10月4日

金曜ロードショーのオープニング、どこにでもあった昭和末期の家族の一幕

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耳にしたとたんに「あぁ、あの頃に戻りたい……」なんてちょっとセンチメンタルな気持ちになる曲が、誰にも一曲はあるでしょう。僕の場合は、『金曜ロードショー』のオープニングテーマ曲「フライデー・ナイト・ファンタジー」がそれである。

念のため言っておくと、『水曜ロードショー』ではなく、『金曜ロードショー』である。「水曜」時代のテーマ曲であるニニ・ロッソの「水曜日の夜」も印象深いが、なにぶんその時僕はまだ小学生の低~中学年だったため、番組終了の夜11時まで起きていることができなかった。

よく「あの映画、あのあとどうなったん?」とか「来週なにやるん?」などと翌朝になって母親に訊ねたりしたものだ。その後、放送の曜日が移動した『金曜』時代には、もう僕は小学生高学年だったから夜11時までバッチリ観ていられた。

その時間、テレビのあるリビングに居たのは、たいてい母親と弟と僕の三人だけだった。父親は自分の部屋で翌日出向くはずのゴルフのクラブをいじり、兄は “付き合ってらんねぇ” と自室でラジオを聴いたりギターを弾いたりしていた。父と兄のいないリビングは、僕にとってはのんびり間延びしたリラクシングな空間だった。そんな金曜の夜が、僕が小6の1985年から何年間があった。それはどこにでもあった昭和末期の平和な家族の一幕なのだと思う。

さて、『金曜ロードショー』のテーマ曲「フライデー・ナイト・ファンタジー」は、フランス・マルセイユ生まれのピアニスト兼作曲家、ピエール・ポルトがこの番組のために書き下ろした極上のインストバラードである。

まず、切なくもミステリアスなピアノのアルペジオが金曜夜9時のお茶の間を非日常の劇場へと誘っていく。テレビに映る映像は真っ赤な夕日に照らされた海。このオープニングの音と映像を思い浮かべるだだけで、僕の心は一気に遠い子ども時代へとひとっ飛びだ。夕日が沈む入り江、戯れるように浮かぶヨット、沖に伸びる桟橋、たたずむ一人の男のシルエット……。

その絵にかぶさってくるのが、哀愁の極致とも言うべきトランペットの旋律だ。ドラマティックすぎるこのトランペットを吹いているのは、日本が誇るスーパー・トランペッター数原晋。角松敏生や大野雄二、久石譲作品でおなじみの存在であり、『必殺シリーズ』のトランペットも彼の “仕事” である。

金曜の夜を彩る特別な期待感と抒情を、数原はトランペットの輝かしい音色に惜しみなく注ぎ込む。そこに激情をあらわにしたピアノ伴奏が激しく打ち寄せる波頭のようにこれでもかと追い打ちをたたみかけてくる。そして、カタルシスいっぱいのそのサビのクライマックスに、今夜お茶の間に届けられる映画の名がドドーン!と夕日のタイトルバックへと送り込まれるのである。

すなわち、『激突!』『猿の惑星』『ポセイドン・アドベンチャー』『ジョーズ』『ポリス・ストーリー / 香港国際警察』『インディ・ジョーズ / 魔宮の伝説』『クレイマー、クレイマー』『ロッキー』『ランボー』『ルパン三世 カリオストロの城』などなど。

何度も観た『猿の惑星』はラストが怖いから、僕と弟は最後の場面が近付くと物陰に隠れて片目でテレビ画面を見ていた。これまた何度も観た『ポセイドン・アドベンチャー』では、牧師が犠牲になって死ぬラストでいつも母親が涙ぐんでいた。

ほかにも『五福星』を観た時には、主役のサモ・ハン・キンポーそっちのけでジャッキー・チェンだけに注目しつつも、実はジャッキーはチョイ役にすぎず短い出番だったことにショックを受け、母と弟ともにやり場のない虚脱感を味わった。

こうして番組が終わった夜11時には、母にせかされ弟と僕は順番にトイレに行き、歯を磨いて、電気を消して布団をかぶり、映画の品評を一言二言かわしつつ眠りにつくのだった。父親の部屋にも兄の部屋にもまだ電気がついているなぁと思いながら。

そんなわけで、僕がいちばん安寧に過ごした頃の家族の記憶は、『金曜ロードショー』のオープニングのトランペットの音色とともにある。毎週やっててありがたみなど当時は感じたこともなかったけれど、あの金曜の夜の興奮と余韻を超えるものなんて、今となってはそうは見当たらない。日本テレビはじめ、ユニ・チャーム、原ヘルス工業ほか提供各社の皆様、ありがとうございました。

2019.10.11
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カタリベ
1974年生まれ
吉井 草千里
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