10月5日

ユーミンは神レベルのメロディーメーカー、松任谷由実「埠頭を渡る風」

50
1
 
 この日何の日? 
松任谷由実のシングル「埠頭を渡る風。」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1978年のコラム 
羽生結弦もむせび泣き、ゲイリー・ムーアは泣きのギターを顔で弾く!

人生を変えた西遊記、映画監督に憧れた少年時代とガンダーラ

ぎんざNOW!が教えてくれた「ショットガン」と「めんたいこ」の味

スポ根アニメの傑作「エースをねらえ!」大杉久美子とVIPの主題歌も名曲!

アイム・エヴリ・ウーマン、 チャカ・カーンとホイットニーどっちが好き?

♪バーイセコ、バーイセコ、潮風に吹かれて40年後のバイシクル・レース

もっとみる≫




メロディが9割 Vol.7
埠頭を渡る風 / 松任谷由実


松任谷由実を天才たらしめる最大のスペックとは?


ユーミンは詩人である、と言われる。

事実、荒井由実時代の「中央フリーウェイ」では、「♪右に見える競馬場 左はビール工場」と、単なる情景描写で、デートドライブの臨場感を映す高度なテクニックを披露したし、「DESTINY」では、「♪どうしてなの 今日にかぎって安いサンダルをはいてた」と、悲しいほどの女の性を浮き彫りにした。

また、「魔法のくすり」では、19世紀の詩人オスカー・ワイルドからインスパイアされた「♪男はいつも最初の恋人になりたがり 女は誰も最後の愛人でいたいの」の名フレーズを残し、物議を醸した。

これらの楽曲は、1991年にTBSで2クールに渡って、一話完結でドラマ化されたことからも、物語の中に読み手の共感を誘うリアリティを含んでいる。そう、ユーミンはまごうことなき詩人である。

だからだろうか。彼女を評する際に、多く語られるのは、作詞の観点である。フォークの匂いを残した荒井由実時代は比較的文学性の視点から語られ、結婚して松任谷姓になって以降は、時代のトレンドを含んだ預言者的なスタンスで評される。

だが、僕は敢えて、その傾向に異論を唱えたい。

ユーミンは詩人である。類稀なる時代の語り部だ。そこに異論はない。そうじゃなくて、僕が言いたいのは―― ユーミンを天才たらしめる最大のスペックは、神レベルのメロディーメーカーであるところ。

そう、メロディーメーカー。これが今回の僕のコラムのテーマだ。そして、その一例として、取り上げる楽曲が、今から43年前の今日―― 1978年10月5日にリリースされた、ユーミン通算12枚目のシングル「埠頭を渡る風。」である。

アルバム「流線形'80」からのシングルカット「埠頭を渡る風」


「埠頭を渡る風」は、1978年11月5日にリリースされたユーミン6枚目のオリジナルアルバム『流線形'80』に収録されたナンバーである。同年7月に先行シングルとして発売された「入江の午後3時」に続くシングルカットだった。シングル盤のジャケットは、街の灯りと夜の海を背景に、埠頭にたたずむ大人びたユーミンが一人。シティポップを思わせるアートワークである。

『流線形'80』は、かねがね僕が唱えている理論「黄金の6年間」でも重要な位置を占める、エポックメーキングな名盤だ。黄金の6年間とは、1978年から1983年までの6年間の東京を指す。東京が最も面白く、猥雑で、エキサイティングだった時代である。

同アルバムはそのタイトルが示す通り、2年後に訪れる80年代的な匂いに満ちている。まさに、予言者・ユーミン。何せジャケットからして、1954年製の流麗なシボレー・コルベットが宙を飛んでいる。ベトナム反戦運動でラブ&ピースが叫ばれた70年代から一転、夢と娯楽の80年代を彷彿とさせる。

ちなみに、アメリカで流線形のクルマが流行したのが、第二次世界大戦が終わり、同国が最も繁栄を極めた “黄金の50年代” である(映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でマーティがタイムスリップした先が1955年ですネ)。そう、時代は繰り返す――。

面白いことに、同アルバムに収録された楽曲たちは、オンタイムでは今ひとつハネなかったものの、80年代以降に再評価される形でブレイクした。「ロッヂで待つクリスマス」は映画『私をスキーに連れてって』、「真冬のサーファー」は映画『波の数だけ抱きしめて』と、いずれもホイチョイ映画で使用され、「埠頭を渡る風」はユーミンのリゾートライブ「SURF & SNOW」の夏の逗子マリーナのラストを飾る定番になった。時代が追いついたのだ。

イントロからいきなりの頭サビでメロディ全開!


