1987年、「男のコになりたい」で歌手デビューした酒井法子は “のりピー” の愛称で親しまれ、トップアイドルとして活躍。「夢冒険」、「碧いうさぎ」など、数々のヒットを放ってきた。女優としても『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)や『星の金貨』(日本テレビ系)など多くの話題作に出演。アジア各国でも絶大な人気を博している。
その酒井法子が7月19日、自身のプロデュースによる35周年企画『Premium Best』をリリースした。3枚組のCDには既発シングル全36作の表題曲に加え、カップリング曲やアルバム曲から本人がセレクトした18曲と、新曲「Funny JANE」を収録。同時発売の限定盤には貴重映像満載のDVDと、アイドル時代の秘蔵写真に加え、最新インタビューが掲載された別冊ブックが付属するなど、盛りだくさんの内容となっている。
ラジオのレギュラー2本に舞台、テレビ、配信番組… と多忙な日々を送る酒井へのロングインタビュー。第1回は35周年を迎えた心境と、新境地を開拓したと話題の新曲「Funny JANE」に関する話をお届けする。
リスナーの力によって実現した、デビュー35周年「Premium Best」
―― 今回の『Premium Best』は法子さんがデビュー35周年を迎えた昨年2月、ビクターの公式チャンネルで一斉公開された過去のミュージックビデオ(MV)が人気を集めたことがきっかけだったとか。代表曲の「碧いうさぎ」(1995年 / 27thシングル)は2023年7月時点で再生回数670万回を突破しており、リスナーの力によって実現した企画とも言えそうです。
酒井法子(以下 酒井):私にとってはMVが公開されたこと自体がありがたい出来事で。それがこのような企画に繋がるほど、たくさんの方にご視聴いただけて、とても嬉しく感謝しています。
―― 正確に言うと今年は36周年ですが、まずは現在の心境からお聞かせください。
酒井:こんなに長く続けさせていただけるなんて、デビューした頃は想像もしていませんでしたし、自分でも「まさか」というのが正直な気持ちです。その間、いろいろなことがありましたけれども、今回ビクターさんより、新曲を含めて55曲も収録したベスト盤を出していただけることになって、前を向いて歩いてきてよかったと思っています。皆様のお力なくしては、今日の酒井法子はありません。
―― その『Premium Best』は法子さんのプロデュース。これまで発表した全シングルの表題曲のほか、アルバムやカップリング曲からセレクトされた曲が3枚のCDに詰め込まれています。ファン待望の企画といえますが、選曲はどうやって進められたのでしょう。
酒井:これまでリリースした作品をすべて聴き直して、今の私が皆さんに聴いていただきたいと思う楽曲を選びました。ディレクターさんの発案で、ディスクごとに「Cute Songs」「Mellow Songs」「Groovy Songs」というコンセプトを設定したので、それに合うような曲を並び順なども考えながら収録しています。こういった形でのベストアルバムは初めてですが、聴いてくださる方のことを考えながら選曲するのはとても楽しい時間でしたね。そしてその作業を通じて、自分には素晴らしいアーティストの皆様に提供していただいた宝物の楽曲がたくさんあるのだから、これからも大切に歌っていかなくてはならないと改めて思いました。
新曲「Funny JANE」は大人カッコいいグルーヴ感
―― 確かに法子さんの楽曲は今も一線で活躍するクリエイターが手がけた傑作揃い。そのレパートリーに今回、新たな1曲が加わりました。新曲としては6年ぶり、シングル(配信)としては16年ぶりとなる「Funny JANE」です。
酒井:ベストアルバムのお話をいただいたとき、ビクターさんが新曲の提案もしてくださったんです。私は最近、舞台で演じたことがきっかけで越路吹雪さんの歌を歌わせていただいたりしているので、カバーという選択肢もあったのですが、「せっかくですからオリジナル曲を作りませんか?」と。それで「ステージで歌ったときに皆さんが盛り上がれるような楽曲を」というリクエストをさせていただいたんです。
―― その心は。
