10月1日

坂本龍一プロデュース、矢野顕子「ごはんができたよ」YMOメンバーも全面参加!

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矢野顕子のアルバム『ごはんができたよ』がリリースされた日
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矢野顕子 / ごはんができたよ


1980年の坂本龍一の仕事量にア然


1980年10月に発売された、矢野顕子4thアルバム『ごはんができたよ』。坂本龍一と本人の共同プロデュースです。これもサカモト教授だった!と私は思わずため息をもらしてしまいます。

というのは、「大貫妙子『ROMANTIQUE』いい音楽は必ず売れる、少しずつでも売れ続ける」の章でも書きましたが、この前後の坂本氏の仕事量はとんでもないのです。

この1980年だけでも、“YMO” のアルバムが、ライブものと企画ものとはいえ、『パブリック・プレッシャー/公的抑圧』(2月)と『増殖』(6月)。自身のソロアルバム『B-2ユニット』(9月)。プロデュースものが、高橋幸宏のアルバム『音楽殺人』(6月)、大貫妙子のアルバム『romantique』(7月)のうち6曲、そしてこの矢野顕子の『ごはんができたよ』(10月)が2枚組で共同プロデュース。ミュージシャンとしての参加が、加藤和彦のアルバム『うたかたのオペラ』(9月)、他にもあるかも…その間に、YMOの国内ツアー「テクノポリス2000-20」が3〜4月、第2回ワールドツアー「FROM TOKIO TO TOKYO」が10〜12月。YMO人気の絶頂期ですから、テレビ、ラジオ、取材などもそのスキマにぎっしり入っていたでしょう。書いているだけでも目が回ります。

しかも、この時点では、アッコさんと坂本氏はそれほど長いつきあいではありません。細野さんとはデビューアルバムからの深い縁ですが、坂本氏は、この『ごはんができたよ』の前作、『ト・キ・メ・キ』(1978年9月)までは全く関わっていません。ただ、その発売月からスタートした「ト・キ・メ・キ」ツアーにはYMOが3人とも参加してバッキングを務め、そこから二人は急接近していきました。

ご存知のように、接近し過ぎて、アッコさんは1979年には矢野誠氏と離婚し、80年5月には娘の坂本美雨を授かりましたね。

なのでこの頃は、坂本氏にとってアッコさんは最も重要な存在。どんなに忙しくとも、彼女のアルバム制作に関わらないワケがないですね。そして、そんな大量の仕事をこなしつつ、そのすべてにおいて、クオリティが高い水準でキープされており、それはこの『ごはんができたよ』でも然り、ということで、私が “ア然” としてため息をつくことになるのです。

ユニークさがたまらない? 矢野顕子音楽の特徴とは


アッコさんの歌は「自由形」。その根っこにあるのはジャズのスピリットなのかもしれませんが、“誰それ風” ということが全く思い浮かばない独特のスタイルです。で、そのユニークさがファンにはたまらなく魅力なんでしょうけど、一方、とっつきにくくて苦手だという人も多い。私自身は前者寄りだけど、後者の気持ちも分かる。音楽的な実力はすごいと思うけど、聴いていて疲れることもなきにしもあらずです。

その際立った特徴は、というと…

①リズムを崩すのが好き。跳ねる音符が多いし、変拍子も多い。
②童謡や民謡が好き。それらをポップミュージックとしてこんなに多くカバーしている人は他にいない。
③食べ物が登場する歌が多い。

といったところでしょうか。つまりはこの3点が、人々の好悪の分かれるところ。ぶっちゃけて言えば、マニアックな人(少数派)には受けるが、ポピュラリティを阻害している要因でもあると思うのです。

坂本氏はさすがにそれを見抜いていたと思われます。このアルバム『ごはんができたよ』では、②と③は出てきますが、①は相当抑え込んでいるからです。

②については、「げんこつやまのおにぎりさま」という、童謡「げんこつやまのたぬきさん」をアレンジした8分半もの曲(アルバム中最長)があります。また「ごきげんわにさん」はこれがオリジナルのようですが、「たぬきさん」の作曲家でもある小森昭宏が作曲し、童話作家の中川李枝子が作詞した、れっきとした童謡。ほんとここまで童謡に力を入れているシンガーは他にいないんじゃないでしょうか。「童謡ロックの女王」です。

③については、アルバムタイトルからして「ごはん」だし、さっきの童謡にも「おにぎり」が出てきます。

この2点は坂本氏も放置したのでしょう。アーティストの自然な欲望をすべて抑えては反ってよくないと。それに、おそらくポピュラリティの面でいちばん大きな課題 は①なのだから、②③は構わずとも大した問題ではないと。

坂本龍一の名プロデュース、8ビートがミソ


①を解決するために、坂本氏が持ち込んだのは「8ビート」です。放っておくと、思いのままにリズムが崩れていくアッコさんの歌を、ポップに聴かせるためには、カッチリした8ビート、しかもYMOで開眼し、この時代もっともキャッチーだったテクノビートに乗せることだ、と考えたんじゃないでしょうか。

とりあえず、「青い山脈」で得意の「自由形」を思い切りやってもらい(“ガス抜き” をし)つつ、他の曲はほとんど(14曲のうち9曲)は8ビートです。前作『ト・キ・メ・キ』にはこういう8ビートは1曲もないので、これは劇的な変化です。

「ひとつだけ」の「ねえお願い」というフレーズや、「在広東少年」の「おまえはほほえむ」の「おまえは」など、8分音符で歌ってもいいのに、やはり付点8分と16分、つまり跳ねてしまうというところに、どうしても抑えきれないアッコさんの歌のDNAは登場しますが、全体的には8ビートが、このアルバムをとてもポップに彩りました。

音楽は「冒険と安らぎ」だと、私は思っています。「冒険」は目が覚めるような新鮮な驚き、「安らぎ」は包み込んでくれるような心からの安堵。ベクトルは正反対ですが、両者をバランスよく備える音楽がいい音楽だと思います。

アーティストとしての坂本龍一は、アッコさんと同じく、「冒険」のほうに重心がある人だと思いますが、プロデューサーとしては、矢野顕子のバランスの不均衡を、見事に修正して、名作をつくりだしました。しかも、しつこいですが、あの超過密スケジュールの中で。

やはり、ため息ついて、脱帽です。

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2022.02.02
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カタリベ
1954年生まれ
ふくおかとも彦
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