2018年、夏の映画で最もヒットしたのは『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』であった。
テレビ局による製作、公開に合わせたCMの大量投下、莫大な宣伝費と出演する俳優たちによるプロモーション… そんな力業で映画をヒットさせるやり口はフジテレビが角川映画の手法に学んで80年代に確立したものである。
そう、1987年の夏の終わりに公開された映画『ハワイアン・ドリーム』は、そんなフジテレビが映画ビジネスに本格的に取り組み始めた頃の1本である。1984年にヒットした映画『チ・ン・ピ・ラ』の続編のような作品であり、舞台をハワイに移してもっとライトでお洒落な映画に仕上がっていた。
『チ・ン・ピ・ラ』に続き、監督はハードボイルドの名手、川島透。主役となるコンビは、ミュージシャンとしての顔も持つ若手俳優、時任三郎。そして『チ・ン・ピ・ラ』と同じく、ジョニー大倉。この頃のジョニーはもう元キャロルという肩書が無くてもいっぱしの俳優としての地位を確立していた。そして、『ベスト・キッド2』でお馴染みとなった日系人女優、タムリン・トミタをヒロイン役に迎えた話題作でもあった。
しかし、その中身はというと、まさにハワイ版の『チ・ン・ピ・ラ』そのもの。二番煎じ感は否めず、故金子正次の原作であった『チ・ン・ピ・ラ』に比べると、舞台がハワイに変わった分、リアリティも悲壮感もなく、作品としての評価は芳しくない論評が多かったように思う。
だが、どうだろう。好景気と円高に沸いた当時、海外旅行は身近なものとなり、夢のハワイなどという言葉はすでに過去のもの―― エンターテインメント業界は海外取材や海外ロケ、海外レコーディングへと飛び出していったものである。『ハワイアン・ドリーム』はそんな時代感をまとって世に送り出されたため、意外と強く印象に残る作品となった。
その役割を担ったのは、何といっても音楽である。サントラ盤は MOON RECORDS のもとで制作、リリースされた。プロデューサーは加藤和彦。ハワイを代表するバンド、カラパナをはじめ高中正義、村田和人、もちろん山下達郎も楽曲を提供。全体的に夏っぽいサウンドにあふれた作品に仕上がっていた。
映画のシーンではオープンカーでホノルルの街並みを流す時任三郎とジョニー大倉2人の映像と相まって格好の BGV のようでもあり、サントラはドライブの BGM として使える一枚。サントラが6月ぐらいにリリースされていたら、きっとこの夏のお気に入りになっていたはずである。
中でも、オープニングテーマとなっている竹内まりやの「夢の続き」は、特に強いインパクトを残した一曲。
Baby, Baby, don't look so sad
There's gonna be a better tomorrow
重い扉の向こうは いつでも青空さ
作詞・作曲は竹内まりや。しかし、どう聴いても『COME ALONG』を聴いているかのような達郎サウンド。「セプテンバー」や「不思議なピーチパイ」のファンシーな竹内まりやに馴染んだ我々は、改めて人妻となった彼女を再確認することになる。
ここに至るまで彼女のミュージシャンとしてのキャリアは、山下達郎との結婚で大きな転機を迎えていた。ミス慶応とも言わしめたルックスと明るい声質のおかげで、甚だ不本意な扱いを強いられた過去をリセットするために、表立った音楽活動を休止。山下氏のいうところの「シンガーソング専業主婦」としての活動がまさに軌道に乗り、楽曲提供だけでなく、自らのパフォーマンスも徐々に増やしていこうという時期に重なってきていた。
「夢の続き」は、それまでのメルヘンチックな楽曲群のイメージとこの後に続く「駅」や「シングル・アゲイン」など、やや意味深な大人の恋愛を描いた楽曲群のちょうど狭間にある。そして、バランス的には達郎サウンドを纏ったがゆえに、彼女のパーソナリティはやや後退している印象さえ受ける。考えてみれば「夢の続き」というタイトルも映画のタイアップ色が出ていて、商業的な匂いが強い。この曲に関するエピソードがほとんど出てこないのも、なんとなく合点がいく。
まあ、こんなことをこうして考えられるのも、竹内まりやの90年代以降の再ブレイクがあってのことなのかもしれないが、今年(2018年)でデビュー40周年を迎えた彼女にもこんな過渡期があったのかと改めて思う。
意地悪な見方をすれば、この「夢の続き」は、耳あたりの良さを狙った佳曲に過ぎないとも言える。しかし、また別の見方をすれば、スプリングボードに向かって駆け出した、新しい竹内まりやの勢いを感じる一曲でもあるのだ。
2018.10.31
YouTube / Warner Music Japan
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