令和に入ってから、早見優の人気再燃
令和に入ってから早見優の人気が再燃している。それも “ママタレ” ではなく、“アーティスト” として、主に80年代にリリースした音楽作品が注目を集めているのだ。
知る人ぞ知る過去の名作がサブスクの普及によっていつでもどこでも指先ひとつでアクセスできるようになり、SNSなどの拡散を通して新たなヒットが生まれる昨今の音楽シーン。
その最たる例がシティポップブームの端緒となった松原みき「真夜中のドア」であり、Spotifyで11万人の月間リスナーを抱える早見もまたその一例に数えられるだろう。
アーティスト・早見優の歴史は大きく3つのフェーズに分けられる。語学堪能な帰国子女として脚光を浴び、「夏色のナンシー」「ラッキィ・リップス」などのヒット曲を飛ばした “アイドル期”、「PASSION」「Newsにならない恋」といったバンド的エッセンスの強い楽曲で従来のイメージからの転換を図った “ロック期” 。
―― そして近年、折からのシティポップブームと共に再評価の機運が高まっているのが、80年代後半に試みた “ユーロビート期” である。
音楽番組や懐メロ番組で昔を振り返る際に流れるVTRといえば、もっぱら「夏色のナンシー」を中心としたアイドル期であるため、そもそもユーロビート調の楽曲を歌っていたことを知らない人の方が多いかもしれない。かく言う私も、マニア界隈で話題になっているのを見聞きして知ったクチだ。
早見優とユーロビートの親和性の高さ
80年代半ばにヨーロッパのダンスミュージックが「ユーロビート」と総称して日本に持ち込まれると、アイドル業界はいち早く反応し、これを取り入れた。当初の主流は荻野目洋子「ダンシングヒーロー」、長山洋子「ヴィーナス」に代表される輸入曲の日本語カヴァーで、早見が87年3月に初挑戦したユーロ曲も、レディ・リリーのヒットナンバー「Get out of my life」を輸入カヴァーした「ハートは戻らない」だった。
これが久々のヒットとなったことで早見とユーロビートの親和性の高さが証明され、同年8月には輸入カヴァー曲のみ集めた異色のスタジオアルバム『GET DOWN!』をリリース。また同年11月発表のベストアルバム『YŪ's BEAT』は、そのタイトルからもユーロビートへの強い意識が見て取れる。
ユーロビートとアイドルとの掛け合わせは当時のトレンドだったが、早見の特殊性はシングルからアルバム曲に至るまで徹底してこのジャンルに傾倒した点にある。時系列で作品を聴いていくと、「ハートは戻らない」を契機にはっきりと路線変更したことが分かる。
打ち込みを多用、時代の空気感を切りとったアルバム「WHO'S GONNA COME?」
後年のインタビュー等でも語っているように、早見自身が洋楽のダンスミュージックを愛し、お忍びでディスコにも積極的に通っていたこと。また帰国子女ならではの強みとして英詞を違和感なく歌えることも、“ユーロビート×早見優” のマッチングを成り立たせていた不可欠な要素だと言えるだろう。
ヒット曲「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」で知られるシンガーソングライター・中原めいこが手がけた20枚目のシングル「Caribbean Night」以降は、オリジナルのユーロビート系楽曲をシングルでリリースする流れがしばらく続いたが、どれも輸入曲かと勘違いするほどのバキバキの打ち込みサウンドと、英詞の多さが特徴的であった。これらを難なく歌いこなせる逸材は、80年代アイドル多しといえども早見優くらいのものだろう。
そうした中で88年にリリースしたスタジオアルバム『WHO'S GONNA COME?』は、打ち込みを多用した当時の “音” をこれでもかと堪能できるという点で、早見のディスコグラフィにおいても最も時代の空気感を切りとった作品と位置づけられよう。
フューチャー・ファンクの名匠・Night Tempoとコラボレートした「昭和グルーヴ」
そのうちの1曲「COMPLEX BREAK OUT」と、翌89年のシングル「BEAT LOVER」をこのたびフューチャー・ファンクの名匠・Night Tempoが「昭和グルーヴ」シリーズ第18弾として選曲。オフィシャル・リエディットを施し、7インチ・アナログ盤として7月19日にリリースすることが決定した。
兼ねてからYouTubeでの共演など早見とは接点のあったNight Tempoだが、楽曲のコラボは意外にもこれが初だという。その記念すべき作品に「COMPLEX BREAK OUT」「BEAT LOVER」というクセのある選曲をするあたりが如何にも通好みでニヤリとさせられる。
いずれも原曲の魅力はそのままにNight Tempoらしい大胆なアレンジによって現代的に生まれ変わり、いま若者に人気のあるアイドルの新曲だと言われても全く違和感がない。それでいて80年代ディスコ的な効果音の使用などツボを押さえたアレンジはまさしく「昭和グルーヴ」といった感じで、さすがの職人芸が楽しめる。
早見優の “ユーロビート期” 入門編としてはもちろん、両楽曲を知り尽くすコアなファンも、生まれ変わったサウンドに新たな感動を味わえるはずだ。
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2023.07.19