酒井:私の歌って「碧いうさぎ」をはじめメロウな楽曲が多くて、自分自身もそういう曲が歌いやすくて好きなものですから、ディナーショーとかのセットリストを組むと、「座ってゆっくり聴いてください」的な、しっとりとした曲が多くなりがちなんですね。でもショーですから、みんながノレるような曲があったっていい。お客様だって、いろんな曲があった方が楽しめるじゃないですか。私には10代の頃に歌っていた弾けた曲もありますけれど、それとは違う、大人カッコいいグルーヴ感のある曲があったらいいな、と以前から思っていたんです。
―― たとえば「あの曲のような」という具体的なイメージはありましたか。
酒井:楽曲ではないんですけど、世界観としては『バーレスク』(2010年に公開された米国のミュージカル映画 / 主演:シェール、クリスティーナ・アギレラ)です。あの映画を初めて観たとき、華やかで、カッコよくて、「これぞエンターテイメントだ!」と魅了されて。繰り返し観るうちに「私もこういうものをお届けしたい」と思うようになったんです。
―― ダンスを習い始めたのはそれがきっかけなのでしょうか。
酒井:はい。バーレスクは本来、ヌードになるショーなんですが、それとは違うショーアップされたダンスを身につけたくて渡り歩くうちに、素敵なダンサーさんに出会うことができて。その方のショーを観に行ったら、すごくクリエイティヴでハイレベルな踊りを披露するダンサーさんがたくさんいらっしゃったので、そこから皆さんに踊りを教えてもらうようになりました。今から7〜8年前のことです。
―― 「Funny JANE」の構想はその頃からあったわけですね。
酒井:彼女たちがショーのために選ぶ曲はどれもカッコよくてセンスがいい。ショーの完成度が素晴らしく高いことにも圧倒されました。ですから私もその要素を少しずつ自分のステージに採り込んでいったんです。まだまだ発展途上ですけど、足を運んでくださる方に少しでも新しい部分をお見せしたい。そう思って自分なりに工夫を重ねています。もちろん簡単なことではありませんが、自分が好きなものをどう反映させようかと考えるとワクワクするんですよね。それだけにステージで披露して「面白かった!」と言っていただけたときは大きな喜びがあります。
―― ダンサーさんたちとの出会いが刺激となって、セルフプロデュースの楽しさを発見されたようにお見受けします。
酒井:もちろん私一人では大したことができなくて、皆さんのお力をお借りしながらですけれど、クリエイティブな方たちとのお付き合いが生まれて、そこで学んだことを表現できる場があることは幸せだなと思います。今回の新曲に関しても、尊敬するダンサーさんたちが「振りを付けたい!」と思ってくださるような曲、彼女たちと一緒にパフォーマンスできるような曲にしたいという想いがありました。
作詞家 森雪之丞と32年ぶりのタッグ
―― リリースから10日ほど経ちましたが、皆さんから何か反応はありましたか。
酒井:嬉しいことに「カッコいいですね!法子さん」と言っていただけて。彼女たちとどういうことができるか、これから考えたいと思っています。
―― その新曲「Funny JANE」は作詞が森雪之丞さん、作曲が伊澤一葉さん。編曲は伊澤さんと江口亮さんが担当されています。制作はどういう形で進行していったのでしょう。
酒井:『バーレスク』というコンセプトをお伝えしたとき、ディレクターさんが「そういう世界観なら森雪之丞さんがいいのではないか」とおっしゃって。
―― 森さんは「GUANBARE」(1988年 / 5thシングル)以降、8篇の詞を法子さんに提供されていますが、今回は「モンタージュ」(1991年 / 18thシングル)以来、32年ぶりのタッグです。
酒井 たくさんのアイデアをお持ちの方で、当時は「異星から来られたのではないか」と思うこともありました(笑)。ただ最近はご無沙汰しておりましたので、「久しぶりに書いていただけたら嬉しい」というお話をしたら、ありがたいことに快諾してくださって。その後、雪之丞さんが訳詞や作詞を手がけられた舞台を2本、拝見したのですけど、どちらも面白くて、エッジが効いている。しかも以前よりパワーアップされていて、改めて「すごい方だな」と思いました。
―― 限定盤付属のDVDに収録されたメイキング映像のなかで、森さんは「作詞をするときはいつも歌い手の声や気持ちを通して伝えることを考えている」「今回は今の酒井法子が歌ったら絶対にいろんな人に伝わる詞、ほかのアーティストよりものりピーが歌った方が何百倍も響くようなフレーズを意識して作った」とコメントされていました。
