子供の頃から、大人向けのドラマが好きだった。大映ドラマにハマる友達を横目に、私が夢中になったのは、山田太一や向田邦子、鎌田敏夫らが描く大人の世界だった。
この巨匠たちの作品ではないが、“大人” を感じたドラマとして忘れられないのが、TBSで金曜夜10時に放送していた「あまく危険な香り」。根津甚八演じる、恋人の死の真相を探るトラック運転手が、倍賞千恵子演じるお金持ち未亡人と恋に落ち… という、サスペンスに恋愛が絡むストーリーだった。ちょっと昼ドラっぽいが、タイトル通り、大人のにおいぷんぷんのドラマだ。
主演は、根津甚八と倍賞千恵子。状況劇場出身の甚八が、ギラギラしていて男っぽい。千恵子も、ここでは寅さんのさくらではない。高飛車で、甚八との恋で変わっていく金持ちマダム役が美しかった。一緒に見ていた母が、「倍賞千恵子は元SKDだから、もともと身のこなしがきれいなのよ」なんてことを言ってたっけ。
甚八の妹を演じる浅野温子のアンニュイさ、お抱え運転手として千恵子に寄り添う岡田真澄のミステリアスっぷりもたまらなかった。トレンディドラマ前の浅野温子は、気まぐれ小悪魔系で、ほんとかわいかったなぁ。
そして、このドラマに多大な効果をもたらしていたのが、ドラマタイトルと同名の山下達郎の主題歌。イントロが流れた瞬間から、まさに「あまく危険な香り」に誘う。中学生だった私は、毎回ドラマのクライマックスでこの曲が流れると、「これが大人の世界なのね。早く大人になりたいー」と、茶の間で身悶えした。
だが、大人になれば、こんな世界が待っていると思ったのは大きな間違い。「あまく危険な香り」がどんな香りなのか、未だにわからない。倍賞千恵子はこの頃40歳。80年代の40歳は、ちゃんと大人だったよねとしみじみしていたのだが、山下達郎が29歳の若さでこの大人な曲をリリースしたことは驚いた。ボズ・スキャッグスやスティ―リー・ダンの曲など、アーバンでアダルトな80’sヒットは数々あるが、日本代表はこの曲で決まりだと思う。
2016.10.13
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