モテたかった! 中森明菜のシングルを諦めて買った「MEN’S NON-NO」
バブル到来 ― 本格的なバブル経済開花直前。1986年の6月10日、集英社から初の本格的な男性ファッション雑誌『月刊 MEN’S NON-NO』が創刊された。大人気女性ファッション誌『non-no』の男性版という事で当時のモテたい男性達は一斉に飛びついた。
確かにそれまでにも男性ファッション誌は数多く存在していた。それまでの僕は講談社の『Checkmate』を毎月欠かさず購入して、トランスカジュアルの研究に余念がなかった。
バブルと言っても高校生。バイトはしていたが、欲しい物はキリがなかった。そんな中、男性ファッション誌をもう一冊購入するという行為は、シングルレコード一枚、レンタルLP一枚を借りる事が出来なくなるという重大な犠牲を生じさせる結果につながる。
85年あたりから欠かさず購入していた中森明菜のシングルも、87年6月の「BLONDE」だけは購入しなかった。そう、とても好きな歌手だったにも関わらず、躊躇なく『MEN’S NON-NO』を購入したのだ。理由は簡単。
モテたかったのだ!
女性誌から生まれた男性誌を読めばモテると思い込んでいた。メンノンの誌面を飾るファッションスタイルはコンサバで、何処かお坊ちゃん風で確かにモテそうだった。
モーリシャスって? そしてワンレンにエルメスのボディコンワンピース!
しかし、僕はメンノンに掲載されている服は購入しなかった。「俺はパンクだからアバンギャルドでアンニュイな服しか着ない」とうそぶいていたのだが、本当はメンノンのコンサバ服を着たのにモテなくて傷つくのが嫌だった。
創刊1周年記念特別号の誌面では綺羅星が如きモデル陣で固められていた。阿部寛、風間トオル、桐島ローランド… 特集は「創刊1周年記念・モーリシャス特派ロケ」「M-アンケート 女の子の好きな下着、嫌いな下着」… こんな調子。
なかでも、「モーリシャスの白い休日」という特集は忘れようもないトラウマ的な特集で、そもそもモーリシャスって何処? 白い休日って何? 白い恋人の夏バージョンか? こんな具合だけど、中森明菜のシングルよりモーリシャスを選んだ僕としては、30にもなればモーリシャスの白い休日を過ごせると勝手に想像していた。
TVを付けるとワンレンにエルメスのボディコンワンピースという出で立ちの中森明菜。奇しくも僕が買い逃したシングル「BLONDE」を歌っている。
モーリシャス、エルメス、そして中森明菜!!
僕のバブル絶頂期!!
コレだ!コレなんだぁ!!
…と、ダウンした矢吹丈に叫ぶ丹下段平のトーンで自分を納得させた。
あの日から33年。30才でモーリシャスの白い休日を過ごすどころか、30年以上経っても相変わらずな日々を過ごしているぜ… って1987年の僕に伝えたい。
モーリシャスではしゃぐ阿部寛は、その後、日本を代表する俳優になっていようとは想像もしていなかっただろう。そして、中森明菜は今も “歌姫” として愛されている。
※2017年6月18日に掲載された記事をアップデート
2020.06.03