さて――「埠頭を渡る風」である。

これが、イントロからしてヤバい。始まった瞬間、流れるような旋律が一瞬で場の空気を支配する。そこにトランペットが加わり、高らかに吹き上げる。正直、これまでのユーミンの楽曲と比べて大仰なアレンジに若干戸惑うが、これから何が始まるんだろうというワクワク感がそれを上回る。そして歌が始まる。

 青いとばりが 道の果てに続いてる
 悲しい夜は 私をとなりに乗せて
 街の灯りは 遠くなびく ほうき星
 何もいわずに 私のそばにいて

いきなりの頭サビだ。もう、メロディが全開。音圧と疾走感も半端なく、ドラマや映画でいえば、いきなりクライマックスを迎えた感じ。時々吹き上がるトランペットとトロンボーンが、物語を更に盛り上げる。

 埠頭を渡る 風を見たのは
 いつか二人が ただの友達だった日ね
 今のあなたは ひとり傷つき
 忘れた景色 探しに ここへ来たの

今度はAメロだ。が、ここでもユーミンのメロディは休まない。その旋律は一度聴くだけで耳に馴染む印象的なもの。まさにドラマチックと言っていい。先のサビと同じく、ここでも2度旋律が繰り返される。それにしても、一貫してそのメロディの強いこと!

――ところが、次のBメロで初めて曲調が変わる。

歌詞をじっくり聴かせるBメロ


 もうそれ以上
 もうそれ以上
 やさしくなんて しなくていいのよ
 いつでも強がる姿 うそになる

疾走感から、一旦、立ち止まるのがBメロだ。このパートは歌詞をじっくり聴かせる仕様になっている。いい意味で、他のパートとの対比が際立ち、存在感がある。そして、終わると即イントロ(間奏)に繋がる。通常の曲構成と違って、かなり変則的であり、人によっては、このBメロをサビだと指摘する人もいる。

同曲の構成は基本、これらイントロ・サビ・Aメロ・Bメロの繰り返しである。Bメロを除けば、いずれも疾走感にあふれ、メロディアスだ。一度聴いたら、誰もの耳に残る。一方、Bメロもいい意味でアクセントになっている。

メロディに長けた楽曲が聴き手の心を揺さぶる


 白いと息が 闇の中へ消えてゆく
 こごえる夜は 私をとなりに乗せて
 ゆるいカーブで あなたへたおれてみたら
 何もきかずに 横顔で笑って

今回のコラムは、歌詞の内容には触れず、ひたすらメロディについて語っている。書いてみて分かったが、メロディは極めて語りづらい。世の音楽評論家が楽曲を解説する際、詞やサウンドに走るのも無理はない。ビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」は語れても、「ペニーレイン」は語りにくいのだ。

―― とはいえ、僕は多くの聴き手の心を揺さぶる音楽とは、やはりメロディに長けた楽曲だと思う。まず、メロディが耳にスッと馴染み、続いて詞やサウンドに興味が湧く。国境を越えて共感が広がるシティポップブームが、まさにそうであるように。

その意味では、「埠頭を渡る風」は極めてメロディアスである。個人的には、同曲のメロディだけでごはん3杯はイケる。ユーミンが真の天才たる所以は、それまでの自身の楽曲の傾向とはまるで異なる、突然変異のごとく名曲を軽々と生み出してしまうところにある。

「埠頭を渡る風」が遠く離れたシティポップ好きの外国人に見つかる日も、きっと近い。

▶ 松任谷由実の記事一覧はこちら!



2021.10.05
50
  Songlink
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1967年生まれ
指南役
コラムリスト≫
95
1
9
7
8
黄金の6年間:いよいよユーミン再始動!松任谷由実の新しい世界が始まった
カタリベ / 指南役
60
1
9
8
9
松任谷由実「Valentine's RADIO」スキーといえばユーミンとオリジナルカセット!
カタリベ / ミチュルル©︎たかはしみさお
56
1
9
7
8
ユーミンサウンドとオトナの胸キュンドライブ「埠頭を渡る風」
カタリベ / 稲田 雪路
111
1
9
9
1
ホイチョイ映画「波の数だけ抱きしめて」1982年の夏は大滝詠一と山下達郎
カタリベ / 中川 肇
38
1
9
8
5
資生堂 vs カネボウ CMソング戦争 〜 ユーミン初の資生堂タイアップ
カタリベ / @0onos
136
1
9
8
7
映画の半分は音楽でできている。ホイチョイ・ムービーと予言者ユーミン
カタリベ / 指南役