9月29日

岩崎宏美「聖母たちのララバイ」火曜サスペンス劇場のエンディングで歌われた母性

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日本のテレビから消えゆくサスペンスドラマ


殺人事件が解決し、犯人がパトカーに乗せられ去って行く。残された主人公は、事件の背景にやりきれなさを感じながらも、明るい明日へ向かって歩き出す…。そこへ曲が流れ出し、同時にエンドロールが流れてくる。

印象的なイントロと力強く愛に溢れた包容力たっぷりのこの曲は―― そう、岩崎宏美の「聖母たちのララバイ」だ。

昨今では、サスペンスドラマも多くがその姿を消しつつある。勧善懲悪の時代劇なみに、最後はしっかりと事件を解決し、悪人は裁きを受けるというストーリー展開は、扱う題材が殺人事件にも関わらず、不思議と安心して観られたものだ。そんなサスペンスドラマは日本のテレビドラマにおけるひとつのカルチャーではなかっただろうか。

犯人とのやりとりに使われたり、登場人物が駆け込み、決まってそこで犯人に連れ去られる現場 “公衆電話”。物語のなかで重要なアイテムとなっていたものの、世の中のスマホ登場により姿を消さざるを得ず、サスペンスドラマのストーリーにも大きな影響を与えたともいわれている。もちろん視聴率の低下や、制作予算の関係もあったことだろう。サスペンスドラマは次第に姿を消していってしまった。

火曜サスペンス劇場を魅力的にしたエンディング曲


以前は、日テレ系の『火曜サスペンス劇場』、テレビ朝日・朝日放送系の『土曜ワイド劇場』…… ほかにも各局でサスペンスドラマ番組があった。

そんな中、『火曜サスペンス劇場』が極めて魅力的だったのは、エンディング曲を担当した名曲たちの存在が大きかったのではないだろうか。冒頭にも書いたように、ドラマが終わりにさしかかったところで曲がフェードインしてくる技法は、物語の余韻と楽曲が相まって、演出的にも非常に効果的だったと思う。

1981年~2005年までの火サスの放送期間に、エンディング曲を担当した岩崎宏美「聖母たちのララバイ」「家路」「橋」「25時の愛の歌」「夜のてのひら」を筆頭に、杉山清貴「風のLONELY WAY」、柏原芳恵「化石の森」、竹内まりや「シングル・アゲイン」「告白」―― 80年代の間だけでもこれだけのアーティストたちが歌った名曲が並んでいる。

この番組で、これまでに使用された曲は26曲。その中にあって、「火曜サスペンス劇場といえば聖母たちのララバイ」と声が上がるこの曲。ほかの曲が起用された期間、半年~1年だったのに対して、番組スタート時とはいえ、この曲だけは1981年~83年までの約2年半という長期間にわたり、ドラマに花を添えてきた。ただし、だからといってそれだけで「聖母たちのララバイ」が火サスの代表曲として語られるわけでもないだろう。

視聴者の人気が後押しした、岩崎宏美「聖母たちのララバイ」


そもそも当初、この曲は1コーラスしか作られておらず、楽曲としてのリリースも予定されていなかった。けれど視聴者の圧倒的な人気に後押しされる形で楽曲として作られ発売されることになる。

印象的なイントロ、包容力溢れる歌詞とメロディーは、一度聴いたら忘れられないパンチ力。力強くて優しくて、それでいて、憂い漂うメロディーに乗せられた歌詞はこうだ。

 ああ できるのなら
 生まれ変わり
 あなたの母になって
 私のいのちさえ
 差しだして
 あなたを守りたいのです

 この都会は 戦場だから
 男はみんな 傷を負った戦士
 どうぞ 心の痛みをぬぐって
 小さな子供の昔に帰って
 熱い胸に 甘えて

「どんだけーーー!!」と叫びたくなるほどの女性の懐の深さと愛の重さよ…。

ここまで女性の包容力や強さ、底なしの愛情を歌った曲を私は知らない。個人的には、不動の「母性ナンバーワンソング」だ。

まさに聖母マリア、岩崎宏美の歌声と表現力のすごさ


この曲を豊かな歌声で聴かせるのが岩崎宏美。彼女の歌唱は、日本を代表する歌い手の1人だと勝手に思っている。中学時代から歌のレッスンを本格的に受けてきた岩崎の歌唱方法は、癖のない正統派中の正統派であり、王道中の王道。彼女が歌い始めるとたちまち目の前に曲の世界が広がっていく。それはまるで映画でも見せられているかのようだ。

その圧倒的な表現力と、決してピッチを外さない絶対音感。そして持ち前の深くて美しい歌声。それらすべてがこの曲に込められ、女性の持つ包容力と頼もしさを生み出し、曲の世界に説得力を持たせている。またこの後に続いた「家路」という曲もとても素晴らしく、岩崎宏美の歌声の力が遺憾無く発揮されている。

殺人事件の裏側にある、切なさや悲しみを描き、事件が解決しても、なんとなく割り切れずにいる視聴者たちの心を決して置き去りにしないのは、この曲が優しく包み込み、癒やしていくからではないだろうか。「聖母たちのララバイ」をただのエンディング曲と切り分けて考えるよりも、“曲も含めてひとつの物語” だったのではないかと大人になって気がついた。そして齢24歳にして、この貫禄の歌声と表現力を持って歌いきった岩崎宏美のすごさ…。この若さにして、まさに聖母マリアのようだ。岩崎宏美というシンガーの歌声の素晴らしさが証明されたこの曲は、もちろん彼女の代表曲であり、80年代を代表する疲れた人たちを包む、愛に溢れた名曲に間違いない。


※2021年9月29日に掲載された記事をアップデート

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2021.10.26
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