10月1日

ゴダイゴ「ガンダーラ」:スージー鈴木の OSAKA TEENAGE BLUE 1980 vol.3

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OSAKA TEENAGE BLUE 1980~vol.3

■ ゴダイゴ『ガンダーラ』
作詞:奈良橋陽子
日本語詞:山上路夫
作曲:タケカワユキヒデ
編曲:ミッキー吉野
発売:1978年10月1日

1979年、小学校の卒業式は学ラン背負って


1979年3月。小学校の卒業式。「男子はこれから通う中学校の学生服で参加する」という不思議な風習があったので、僕らは、着慣れない学ランを背負って、式に参加した。クラスメイトのほとんどが、近くの公立中学に行くのだから、男子の列は、ほとんどが同じ学ラン姿だ。

「こんなん、一日中着てられるんやろか?」

と、僕は思った。息苦しいのだ。詰め襟を締めると、詰め襟の裏に貼られている、白いセルロイド製の首輪のような物体が、喉を強く締め付ける感じがする。

話が違う……だろう。小学生から中学生になるということは、ちょっとは自覚が出来た大人になるということではないのか。だとしたら、大人への小さな階段をのぼった分だけ自由になれそうなものなのに、私服の小学生時代に比べて、中学生になると、なぜ、息苦しく締め付けられることになるのだろう。

ひどく憂鬱になった。やれやれと思った。これからの中学生時代は、まるでこの学ランのように、重くて息苦しい日々なのか。

みんなも、少しずつそう思っていたようだ。卒業式が終わると、誰からともなく、「府民の森」に遊びに行こうという話で盛り上がった。

生駒山・府民の森へ! 小学生最後の春休み


小学生として最後の春休み。近くにそびえる生駒山(いこまやま)に、最近整備された「府民の森」というエリアへ遊びに行く。メンバーは、僕を含む同じクラスの男女7人。男子4人に女子3人。

みんなが妙に楽しそうだったのは、来たる中学時代への緊張や恐怖からの反動だろう。キャッキャと笑いながら山を登り、キャッキャと笑いながらお弁当を食べ、キャッキャと笑いながらバカ話をする。

いちばん盛り上がったのは、「あの頃、誰が誰を好きだった」という話だ。恋も愛も恋愛も、まだちっとも知らないくせに、「恋のようなもの」を偉そうに語っている。

暗黒とも言えるような真っ黒な色味、着るというよりも「背負う」という感じになる重くて厚い生地、その上、首のところをピターッと締め付ける息苦しさ―― あの学ランをまとい続ける3年間。

どんな3年間になるのだろう。こんな感じでキャッキャ出来る瞬間はあるのかな。

日差しの強い3月の春の日だった。キャッキャ・キャッキャとしているうち、あっという間に時は過ぎて、夕方の帰り道。遠くに見える大阪湾の方向からの大きな夕陽に包まれながら、7人が山道を下っていく。

「西遊記」のエンディングテーマ「ガンダーラ」


道の脇に、AMラジオをつけっぱなしにした軽トラが停まっていた。女性のパーソナリティが「今日はほんまに、ええ陽気でした。気象庁によれば5月の気温らしいですわ」と話している。この声の感じは、多分MBSラジオだ。

「ほな、リクエスト行きましょう。吹田市の匿名希望さんのリクエストで、ゴダイゴの『ガンダーラ』」

昨年の10月に発売されたゴダイゴの大ヒット曲。読売テレビで流れていた『西遊記』の主題歌ということもあり、次のシングル『モンキー・マジック』同様、1978年から79年にかけての音楽シーンを席巻。小学生の目から見ても、アリスからゴダイゴにスポットライトが移ったように見えた。

ほのぼのした牧歌的なイントロ。それに続く哀愁のあるメロディライン。僕ら7人全員の大好物だ。

山道。それも下り道。誰も歩いていない。調子がいい。歌おう。ここはステージだ。小学生としてのこの仲間の解散コンサートだ。

「♪そこに行けばどんな夢も かなうというよ」

坂道を下りながら、みんなで声を合わせて歌った。「そこ」ってどこ? これから行く中学校は「そこ」なのか? と、考えながら。

ガンダーラ? 東大阪・生駒山のふもとにあったもの


7人の中のリーダー格である吉野が、突然姿を消した。山道の脇に逸れたところにある、小さな池を見つけたのだ。

夕陽を感じないほど木々で覆われた、小さな池を取り囲む閉ざされた空間。見ようによっては大きな洞穴のよう。このような光景を、13歳のまなざしが見つめると、連想することは、たった一つだ。

