勝新太郎は、その強面な風貌や逮捕歴、黒澤明との決裂etc.から豪快伝説ばかりが強調されるきらいがあるが、私は彼について一番に語りつぐべきなのは「ディレクターとしての才能」だと思っている。なぜか?彼が演出したドラマ『警視-K』をうっかり視ちまったからである。リアルタイムでね。 なんせ変なドラマだった。まず画が、ドラマではなく記録映画フィルムのような撮り方をしている。音声もボソボソ喋っていて、当時の NHKのドキュメントみたいな感じ。ときには何を言ってるか聞き取れない。それまでの刑事ドラマのように、分かりやすい芝居ではない。中学生には理解不能な部分だらけだったが、毎週火曜の9時になるとチャンネルを4にひねっていた。後年、このカルト作品の解説を読んだら、やはりそうだった。勝新はドラマにドキュメントの要素を持ち込もうとしていたのだ。 驚くべきはクレジットされている音楽担当である。山下達郎なのだ。それもテーマ曲だけではなく、劇伴の全般を彼が任されている。もちろん、劇中でかかるのは達郎の作品だけではないが、達郎と近いラインから、たとえば第4話でジュディ・オング扮する二重人格の美女がディスコで踊りまくるシーンでは、土方隆行『Smash The Glass』なんかが選曲されている。音効さんのセンス良すぎ! で、その番組エンディングで必ずかかるのが『My Sugar Babe』であり、曲とオーバーラップするのが勝新の愛娘である奥村真粧美と中村玉緒であった。だから私はいまだにこの曲を聴くと、間違いとは分かってはいても、中村玉緒母娘が脳裏に浮かんできてしまって大いに困惑する。もちろん、当の山下達郎氏は熱愛中の竹内まりや嬢を想って作っているのだろうけれど。 同じように「映像であぁ勘違い」みたいな話は、昔からよくある。古くは1977年『愛のメモリー』は三浦友和が出演のグリコアーモンドチョコのCMソングだったため、松崎しげるが歌っているのを見て「違う!」といわれた話とか、最近でも『あったかいんだからぁ♪』が斎藤工が出演のCMで流れていたため、クマムシが歌っているのをみて斎藤工を真似していると思われたとか。映像がいちど植えつけた先入観というものは、なかなか引っ剥がすことができないものだよなぁ。
2016.01.24
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