テレビの中に限られた時間のものだった「ラムのラブソング」
“ラム” で想像するものは、ラム酒とアグネス・ラムさん。どちらもトロピカル、南国の香りがする。ちなみに『うる星やつら』のキャラクター、虎柄のビキニ姿のグラマーなラムちゃんの名前は、アグネス・ラムさんから取っている。
アニソンがアニメと無関係に流れても問題なくなったのはいつ頃だろう。アニメ映画の主題歌としてエンディングに流れた沢田研二さんの「ヤマトより愛をこめて」(1978年)や、大ヒットしたゴダイゴの「銀河鉄道999」(1979年)は別格として、1981年当時はまだアニソンはアニメのものと世間一般ではカテゴライズされていた。アニメ楽曲がアニメと無関係にテレビ・ラジオや街中に流れても何とも思わなくなるにはあと2年ほど、1983年9月の杏里さん「キャッツ・アイ」あたりまで待たなければならない。
そんな、まだアニソンがテレビの中に限られた時間のものだった1981年10月、「ラムのラブソング」は生まれた。作詞は伊藤アキラさん、作曲・編曲:小林泉美さん。
作・編曲は小林泉美、15分で曲を書き上げた原作ファン
小林さんは高校時代から音楽活動を開始、1976年のEAST WESTにドラムの渡嘉敷祐一さん、ギターの土方隆行さんたちと組んだバンド「ASOCA」で出場し優勝。この時のEAST WESTの審査員に高中正義さんがいた。東京音楽大学ピアノ科に通いながら、小林泉美&Flying Mimi Band、高中正義バンド、初期のTHE SQUAREで1979年松任谷由実さんの『OLIVEツアー』に参加等、多彩な活躍を見せる女性キーボーディスト。作曲家としても1980年に映画『翔んだカップル』の音楽を担当している。
雑誌『週刊少年サンデー』に1978年から連載されていた人気漫画『うる星やつら』が1981年にアニメ化されることになり、小林さんが所属するキティ・レコードの社長が小林さんに曲を書いてみる? と提案したところ、原作のファンで漫画のイメージが入っていた小林さんは「ラムのラブソング」を15分程度で書き上げ、カップリングの「宇宙は大ヘンだ」を含む3曲を翌日持って行った。
「宇宙は大ヘンだ」もラテンフレーバーが漂う。こちらはもっと賑々しいブラジルのサンバカーニバル調の楽曲だ。演奏はどちらも高中正義バンドが務めている。どちらもラテン系の味わいがあるサウンドが印象に残る。幼少の頃に叔父がラテンのレコードをかけていた環境で育った小林さんが最初に買ったアルバムは13歳くらいの時、アストラッド・ジルベルトだった。
アニメ楽曲として前例なし? 電子楽器の音が満載されたテクノポップ
1981年版のアニメ音源を担当した安西史孝さんが、2018年に「ラムのラブソング」のデモ音源をWeb上で公開している。賑々しいイントロはピアノで演奏されており、リズムボックスと小林泉美さんのスキャットを交えた歌だ。『アニメディスクガイド80’s』(河出書房新社)によると、「原作に関連するワードが一切入っていないこと、ラテン系の曲調であること、アニメ楽曲として前例のない内容だった」と記載がある。
小林さんも2021年のインタビューで、
「あの曲は当初、大不評でした。私、新しい機材が大好きで。でっかいシンセや808、リンドラムとか。あの曲をプロデューサーはすごく気に入ってくれたんだけど、会議では「こんなのはアニメの曲じゃない」って言われて。当時、機械(ドラムマシン)を使ったアニメの曲というのはあり得なかったので」
―― と語っている。
ときは1981年、既にお茶の間には電子楽器の音が満載されたテクノポップが馴染んでいた。
声優・松谷祐子のデビューシングル「ラムのラブソング」
原作に関連するワードこそ入っていないが、詞の内容はアニメ作品内であたるに猛アタックするラムちゃんに忠実に描かれており、好きな男の子に恋する女の子の気持ちがギュッと詰まっている。この詞も多くの人々に長く愛される作品になったひとつの理由だろう。
4小節の短いイントロこそ賑々しいが、キュートでコケティッシュなメロディが印象的な歌に入ると開放感のあるラテン調テクノポップになる。リズムはカリプソやサルサ、随所に入る陽気なパーカッション。歌は「ラムのラブソング」がデビュー作となる声優の松谷祐子さん、当時22歳。アイドルっぽく可愛らしい歌の合間に入るセクシーヴォイスは松谷さんではなく小林泉美さんが担当している。
ちなみにラムちゃんの声は声優の平野文さんで、ラムちゃん役が声優としてのデビュー作品となる。平野さんは後に発表したアルバムで「ラムのラブソング」をカバーしている。
「ラムのラブソング」は、アニメ『うる星やつら』のオープニングには100回まで使われた。その後、松谷祐子さんのセルフカバー、平野文さんによるカバーを含め、これまでに100作品以上のカバーがある。女性だけでなく男性のカバーもあり、平井堅さんが2008年の『Ken’s Bar』でカバーしたのをはじめ、嘉門達夫さんによる替え歌や、長瀬智也さんによるCMソング(リプトンリモーネ)、2006年年始の『さんタク』では虎柄のビキニの女性がゆらゆら揺れるスタジオで、木村拓哉さんがギター弾き語りでカバーした。
小林さんは1985年に渡英した。2020年に一時帰国した際に千葉県内のライブハウスで「ラムのラブソング」を披露したが、そこでは小林さんのアイデアで会場の男子多数による野太い「ウッフン」がこれでもかとばかりに聴ける。
2021年9月20日に掲載された記事をアップデート
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2023.09.06