懐メロの域を超えた昭和歌謡
4月29日は昭和の日。今や昭和といえば古い価値観の代名詞のように使われることが多いが、昭和の文化については「昭和レトロ」という言葉があるように、シックでオシャレに感じるから不思議だ。
そんな昭和文化の一つとして近年、昭和歌謡が注目を集めている。テレビでは昭和期のアイドルや音楽を特集する番組が増え、当時を振り返る書籍やレコードが相次いで発売されている。しかも、昔を懐かしむ中高年だけでなく、平成生まれの若者ファンも多い。もはや懐メロの域を超え、新たな文化を形成しているようだ。
そこで昭和の日にちなみ、若者が惹かれる昭和歌謡の魅力を考えてみたい。ただ、一口に昭和歌謡といってもジャンルは多様で、年代も幅広い。そこで本稿では、最近メディアでの露出が多く、リマインダーでも総選挙が行われた「80年代の女性アイドル」に対象を絞り、若者が惹かれる理由を探りたいと思う。
若者が80年代アイドルに惹かれる3つの理由
80年代アイドルに若者が惹かれる理由としては、よく言われるように以下3点の理由が大きい。
1点目は、YouTubeなどの動画投稿サイトと、音楽ストリーミングサービス(サブスク)の普及である。80年代は、一般家庭でビデオデッキが使われ始めた時代。当時の歌番組を録画した大量の映像が家庭に残されており、それらが動画投稿サイトに続々と掲載された。
80年代アイドルが歌う姿を見てファンになったという声はよく聞くし、当時のアイドル熱が復活した昭和世代も多い。TikTokで80年代アイドルソングを歌う投稿が流行したのも、本人が歌う映像を見たからだと思う。
また、さまざまな音楽が聴き放題というサブスクの影響も大きい。特に、松田聖子と中森明菜の曲が早くから聴けたことは、80年代アイドルへの門戸を開くうえで大きな役割を果たした。
2点目は、ソロアイドルの存在である。平成生まれの若者にとってアイドルといえば、グループをイメージする人が多いはず。実際に1990年代以降にヒットチャートで1位を取った女性アイドルは、モーニング娘。、AKBグループ、坂道グループ、ももクロなど、グループアイドル(もしくはグループに所属するアイドル)ばかり。だからこそ、ソロで歌うのが当たり前だった80年代アイドルの映像は、若者に新鮮に映った。歌唱力に魅了されてファンになった若者も少なくない。
3点目は、楽曲のクオリティーである。80年代は、歌謡曲とニューミュージックが融合し、90年代のJ-POPへとつながる新たな音楽が生まれた時代。それを牽引したのが、大衆音楽としてランキングを席巻したアイドルだった。
トップアーティストによる楽曲提供、シティポップやテクノの流入、音の玉手箱のような優れたアレンジなど、70年代の歌謡曲と比べて格段に音が洗練され、作品性が向上した。楽曲に魅力がなければ、80年代アイドルはここまでブームにならなかったはず。むしろ楽曲のクオリティーが人気の核心であると、私は思う。
「あまちゃん」で共演した小泉今日子と薬師丸ひろ子
これらの理由に加えて、80年代アイドルを特集したTV・ラジオ番組、書籍、Re:minderなどのインターネットメディアによる評論記事の量産、レコードの普及、そしてアイドル当人のメディアへの出演なども影響していると思う。
特に、80年代アイドルの代表格、小泉今日子と薬師丸ひろ子が共演した2013年の朝ドラ『あまちゃん』の威力は大きかった。情報や本人に接する機会が増えれば、好きになる確率が増すからだ。
その意味では、若者の親が80年代アイドルの曲をカラオケで歌ったり自宅で聴いた影響は無視できない。子供の頃に聴いた曲は、頭に染み付く。まして80年代アイドルは親の青春時代の曲であり、好んで流され、歌われたはず。一般教養のようにアイドルの知識が頭に入っていたからこそ、先の3つの理由に敏感に反応できたように思うが、いかがだろう。
松田聖子のデビューからアイドル四天王までの80年代
最後に、このリマインダーのコンセプトである「懐かしむより、超えていけ」が示すように、昭和歌謡はノスタルジーの域を脱し、再評価のフェーズに入ったと思う。80年代アイドルも歌唱や曲だけでなく、作詞、作曲、編曲、演奏者、プロデューサーの仕事も含めた作品性が再評価されている。
思えば80年代当時は、アイドルが歌う姿をTVで見たりラジオやテープで曲を聴くだけで、それ以外の情報は乏しかった。だから昭和世代の私も、いまは若者と同じ目線で80年代アイドルを発見し、再評価している。これが楽しくてしょうがない。
松田聖子のデビューから始まりアイドル四天王の活躍やザ・ベストテンの終了で幕を閉じた80年代は、時代区分が明確で研究対象にしやすい。クラシックやジャズのように、80年代アイドルが一つの音楽ジャンルになる日も近いかもしれない。
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2023.04.29