2022年 2月25日

還暦を迎えた “悩める子供達” ティアーズ・フォー・フィアーズの劇的な復活!

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ティアーズ・フォー・フィアーズのアルバム「ザ・ティッピング・ポイント」が英国でリリースされた日
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ティアーズ・フォー・フィアーズ18年ぶりの新作「ザ・ティッピング・ポイント」


2022年2月25日、ティアーズ・フォー・フィアーズのニューアルバム『ザ・ティッピング・ポイント』がリリースされた。なんと18年ぶりの新作アルバムだ。

以前、リマインダーのコラム『デュラン・デュランの最新作「フューチャー・パスト」懐かしむより超えていけ!』にも書かせて頂いたが、2020年代のポップミュージックシーンは何度目かの80’sリバイバルの真っ只中、ティアーズ・フォー・フィアーズが劇的な復活を遂げるには最高のタイミングと言えるだろう。

しかし、リリースされたニューアルバムは、80年代ポップやそこからインスパイアされた現行のポップミュージックにジャストフィットとまではいかないものの、かと言って大きくかけ離れたものでもなく、ちょっと微妙な距離感かな… 復活をドラマチックに盛り上げるには何だか勿体ない… そんな風に感じたのが私の第一印象だった。

しかし、本作は聴き込むうちにシーンのトレンド云々といった要素はどうでもいいほどに素晴らしい作品であり、ポップでありながらも安っぽいところが全くない絶品であることに気付かされたのだ。

TFFで馴染み深いアルバムといえば「シャウト」「シーズ・オブ・ラブ」


リマインダー読者の皆さんには、「ルール・ザ・ワールド」、「シャウト」という2曲の全米ナンバーワン・ヒットを含むセカンドアルバム『シャウト(Songs From The Big Chair)』と続くサードアルバム『シーズ・オブ・ラブ』からのタイトルチューンのヒットがお馴染みだろう。

併せて、繊細な少年性をメランコリックに表現したニューウェーブの傑作として高い評価を獲得しているデビューアルバム『ザ・ハーティング』が愛聴盤だという方も少なくないはずだ。

しかし、セールス面で大成功した初期3枚のアルバムを最後にカート・スミスが脱退し、ローランド・オーザバルによる1人ティアーズ・フォー・フィアーズが再スタートを切るのだが、ここからセールスが振るわなくなってくる。

とは言うものの、作品の質がガタ落ちしたかというとそんなことはなく、再スタート後の4thアルバム『エレメンタル』では、前作で顕著だったサイケ期ビートルズからの影響を引き継ぐ形で、今度はブライアン・ウィルソンを彷彿とさせる箱庭ポップを聴かせてくれる。

セールス不振でもライブやフェスには積極参加、2012年には来日も


続いて発表された『キングス・オブ・スペイン』や『エヴリバディ・ラブズ・ア・ハッピー・エンディング』では90年代以降のUKロックと共鳴するようにエレクトリックギターが鳴り響く生々しいサウンドを聴かせてくれる。また、後者の『エヴリバディ・ラブズ~』からは一度脱退したカート・スミスが再加入するという嬉しいニュースも届けられた。

これらのセールス不振期の作品は、前述したとおり悪い作品では全然ないのだけれど、アルバム毎にサウンドのコンセプトがガラリと変わることで、グループとしての方向性も見失いがちだったことは否めない。

更に追い打ちとなったのが “ザ・80s” というグループの印象があまりにも強すぎて、現役ロックファンが「今度のTFFの新作、カッコイイよね!」なんて胸を張って言える雰囲気は全くなく、むしろ恥ずかしいこととして捉えられていたのだ。

この後、彼らは長い隠遁生活に突入する。ローランドは妻の看病があり、新たな音楽づくりというフェーズではなかったようなのだが、そんな状況下でもライブはそれなりに行っていたようで、特に世界中のフェスには積極的に出演しており、2012年にはサマーソニック出演のために来日もしている。

「ザ・ティッピング・ポイント」を聴いて実感するTFFらしさ


そして、どうにか活動を続けながら、長い年月をかけてやっと辿り着いたのが、今回の新作『ザ・ティッピング・ポイント』というわけだ。

本作は、今までのアルバム毎に変わるサウンドコンセプトを見直して、それぞれの時代のサウンドの良質な部分を取り込みながらも、随所にティアーズ・フォー・フィアーズらしい繊細さが感じられるものになっている。

