1986年7月24日、夏。
ある音楽評論家の受け売りからかジャーニーは聴かないなどとうそぶいていたが、この夏の日を境にある曲のファンになった。「オープン・アームズ~翼をひろげて~」がここしかないという場面で効果的に使われたのだ。
その日は楽しみにしていたWBC世界ジュニアウェルター級タイトルマッチ、レネ・アルレドンドVS浜田剛史戦。
1R、余りにも印象的な試合は挑戦者・浜田の勝利で終わった。放送時間はまだたっぷりあった。日本テレビはその時、大英断を下す。同じ帝拳ジムの先輩チャンピオンのドキュメンタリー『大場政夫物語』を放映したのである。
突然、普段無口な父が「大場、永遠のチャンピオン」と呟いた。『理由なき反抗』がTVのロードショーで放映された時も「ジミー、俺の憧れ」と呟いたので、こういう時の父の感性は信用出来るものがあった。
昭和48年1月25日、午前11時22分。当時日本に2台しかないコルベットスティングレイが首都高速5号線下り大曲カーブを猛スピードで疾走。曲がりきれず中央分離帯を飛び越え対向車線のトラックに潜り込むように車が大破し、ドライバーが即死したことを伝えるナレーションから物語は始まった。
そのドライバーの名は、世界フライ級王者であった大場政夫23才。事故の23日前、劇的な逆転劇で王座を防衛したばかりだった。過剰に感傷的だがグッとくるナレーションがこう告げる。
『青春の全てをリングにかけ、ストイックで研ぎ澄まされた閃光の様に短い生涯…』
ワンシーンたりとも見逃さない気概で画面を凝視した。タイトル奪取から防衛戦。そして5度目の防衛戦となる大場最後の試合は永遠のチャンピオンの代名詞を決定づける試合となった。
挑戦者は3度目の王者返り咲きを狙っていたタイの英雄、チャチャイ・チオノイ。1R、チャチャイの狙い澄ました右フックが大場の顔面を捕らえる。普通のボクサーならこれで終わりだろう。しかし、大場は立ち上がる。そして迎えた12R、魂の右ストレートで逆転勝利を勝ち取った。そして、ジャーニーの「オープン・アームズ~翼をひろげて~」が流れ、感動的なナレーションが被さる。
スティーヴ・ペリー。このボーカリストなくしてこの曲は成り立たないかの様な相性の良さ。徐々に高まっていくエモーショナルなボーカルは大場の最後の試合展開の様でもあり、まるで夭逝してしまった大場政夫へのレクイエムにも聴こえてくる。
甘いだけのラブバラードかと思っていたが全然違った。TV画面には両手を翼のようにひろげてチャチャイに襲いかかるスローモーションの大場、そこに流れる「オープン・アームズ」震える位美しい!
もし僕に子供がいて、TVに大場政夫が映し出されたら父と同じくこう呟くだろう。「大場、永遠のチャンピオン」と。
2017.11.04
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