いている、大変そうな中島みゆき」の調子がちょっと違うと思った。歌い出しがウキウキ、楽しそうなのだ。

ピアノとアコ-スティックギタ-のキラキラした演奏で始まり、いきなり「マリコの部屋へ~」と、「マリコ」が出てくる。この歌の主人公は「マリコ」なる女友達に電話をかけて「男と遊んでる」風を装っている。

うんざりマリコ、今夜は居留守なのか、いないようだ。

主人公はイケイケなのかと思いきや、場面は映画館、そしてホテルのロビーへ。

再び電話が登場し「あなた」にかけるが、つながらない。すでに「あの娘」に気持ちが移っているらしい彼が「受話器をはずしたまま」というのは故意なのか、今で言うラインの「未読スルー」か。

だんだんと最初のウキウキ感が陰ってくる。主人公の、身だけでない心の所在なさがにじみ出してくる。


急展開を見せるのはサビだ。

「悪女」になろうと女友達に虚勢を張ったり、男物のコロンを使ったり、彼に捨てゼリフを言ったり… 自分もどこかで「ヨロシク」やっている感を出しても、月に妨害される。

月夜は、ヤバい。

どんなに取り繕っても、お月様の光に本当の心が照らし出されてしまう。誰に見られるわけではない、自分に見えてしまうのだ。主人公は夜明けの電車で泣く。

子どもの私も、このサビを聞いて泣きたくなった。「悪女」になろうとしていたのになれない主人公があまりにもかわいそうに思った。

この歌は「悪女」というタイトルなのに、悪女の歌ではないのだ。悪女になったつもりがなれない、という歌だった。 


それまで地べたを這いつくばって愛への恨み、男への未練をぶちまけていて少し怖かった中島みゆきを、初めて「かわいい」と思った。

限界までウソ芝居を打って強がった挙句、夜明けの電車で涙をぽろぽろ流しながら好きな人を「好き」と思い、「行かないで」と思う。そんな恋、してみたいとも思った。

「悪女」が好きだと父親に言ったら、「パパはいやだ。いっそほんとに悪い女だった方がいい」と言っていた。

そうなのか。
10歳の時は、よくわからなかった。


時を隔てること30年以上。アカデミー賞を受賞した映画『ムーンライト』を最近観た。好きでたまらなくて、劇場で4回観た(まだ観に行く予定)。

観るというより、「浴びる」という言葉がふさわしい映画だ。青い月明かりを浴び、すべてがさらけ出され、自分が見える、自分が自分になる、探していたものがわかる… そんな体感ができる映画だと思った。

この映画を観た後、月を見ながら、「隠しておいた言葉が ほろりこぼれてしまう」という「悪女」の歌詞を突然思い出した。もっと早く、「行かないで」って言えたら、「あなた」は行かなかったのかな。どちらにしろ、行ってしまったのかな。

もはや「あなた」の所には帰れない。でも月が探していた答えを教えてくれたから、ニセ悪女もやっと、自分に帰れるのかもしれない。

2017.05.23
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カタリベ
1971年生まれ
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