スキー映画という範疇を超え、その後の日本映画に大きな影響を与えた『私をスキーに連れてって』の公開から今年(2017年)で30周年になる。
この大きな節目の年の冬に本作のネタを書かずして一体いつ書くのだ!? と悶々としていたら、JR東日本も発足30周年とかで『JR SKISKI』とのコラボキャンペーンが始まった。なんだか、そのCMを見て思い出したみたいでちょっと悔しいのだけれど、今回は『私スキ』のことをリマインドしたい。
まずは参考までに『私スキ』をググってみた。そしたら、出るわ出るわ『私スキ』のトリビアブログが。研究対象としている人はかなり多そうだ。ヘタなことは書けない。
そしてさらに驚愕の事実を知る。このサイト(Re:minder)にはホイチョイに縁が深いという指南役さんが執筆陣として参加されているというではないか。そんなところへ私が知る程度の薄っぺらなおまとめコラムを載せても、読者の貴重な時間を浪費するだけだろう。編集長へ軽率な申し出をしたことに後悔の念が…。
まぁ、しかしだ。ここで書きたいと思ったのは、いかに私が『私スキ』をスキ(ややこしい表現だ)だったかという個人的な記録だ。なので、私スキな人間の独りよがりな文章をご容赦願いたい。
前段の話がすっかり長引いてしまった。思い出語りに移りたい。
私が初めて『私スキ』を観たのは1988年の12月24日のこと。高島忠夫が解説を務めていた『ゴールデン洋画劇場』だった。ちなみに、その前年に劇場公開されたとき私はまだ日陰を生きる浪人生。よりによって “滑る” 映画を観る気分など微塵もなかった。
私はどうにか大学に入って初めての冬を迎え、年明けに友達とバスツアーでスキーへ行くことになっていた。私のスキー歴は小学校を卒業するまで札幌で育ち、YMCAのスキースクールにも通ったことがあるので初心者ではなかった。ただし、関東に移住して以降はスキーから完全に遠のいていた。
神田のビクトリアでK2の板とサロモンのブーツ&ビンディングのほか、ウェアやゴーグルも揃え、道具の準備は万端。気分が盛り上がってきているところへ『私スキ』が放送されるというので、一応観ておこうという感じだった。
しかし、小学生から約10年のブランク期間を経て『私スキ』の中で見たスキーは、私の幼い頃のそれとはまるで違う世界が広がっていた。仲間とスキーに行くととにかく楽しいらしい。私はこれから始まるスキーライフを想像して心を躍らせた。
番組を録画したVHSテープを何度繰り返して観たことだろう。しかし、現実に一緒に行くのは野郎ばかりで、往復は格安でシートの狭いバスツアー。これでは『私スキ』の世界観にはほど遠い。
それならばと、大学2年になってスキーサークルに入った。履修届を提出するときに校門前で勧誘チラシをもらったのがきっかけだが、近くの女子大との合同サークルというし、何より名前が良かった。ゼファーズ。そう、本編の中で仲間が集まるバーとして度々登場した『ゼファーイン』が由来だ。
サークルの中では彼女ができたりしてそれなりに楽しかったし、もちろんスキーにも没頭した。しかし、まだ『私スキ』の実現には距離があった。そこで思いついたのが、映画の音声を録音してスキーの時にBGMとして使うことだった。
ゲレンデに向けて出発する前は、本編冒頭の矢野君のガレージの音をカーステレオで流す。そして、カセットを入れる音に続いて「サーフ天国、スキー天国」が始まったらクルマを出す。
おお! 気分は赤いカローラⅡ! 明治屋にも寄ってみる?
急斜のコースを滑る前には、矢野君が優を追いかけて志賀・万座ツアーコースを滑り出すときの「BLIZZARD」のシーンを聴く。
おおお! どうだ? オレの滑りがスローモーションに見えないか?
ナイター滑走時にリフトを降りたところでは、万座のサロット発表会場へ急ぐシーンを聴きながらゲレンデを見下ろしてみる。
おおおお! 思わず「万座の灯りだ」と口ずさんでしまう・・・。
当時はまだカセットプレーヤーしかない時代。ゲレンデでヘッドホンやイヤホンをして滑る人間は皆無に近かった。友達から「何聴いてんの?」と時々尋ねられたが、さすがに「私スキの音声だぜ」とは言えず「ああ、エアロとか?」など適当に答えていた。しかし、シーンの音声に没入するあまり一人で笑みを浮かべたりしたので、傍目から見たらさぞかし気味が悪かったことだろう。
こうなってくると、スキーをするための『私スキ』なのか、『私スキ』のためのスキーなのか分からない。世界観というよりはコピーを目指していただけなのかもしれない。
いずれにしても、今思い出すとじわっと汗が出てくるような恥ずかしい行為の記憶だが、このように観たり聴いたりをひたすら続けていると虚構も現実化していく。
なんとなく、私の中ではその後矢野君と優が結婚して、今頃は子供が成人。またあの楽しい仲間が毎年クリスマスには苗場に集まっているのではないかとも思えてくる。最近のゲレンデにはそうした年代が戻ってきているということだし。
試しに私も久しぶりに行ってハンディ無線機で例のコールサインを呼びかけてみようか。
「JM1OTQ、JM1OTQ、メリットありますか?」
「メリット5」と矢野君が返してくれることを期待して。
2017.12.20
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