「ここ、俺らの秘密基地や!」

そう「秘密基地」。13歳は、恋より愛より、恋愛なんかより、まだまだ秘密基地が大好物な年齢だ。小学生生活の最後の最後に見つけた、宝物のような秘密基地。

「ここ、俺らだけの名前付けようや」
「付けよ、付けよ」
「ええ名前あるか?」

吉野が最高の回答を披露する。

「ある。あるで――『ガンダーラ』や!」

曲の中では「♪They say it was in India」――インドにあると歌われた「ガンダーラ」が、東大阪にあったなんて。生駒山のふもとにあったなんて。

みんなは歓喜した。小さな秘密基地の中で、思い思い、木にぶらさがったり、池に石を投げたりしながら、「♪そこに行けばどんな夢も かなうというよ」と歌った。

しかし、池の深さが分からない。こんな小さな空間にある池、というか水たまりの延長のようなものなのだから、そんなに深いわけがない。しかし、日差しと隔絶された暗闇の中にある池。飛び込むのには勇気が必要だ。

「しゃあないなぁ、俺が飛び込んだるわ!」

吉野リーダーが叫んだ。男子からは、やんややんやの歓声。ただ、この時期は男子より女子のほうがちょっと大人だ。「なに子供っぽいこと言うてんねん」という感じで、女子の目線はちょっと冷ややか。

「アチャー!!!」

ゴダイゴ『モンキー・マジック』の最初の雄叫びのような奇声を発して、ドラマ『西遊記』の孫悟空役=堺正章のように、吉野が飛び込んだ。

ジャッボーン!

水が大きく跳ねた。でも、そんなに深くはなかった。水面は、吉野の腰のあたり。でも、吉野のズボンはもちろん、Tシャツも水びたしだ。

「ほな次は俺や!」

次に浅野、その次に武川、「アチャー!!!」という奇声を発して、男子が次々と飛び込んでいく。吉野はそれを見ながら、池の中に全身を埋め、もうビショビショになっている。

心の中に生きる幻に飛び込め!


こうなると僕も行かざるを得ない。みんなが僕の名前を、まるで甲子園の「田淵コール」「掛布コール」のように叫んでいる。

僕は行く。僕は跳ぶ。見る前に跳ぶ。池を見る前に高く跳ぶ―― 跳んだ!

その瞬間、「ガンダーラ」の空間の頂点で僕は、服を着ているにもかかわらず、素裸になった気がした。生まれたままの姿。もちろん学ランなんかにも縛られない、他の誰でもない僕のあられもない姿。

「アチャー!!!」

ジャッボーン! 勢いで全身が水に浸かってしまった。

「♪自由なそのガンダーラ 素晴らしいユートピア」

まるでガンジス川の沐浴のように、「ガンダーラ」の池が、まるで僕たちを浄化させた気がした。それでも「♪心の中に生きる 幻なのか」とも、少しだけ思いつつ。

吉野、浅野、武川、そして僕の男子4人は、池に浸かりながら、陽が落ちるまで笑い続けた。女子3人は、初めは、冷ややかな眼差しで付き合っていたものの、呆れて途中で帰ってしまった。

この7人に対して、別け隔てなく、等しいスピードで、中学生活が近付いてくる。そして、この7人が、別け隔てなく、等しいスピードで、大人の階段をのぼっていく。

来たる中学生活が、この「ガンダーラ」みたいに自由なのか、重くて息苦しいのかわからない。

いや、たぶん息苦しいのだろう。「ガンダーラ」が「心の中に生きる幻」だってことは、みんな、もう薄々分かっている。

でも、「アチャー!!!」と叫びながら飛び込めば、きっと大丈夫さ。

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2021.11.14
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カタリベ
1966年生まれ
スージー鈴木
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