ヒットソングの歴史とはラブソングの歴史
サブスクの台頭により、音楽の聴き方が激変した昨今。とはいえヒットチャートの上位を賑わせるのはやっぱりラブソング。そう、ヒットソングの歴史とは「ラブソングの歴史」と言い換えても差し支えないほど、この国では何十年も前から数多のラブソングが誕生し、時に優しく、時にドラマチックに人々の生活を彩ってきた。
とりわけ胸を打つのが大人の恋を綴ったラブソング。ポジティブでキラキラしたティーン向けのそれとは異なり、切なさや哀愁を帯びたメロディや歌詞には “浸る” という言葉がよく似合う。
こうした「大人のラブソング」を号泣しながら熱唱したり、夜中に枕を濡らしながら聴いたという経験を持つ方も少なくないのではないか?
今回は1980年代から2010年代にかけての「大人の恋を歌ったヒットソング」を、3つのキーワードから振り返ってみようと思う。
大人の恋を引き立てる小道具、極めつきは「ポケベルが鳴らなくて」
『ザ・ベストテン』で空前絶後の12週連続1位を獲得した名曲といえばご存知「ルビーの指環」(寺尾聰)。かつて愛を誓った恋人への未練を”ルビーのリング”を通して描いた邦楽史に残る傑作だが、こうした “小道具” の存在は大人の恋を引き立てる上で非常に効果的である。
未練ソングといえば定番中の定番「M」(PRINCESS PRINCESS)も、「消せないアドレスMのページ」という一節が示すように、まだ手書きだった頃の電話帳がフィーチャーされた失恋バラード。元々はシングルのカップリング曲だったがじわじわと評判が広がり、今ではプリプリの代表曲となっている。
また「シングルベッドで夢とお前抱いてた頃」の一節だけでストーリーのみならず部屋の間取りや空気感まで伝わってくる「シングルベッド」(シャ乱Q)も外せない。ただのベッドではなく「シングルベッド」にすることで、お金はないけれど夢はある、そんな主人公と「お前」の慎ましくも幸せな生活が目に浮かんでくるようだ。
このように時代に合わせて小道具が変化するのも流行歌の面白さだ。「ZUTTO」(永井真理子)で印象的に登場する「エスプレッソ」は1988年に初めて缶コーヒーで発売されるなど、まだ日本では普及し始めたばかりだった。この曲がリリースされた1990年時点では “今っぽさ” を象徴するアイテムだったのかもしれない。
そして、 “小道具ソング” の極めつき「ポケベルが鳴らなくて」(国武万里)は、もはや30代以下には説明が必要かもしれないが、強いて例えるなら「LINEの既読がつかなくて」といったところか。ツールは変われど恋心の本質は今も昔も同じなのだ。
憧れの対象だったトレンディドラマの主題歌
ラブソングといえばテレビとの関係性にも触れておきたい。特に80年代後半から90年代前半にかけてブームを巻き起こした「トレンディドラマ」では、主題歌がドラマを盛り上げる舞台装置として使用され、ドラマの高視聴率と共に主題歌CDも大ヒットを記録するという相乗効果を生み出した。
特にフジテレビの「月9(ゲツク)」は、『101回目のプロポーズ』の「SAY YES」(CHAGE and ASKA)、『君のためにできること』の「You're the Only・・・」(小野正利)、『ロングバケーション』の「LA・LA・LA LOVE SONG」(久保田利伸 with NAOMI CAMPBELL)をはじめとするメガヒットを量産。あの頃、ブラウン管に映る “都会的な大人の恋” は、若い視聴者にとって憧れの対象だったのだ。
2000年にはバラエティ番組内の恋愛リアリティ企画『未来日記』から相次いで大ヒット曲が誕生。桜ソングの代名詞でもある「桜坂」(福山雅治)も、ここから生まれた1曲だ。
胸をしめつける心理描写がラブソングには欠かせない
禁断の恋、叶わぬ恋、終わってしまった恋……。大人の恋愛にはいつだって胸をしめつけるような切なさが付きものだ。多くのラブソングもまたこうした心理描写をさまざまな形で表現してきた。
「サイレント・イヴ」(辛島美登里)ではクリスマスイブを一人寂しく過ごす哀れさと、立ち直ろうとする強い意志が描かれ、「慟哭」(工藤静香)では決して叶わぬ片思いのツラさが生々しいタッチで描写される。
その名もずばり「バラード」(ケツメイシ)では「逢えない夜を数えて 切なさのグラスに愛を注」ぎ、「この夜を止めてよ」(JUJU)では「”愛してる”っていうあなたの言葉は”さよなら”よりも哀しい」 と複雑な心の機微が歌われる。
大御所のラブバラードも必聴だ。「逢いたくてしかたない」(郷ひろみ)、「あなたに逢いたくて〜Missing You~」(松田聖子)は、かつてアイドルだったふたりが感涙必至の極上バラードをしっとりと歌い上げる。
「じれったい」(安全地帯)、「接吻 kiss」(ORIGINAL LOVE)では、これぞ大人の恋という濃密なキス模様がロマンチックに描かれる(後者に至ってはドラマ『大人のキス』の主題歌だ!)。
―― あぁ、大人の恋はなんて難しくて、それでいてドラマチックなのだろうか。
ここで紹介した楽曲は、スペースシャワーTVで240分にわたり放送されるスペシャルプログラム
『胸を打つ!大人の恋を歌ったヒットソング特集』にてオンエア予定。土曜の朝からドップリと大人の恋の世界に浸ってみてはいかがだろうか?
■ 胸を打つ!大人の恋を歌ったヒットソング特集
初回放送:2023年5月27日(土)6:00~10:00
リピート:2023年6月13日(火)9:00~13:00
<編成予定アーティスト>
寺尾聰「ルビーの指環」、安全地帯「じれったい」、中西保志「最後の雨」、小野正利「You're the Only・・・」、国武万里「ポケベルが鳴らなくて」、スピッツ「君が思い出になる前に」、ORIGINAL LOVE「接吻 kiss」、松田聖子「あなたに逢いたくて~Missing You~」、globe「Can't Stop Fallin' in Love」、DREAMS COME TRUE「やさしいキスをして」 他
■ 番組詳細、視聴方法はこちら
SPACE SHOWER TV
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2023.05.21