私にとって『ハイ・ファイ・セット』というグループは特別な存在である。
しかし、残念なことに私がハイ・ファイ・セットにハマったのは、実はリアルタイムではない。理由は彼らの音楽を理解するにはまだ自分自身が幼すぎたせいだ。ハイ・ファイ・セットに後追いで再遭遇するのは、高校に入学しようやく異性を意識し始めた頃である。渋谷図書館の音楽コーナーで偶然手にしたアルバム「ファッショナブル・ラヴァー」を聴いたのが最初。
メインの山本潤子さんの透明感あふれる美しいヴォーカル。広がりのあるサウンドを生み出すハイトーンとローボイスの男性コーラス。マンハッタントランスファーを思わせる爽やかなハーモニー。とにもかくにも、それまでの日本のポップスにない洒落た洋楽のようなセンスに脱帽。クラスメイトに恋をして、彼女の姿と重ねて同名曲を聴き、それ以後自身のフェイヴァリットソングとなっている。
ところで、ハイ・ファイ・セットを語る上で最も重要なのは、音楽プロデューサー・村井邦彦氏であるだろう。彼の存在を無くしてハイ・ファイ・セットは存在しない。グループの前身である赤い鳥の他に松任谷正隆、細野晴臣が参加していた音楽ユニット、ティン・パン・アレーを見い出すなど、1970年代の音楽シーンを作り上げ、1980年代への下地を固めた人である。
そもそも赤い鳥の時代から、国際的なマーケットを視野に入れ、アルバムの収録曲全曲を英語にすることを試みるなど、常に時代の先を行く演出をしてきた同氏。ファーストアルバム一枚でハイ・ファイ・セットを「脱フォーク宣言」させてしまったその腕力たるや驚くべき仕事であると思う。村井氏が作曲した「エイジス・オブ・ロック・アンド・ロール」や「フィッシュ・アンド・チップス」などは、ハイ・ファイ・セットをフォークソングという呪縛から完全に解き放っている。
もちろん、初期の楽曲に荒井由美(松任谷由実)が加わっているのも大きい。村井氏がポップな洋楽らしさを追求するのに対して、ユーミンは恋心と心象風景を淡々と描いていく。二人がそれぞれ作曲と作詞を担当した「スカイレストラン」(1975年)は村井氏の洗練された音楽性とユーミンの女性らしさ、繊細さが同居していて、私はハイ・ファイ・セットの楽曲群の中で最も素晴らしいコラボーレーションだと思っているのですが、あなたはどう思いますか? つづく
ファッショナブル・ラヴァー
作詞:大川茂
作曲:山本俊彦
発売日:1976年(昭和51年)6月5日
スカイレストラン
作詞:荒井由実
作曲:村井邦彦
編曲:松任谷正隆
発売日:1975年(昭和50年)11月5日
2016.07.15
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