酒井:最初の打ち合わせで「のりピーは今どういう歌を歌いたい?」と訊かれたので、今の気持ちをお伝えしたたら、その要素をすべて詞に採り入れてくださって。「何年も経って、また書かせてもらうわけだから、気合いを入れないとね」と言ってくださったことも嬉しかったです。ちなみに「夜通し迷子同士どうもどうも」の歌詞。あの「どうもどうも」というフレーズはのりピーらしいと思ってあえて入れたんだそうです(笑)。
作曲は、東京事変のキーボーディスト伊澤一葉
―― 作曲の伊澤さんは東京事変のキーボーディストや音楽プロデューサーとしても活躍されるミュージシャンです。法子さんとは初顔合わせですが、キャスティングの経緯は。
酒井:雪之丞さんからの推薦でした。もともと東京事変がすごくお好きで、以前から伊澤さんと仕事をしてみたいと思っていたそうです。
―― 伊澤さんは何曲も提出してくださったようですね。
酒井:お願いしたのは1曲なのですが、さまざまなタイプの曲を作ってくださいました。最初は『ひとつ屋根の下』で演じた小雪のイメージが強かったみたいでメロウな感じの曲。10代の頃に作った曲をベースにしたとおっしゃっていました。次は少しダウナー系の曲、さらにエレクトロ系のダンサブルな曲も出していただきました。私は生意気にも3曲目の作品がクラブっぽくていいなと思ったのですが、伊澤さんは「まだやりようがあるはず」とギリギリまで粘って最後の最後にもう1曲、出してくださった。それが「Funny JANE」の原曲です。
―― 森さんも、伊澤さんも、法子さんのために精魂傾けて創作されたことが窺えます。
酒井:ありがたいことですよね。どの曲も素晴らしかったので、相当悩んだのですが、雪之丞さんが推されたこともあって、「これでいこう」と決めました。聴き手の波動が上がるようなポップさと、ジャズロックのようなカッコよさを併せ持つ曲を提供してくださって、心から感謝しています。
―― その曲に森さんが詞をつけたわけですね。
酒井:畳みかけるようなテンポの曲で、「これにどうやって詞を乗せるのだろう」と思っていたのですが、1週間ほどで詞が完成して。プロフェッショナルなお仕事ぶりを目の当たりにして感動しました。でも自分で要望しておきながら情けない話なんですけど、私は最初、歌えなかったんですよ(苦笑)。
―― 言葉がたくさん詰め込まれているので、譜割りが難しそうです。
酒井 いきなりラップっぽく、韻を踏むところから入るじゃないですか。譜面を見ても、詞が全く音符にはまらなくて、どうしてもうまく歌えなかったんです。しかも今回は仮歌も私が歌うことになったので、どなたかのお手本があるわけでもない。完全にお手上げで、いつもコーラスをやってくれている(堀)望美ちゃんと、ボイストレーニングをお願いしている先生に「SOS」を発信して、歌い方をレクチャーしてもらったんです。
―― そんなご苦労があったとは。
酒井:「今までにないタイプの楽曲で、どう歌えばいいか分からない。助けて!」と言ったら、2人からそれぞれ「こう歌ってみたら」というデモが届いて。望美ちゃんの歌はグルーヴィーな感じで、先生の方は譜面に忠実な歌い方。タイプは違うんですけど、自分なりに咀嚼してやり取りを重ねるうちに、「そうか、こうやって歌えばいいんだ」という光明が見えました。
―― 今回参加されたミュージシャンは伊澤さん(ピアノ、ハモンドオルガン)、城戸紘志さん(ドラム)、須永和広さん(ベース)とアレンジャーの江口亮さん(後日ギターダビングで収録)の4人だったと伺っています。
酒井:音の数としてはそれほど多くないと思いますが、素晴らしい演奏で厚みのあるサウンドを作ってくださいました。皆様のお力によって私がイメージしていたカッコいい曲を作ることができて、感謝の言葉しかありません。
―― ステージ映えしそうで、法子さんがどういうパフォーマンスで「Funny JANE」を歌われるか、今から楽しみです。
酒井:リスペクトしているダンサーさんたちとコラボができたら最高ですけど、楽曲自体に力がありますから、私自身はあまり気張らず、作り込まず、ありのままで歌ってもいいのかなと。いずれにしても皆さんの前でお披露目する機会を早めに作りたいと思っていますので、楽しみに待っていてください!
第2回につづく
酒井法子 35周年 ANNIVERSARY
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2023.07.30