気さくなスーパースター、リンゴ・スター
7月7日はビートルズのドラマー、リンゴ・スターの誕生日。御年81歳!
リンゴ・スターといえば、1996年にテレビ放送された宝酒造の『すりおろしりんご』のCMがなんといっても印象深い。商品を手に「りんごすったー」とダジャレをかまして音楽ファンを大いに驚かせ、そして音楽ファン以外にも「有名な人なのに面白い」と、その気さくさを認知させたスーパースターだ。
現在は「リンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンド」として活動中で、何度も来日を果たし、日本のファンを喜ばせている。今回は、そんなリンゴが2016年で日本ツアーを開催したときの話を書きたいと思う。
陽気なおじさんが歌い始めた謎曲、はにかみおじさんも加わった即興ライブ
2016年10月、私はあるアーティストのライブでホテルにチェックインの最中だった。そこへ外国人客がゾロゾロとロビーに到着。雰囲気的にも「ミュージシャンだ!」と思ったけれど、「カントリーの人かな…?」なぜかそう思ってやり過ごした。
そして部屋に入り一息つくと、ライブ会場へ向かう時間がやってきた。エレベーターを待っていると扉が開く。そこには先ほどの外国人の姿。1人がニコッと微笑む。私も「Thank you」と応えて微笑み返して乗り込んだ。エレベーターには3人の外国人と私。先ほどニコッと笑って招き入れてくれた “陽気なおじさん” が、チラチラ私を見ては絡みたそうだ。
察した私がニコッと笑うと、突然、私のほうを向いて謎曲を歌い始めた。しかもとても大きな声でリズム良く!
「うわー…」と、思ったけれど、日本人はノリが悪い… と思われたくはない。ここは手拍子でリズム隊を引き受けようじゃないか。
私の手拍子と合いの手に、陽気なおじさんのテンションはさらに加速していく。隣でうつむいているもう1人の “はにかみおじさん” を巻き込んで、3人で大合唱が始まった。
「ヘイ! ヘイ!」のかけ声と共に盛り上がる私たち。スタッフらしき残りの1人は、階数ボタンの前で笑いを堪えるに必死だ。それにしても、即興なのに耳につくキャッチーなメロディー、素晴らしい歌声とリズム感…「この人たちすごいなぁ」。
独占? ハイテンションのエレベーターライブ!
各階で扉が開くたび、「誰か助けて…」と心の中で思うも、あまりのハイテンションに誰も乗ってこない。そりゃ、そうだ。無情に閉じる扉。
「早く… ついて…」と祈るような気持ちでいる私に気づくと、おじさん2人が私の顔をのぞき込んできて、「ヘイ!カモン!!」。みんなで盛り上がるおかしなエレベーターという密室よ…。
チーン。ようやくロビーに到着。長かった… これでやっと解放される…。
「ありがとう。とても楽しかったです」と私は片言の英語でお礼を伝えた。すると、何かツボったように2人は「クククッ」と笑った。その後もなぜかロビーから見える噴水を一緒に眺めて、ひとしきりお喋りを楽しんだ。慌ててホテルスタッフが駆け寄ってきたけれど、おじさんたちに「ここはいいから」と遮られ、下がって見守っていた。
おじさんたちの正体はリンゴ・スター&スティーヴ・ルカサー!
さて、ライブから戻ってきた私。その日の出来事を振り返りながら、ふとホテルスタッフが飛んできたことが気にかかった。「あの人たち、誰だったのかな」と、明日の公演リストをググってみて固まった。検索結果はこうだ。
リンゴ・スター アンド・ヒズ・オール・スター・バンド ジャパン・ツアー 2016
「え…? いや… まさか、そんな…!」
さらに画像をググる。
「あああっ!!」
目に飛び込んできたのは、はにかみおじさんこと、リンゴ・スター! 陽気なおじさんこと、ギターのスティーヴ・ルカサー!
「いやぁぁ!!」
悲鳴を上げて頭抱える私。(待って! 私、変なこと言わなかったよね? 歌うまいですねと言おうとして、やめたよね。どうしてそもそもカントリーとか思ったの?)… と自問自答。
「この子、全然俺たちに気づいてないぜ」と思ったスティーヴが、からかってくれた(?)のだと思う。リンゴは初めは警戒していたけれど、手拍子している私を見て「気づいていない」と思って、一緒になって即興で歌ってくれたんだと思う。
この話をするとみんな「なぜすぐに気づかなかったの?」と言うけれど、そもそも日本に来ていることを知らなければ、まさか隣で歌っているのがリンゴだとか、TOTOのボーカルでギターリストのスティーヴだなんて思わないはずだ。でも、私は曲がりなりにも音楽ライター… だいぶ恥ずかしい…。
たくさん歌ってくれて、一緒に騒いで、噴水を眺めてお喋りを楽しんで… 知らないって本当におそろしい…。
そして猛省の翌日。出かけようとしてエレベーターの扉が開くと、そこには、またしてもスティーヴが! お互いに、
「またかぁ!」
… と大笑い。お腹を抱えて笑い合ったのだった。
リンゴ・スターとスティーヴ・ルカサーという2大スターに気づかなかった日本女性とのおかしな時間を、2人が楽しんでくれたのなら幸いだ。
2021.07.07