また、彼らも還暦を迎え、年齢相応の深みや苦みが感じられる楽曲を作るようになっており、深淵なサウンドを鳴らすことにも成功している。

サウンドコンセプトや現行ポップシーンのトレンドへの目配せは一度脇に置き、自分たちらしさとは何か… ということに改めて向き合った制作方針が感じられ、それが良い成果として結実している。

そうは言っても、リマインダー世代の皆さんにとっては、80年代ビックヒット連発期のようなTFFが聴きたいという方は多いことだろう。

安心してください。そんなニーズにドンピシャ応えてくれるオイシイ楽曲が、先行シングルとして発表された「ブレイク・ザ・マン」なのだ。

本曲は、シンセとギターがキラキラと鳴り響く印象的なナンバーで、耳を引き付けること間違いなしの出来栄えだ。

先行シングル「ブレイク・ザ・マン」は一際ポップな存在感


この曲は、カート・スミスが作曲し、リードボーカルも務めており、新作の中でも一際ポップな存在感を発揮しており、アルバムの流れの中で絶妙なアクセントとなっている。

そして、本作は海外メディアからの評価も好調で、レヴューでは軒並み高得点を獲得している。

また、本稿執筆時点でのチャートアクションは、英国オフィシャルチャート(2022年3月4日付)ではなんと初登場2位、米国ビルボード(2022年3月12日付)でも初登場で8位という絶好調のチャートアクションを叩き出しているのだ!

1989年のサードアルバム『シーズ・オブ・ラブ』から数えて33年ぶりにシーンの最前線に返り咲いたティアーズ・フォー・フィアーズ。ここにたどり着くまでにはローランドとカートの仲違いやセールス不振など難しい状況に直面してきたわけだが、普通に考えるとグループが解散してもおかしくなかったと思うのだ。

しかし、どうにかグループを存続させ、今回の新作でキャリア屈指の傑作を作り上げたことは正に奇跡と言えるだろう。

ヒット曲がもたらした “功” と “罪”


さて、80年代にシングルヒットを連発したティアーズ・フォー・フィアーズだが、その出自はジョイ・ディヴィジョンから強い影響を受け、心理学者アーサー・ヤノフの著書の一節からバンド名を拝借したニューウェーブ・バンドである。こうしたグループの成り立ちから察するに、そもそもシングルヒットを連発するような売れ線志向のグループではなかったはずだ。

ソングライターとしての彼らの資質を見ても、ポップソングを量産できるような職人肌のソングライターではなく、むしろ、自己の内面を歌うことで精神を浄化するようなシンガーソングライター志向が強い表現者だと私には感じられる。

こうした資質から考えると、80年代にシングルヒットを連発したことは、彼らのキャラクターとはあまり合致しないと言えるだろう。

また、90年代以降のセールス不振期の作品に迷いがあったのも「もう一度ヒット曲を…」という下心があり、本来のアーティストとしての資質に背き、無理のある創作活動をしていたことも関係していたのではないだろうか?

このようにヒット曲を生み出したことで、本来の自分たちを見失ってしまったことは、90年代以降の彼らのキャリアにとって大きな痛手となってしまった。

一方で、ヒット曲による恩恵が大きかったことも事実だろう。前述のとおり、ここしばらくの間、彼らはフェスに積極的に出演している。そうしたステージでは一連のヒット曲を演奏することで、ライブは大いに盛り上がるだろう。また、世界中で一体何種類リリースされているか分からない80sコンピレーションにも彼らの曲は定番で収録されている。そして、ここ日本においては、テレビCMで使われることも頻繁にあったわけで、一連のヒット曲がもたらした富は計り知ることができない。

もっと言ってしまえば、ヒット曲があったからこそ、グループを解散せず、ティアーズ・フォー・フィアーズという屋号を守り続けることができたとも言えるのだ。

ヒット曲は彼らを苦悩させるのと同時にグループを存続させるという一見、相反する影響と結果をもたらしたのだ。

還暦を迎えた“悩める子供達”


1981年、彼らはシングル「悩める子供達」でデビューしている。

大ヒット曲を手に入れた “悩める子供達” は、2022年、還暦を迎え本当の自分たちが作るべきサウンドを手に入れたのだ。

ヒット曲の功罪に振り回され、随分と遠回りした道のりではあったが、その結果として得られた成果は、苦悩を乗り越えた末に手に入れた真のオリジナリティーと洗練されたセンス、大人の苦みが味わえる極上の作品となっている。

2022年が始まって、まだ2ヶ月と少ししか経っていないが、本作は今年のロックシーンを代表する名盤であると断言させて頂こう。

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2022.03.13
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カタリベ
1972年生まれ
岡田浩史
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