7月30日

ロジャー・トラウトマン率いる Zapp デビュー!トークボックスを使ったロボ声の魅力

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Zapp / Zapp

今も昔も「ロボ声」は人気


“Zapp”も1980年デビューでした。ロジャー・トラウトマン(Roger Troutman)とその兄弟、ラリー(兄)、レスター(弟)、テリー(弟)を中心に70年代から故郷のオハイオ州で活動していて、同じオハイオ州出身のブーツィ・コリンズ(William "Bootsy" Collins)およびその兄フェルプス(Phelps "Catfish" Collins)とは昔からの知り合い。コリンズ兄弟が所属していた “Parliament” および “Funkadelic” の総帥、ジョージ・クリントン(George Clinton)の助力もあって、ワーナー・ブラザーズと契約し、デビューに至ります。

デビューアルバムの『Zapp』は、ブーツィとロジャーの共同プロデュース。ロジャーと言えば、“Talk-Box” (トーキング・モジュレーターともいいますがそれは日本だけみたい…)を駆使した「ロボット声」のボーカルで知られていますね。このデビューアルバムのリードシングル「More Bounce to the Ounce」が、いきなりR&Bチャート2位のヒットとなりましたが、その最大の要因はやはり、ロジャーのTalk-Boxボーカルが画期的かつ魅力的だったことでしょう。

人は「ロボ声」が好きですね。たとえば、“ザ・フォーク・クルセダーズ” の「帰って来たヨッパライ」(1967)。あれはテープ倍速再生による1オクターブ上の声ですが、無名の新人の自主制作レコードが280万枚もの大ヒットになったのは、何と言ってもあの声のおかげでしょう。その二番煎じだった “ザ・ダーツ” の「ケメ子の唄」(1968)も売れました。実は米国ではその倍速声を、既に1958年に、アルビンとチップマンクス(Alvin and the Chipmunks)という子供向けの歌シリーズで使っていて、それも大ヒットしています。



“YMO” や “Electric Light Orchestra” がよく使った “Vocoder” (ヴォコーダー)という、声をシンセ音に換えるキーボードも人気でしたし、それを巧みに使った自身の多重コーラスが見事な、イモージェン・ヒープ(Imogen Heap)の「Hide and Seek」(2005)も大反響を起こしました。

そして「Auto-Tune」。本来、デジタル的にピッチを修正するソフトウェアですが、これを使ってロボ声にする方法が、シェール(Cher)の「Believe」(1998)が大ヒットしたのを皮切りに大流行、“Perfume” や “きゃりーぱみゅぱみゅ” の成功はこれなしでは考えられないし、今でも相変わらず売れていますもんね。

Talk-Box名人はロジャー・トラウトマンだけ?


Talk-Boxは、箱に水道ホースみたいなものがついていて、見た目はオモチャみたいなんですが、原理は「楽器の再生音を拾ってホースから口の中で鳴らし、それを再び拾って増幅する」ということみたいです。結果、楽器の音と声が合成されるんですが、舌とか口の中の動きでコントロールするので、なかなかコツが要りそうです。歯や歯茎が振動するし、頭蓋に響くから脳によくないというような話もあって、体力も使いそう。

70年代前半からレコーディングやライブで使われているのですが、多いのはエレキギターと声との合成で、たとえばピーター・フランプトン「Show Me the Way」(1975)や “BBA (Beck, Boggert & Apice)”「Superstition(迷信)」(1973)などは有名ですね。シンセと組み合わせるほうがより声らしく聞こえるんですが、それだとジョー・ウォルシュ「Rocky Mountain Way」(1973)とか “Rufus”「Tell Me Something Good」(1974)など。

しかし、いずれもほんの “添え物” というか、別になくても大勢に影響はない程度の使い方で、メインボーカルにしっかりと使ったのは、おそらくロジャー・トラウトマンが世界で初めてです。しかもそのクオリティがすばらしかった。彼がいつ頃からTalk-Boxを使っていたのか分かりませんが、音質が非常になめらかで耳に心地よく、かつロボ声なのに言葉ははっきりと聞き取れます。それまでの使用例では、おもしろい音ながら、ちょっと癇に障るようなところもあって、それゆえ添え物扱いで、メインには持ってこれなかったんだと思います。

ロジャーが使っていたTalk-Boxは、Electro Harmonix社の “Golden Throat” という機種でカスタムメイドだそうです。それをモーグ社の「Minimoog」というシンセサイザーと組み合わせていました。後にはヤマハの「DX100」という機種も使っていたようです。だけど、前述したように、人力によるコントロールが大きく関係するので、同じ機材を使えば同じ音になるわけではなく、ロジャーの後にも彼ほどの使い手は出てきていません。

Zappのデビュー後、1981年に “Earth, Wind & Fire” が「Let’s Groove」という曲で、Talk-Boxボーカルによるフレーズをリフに使っており、“Bon Jovi” の「Livin’ on a Prayer」(1986)も同じような使い方で、いずれも効果的ではあるものの、ロジャーとは次元が違いますし、テディ・ライリー(Teddy Riley)という人はメインボーカルに使いますが、プロデューサーとしての仕事が多いので、自身のボーカルで使った作品は多くありませんし、その出来もロジャーほど魅力的ではありません。

Talk-Boxにはボーカル以外に魅力が…


Auto-Tuneがブームになったように、21世紀になっても人はロボ声が好きなのです。ロジャーの亜流がもっと出てきてもよかったはずですが、そうならなかったところを見ると、Talk-Boxを使いこなすのはよほど難しく、彼の能力は特別だったのでしょう。

Talk-Boxボーカルのことばかりになってしまいましたが、本アルバムは残念ながら、その他の点、メロディの出来やサウンドにおけるアイデアにはあまり感心するものがありません。演奏そのものにも私は不満です。兄弟3人やプロデューサーのブーツィは何をしてるんだ、と言いたくなります。

翌年のロジャーのソロアルバム『The Many Facets of Roger』や、82年のセカンドアルバム『Zapp Ⅱ』になると、(ブーツィがはずれ、ロジャーが全面的に仕切ったから?…)そのへんも俄然よくなるんですけどね。


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2023.12.06
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カタリベ
1954年生まれ
ふくおかとも彦
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