歌唱形態は大きく分けて4種類
これまでに僕は、1980年代の洋楽について、勝手にテーマを決めて、そのテーマの上位5曲を勝手に選んで、その都度リマインダーで発表させてもらってきた。具体的には、ギターリフ TOP5、ドラムイントロ TOP5、ベースライン TOP5、ピアノ曲 TOP5… といったところだが、今日は少し趣向を変え、楽器ではなく人間の “声” で始まる楽曲(今回はTOP10)を紹介したい。
音楽ファンの皆さんにとっては釈迦に説法かもしれないが、そもそも歌い方、即ち、声をメロディーに乗せるパターンには、大きく4つの種類がある。
①独唱 1つのメロディーを1人で歌う(ソロ)
②斉唱 1つのメロディーを複数人で歌う(ユニゾン)
③重唱 複数のメロディーをそれぞれ1人で歌う(デュエット、トリオ、カルテット等)
④合唱 複数のメロディーをそれぞれ複数人で歌う(コーラス)
もっとも、僕たち一般人レベルにおいては、複数のメロディーを歌う③重唱と④合唱を敢えて区別せずに、まとめて “コーラス” と呼ぶことが多いかもしれない。どちらも “ハーモニーを奏でる” ことに変わりないからだ。
で、今日のテーマであるボーカルイントロの楽曲だが、その殆どが①独唱か③重唱で始まっているので、それぞれについて見ていこうと思う。
独唱か斉唱か、70年代か80年代か、音楽の違いと特長は?
当たり前かもしれないが、「独唱」で始まるのは、ソロシンガーか、突出したリードボーカルが在籍しているグループであることが多い。例えば、エルヴィス・プレスリー「ハウンド・ドッグ」、ドアーズ「水晶の舟(The Crystal Ship)」(「ハートに火をつけて(Light My Fire)」のB面)、レッド・ツェッペリン「ブラック・ドッグ」あたりが、これに該当する。このパターンは、特にシンガーの男性的なカッコ良さを強調したい時に採用されるような気がする。
一方の「重唱」で始まるパターンの代表格は、何と言ってもザ・ビートルズだ。特に、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンの三重唱で始まる「ひとりぼっちのあいつ(Nowhere Man)」や「ペイパーバック・ライター」は、彼らの真骨頂とも言える。
70年代に入ると、イエス「アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル」、クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」、カンサス「伝承(Carry On Wayward Son)」、ジェスロ・タル「大いなる森(Songs From The Wood)」といった良曲が次々に生み出されている。この時代の楽曲については、もっと真剣に探したら、まだまだ掘り出し物が見つかるかもしれない。
さて、今回も80年代にヒットした楽曲の中から勝手にボーカルイントロTOP10を決めようと思ったのだが、実は選曲にとても苦労した。何故かと言うと、80年代の楽曲は一見ボーカルイントロかと思いきや、耳を澄ますと後ろにシンセサイザーの音が聴こえる… というのが多いのである。
そんな中で、できるだけ人間の “声” だけで始まる楽曲に絞り込んでいったら、結果的に70年代テイストの曲が増えてしまった。逆に言うと、そういうところにこそ、70年代の音楽と80年代の音楽の違いが現れているということかもしれない。
第10位:アクション・トゥナイト(I Want Action)/ ポイズン
デビューアルバム『ポイズン・ダメージ(Look What The Cat Dragged In)』に収録。80年代後半、西海岸を中心に雨後の筍のように数々のメタルバンドが産声を上げたが、このバンドもその中の一つと見なされている。ただ、そのサウンドはと言うと、とてもポップでアイドルっぽさすら感じさせる。この分野に明るくない僕なんかは「これがメタル?」と思ってしまうが、だからこそ早々にスターへの階段を昇ることができたのかもしれない。
第9位:テイク・ア・チャンス(Take A Chance On Me)/ABBA
昨年40年ぶりに復活したABBAの7曲目の全英No.1。アルバム『ジ・アルバム』に収録。作詞作曲・プロデュースは、もちろんベニー・アンダーソンとビョルン・ウルヴァース。ちょうどビョルンとアグネタ・フォルツコグ、ベニーとアンニ=フリッド・リングスタッドの2組のカップルがうまくいっていた時期だったからか、健全で親しみやすいABBAのパブリックイメージ通りの楽曲だと思う。イントロの混声4重唱が美しい。
第8位:ファット・ボトムド・ガールズ / クイーン
アルバム『ジャズ』に収録。映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、全米ツアーを回るシーンで流された。もともと「バイシクル・レース」との両A面シングルとしてリリースされたので、この2曲の歌詞には繋がりがある。イントロのコーラスは、スタジオ盤ではフレディ・マーキュリーのリードボーカルに合わせてブライアン・メイが下でハモっているが、ライブではロジャー・テイラーも加わって上下でハモっているので、ぜひ聴き比べて欲しい。
第7位:逃亡者(Renegade)/ スティクス
アルバム『ピーシズ・オブ・エイト~古代への追想』から3曲目のシングルカット。この曲のイントロは独唱と重唱の合わせ技になっていて、最初はトミー・ショウのモノローグのような独唱で始まるが、途中で他のメンバーが加わって重唱になるところがカッコいい。決して “ただの産業ロックのバンド” などと高(たか)を括ってはいけない。どことなくディープ・パープルを彷彿させるサウンドもまた良し。
第6位:孤独な負け犬(Lonesome Loser)/ リトル・リバー・バンド
アルバム『栄光のロング・ラン(First Under The Wire)』に収録。80年代に入ってエア・サプライやリック・スプリングフィールドといったオーストラリアのアーティスト達が全米チャートを席巻したが、75年にメルボルンで結成されたこのバンドこそが、その先駆けだと思う。ただ、オーストラリア出身だからと言って、そのサウンドに田舎臭さは殆どなく、むしろ米国西海岸テイストを感じさせる、とてもハーモニーの美しいバンドである。
第5位:涙のリクエスト(Pilot Of The Airwaves)/ チャーリー・ドア
デビューアルバム『涙のリクエスト(Where To Now)』に収録。彼女はロンドン生まれのシンガーソングライターで、女優でもある。イントロのコーラスが美しく優しいこの曲は、彼女にとって最初で最後のヒット曲で、いわゆる “一発屋” ではあるが、ソングライターとしてはシーナ・イーストン、ティナ・ターナー、セリーヌ・ディオンに楽曲を提供して評価を得ている。ちなみに、チェッカーズの同名曲とは何の関係もないので、念の為。
第4位:セヴン・ブリッジズ・ロード / イーグルス
カントリーロックシンガー、スティーヴ・ヤングの1969年の楽曲のカバーで、アルバム『LIVE / イーグルス・ライヴ』に収録。『ロング・ラン』ツアーのハイライトとなった、サンタモニカでのライブ音源である。ドン・ヘンリー、グレン・フライ、ドン・フェルダー、ジョー・ウォルシュ、ティモシー・B. シュミットによる5声のコーラスがとても美しい。もともとはライブ前のウォームアップの為に控室で歌っていたそうだが、まさに “メンバー全員が歌えるバンド” の面目躍如である。
第3位:マイ・ブレイヴ・フェイス / ポール・マッカートニー
アルバム『フラワーズ・イン・ザ・ダート』に収録。この曲はエルヴィス・コステロとの共作だが、ポール・マッカートニーという人は自身が第一人者でありながら、大物と組むのがとても上手だと思う。初めて聴いた時、イントロのコーラスとヘフナーのベースの音で、往年の彼が帰ってきたと感激したものだ。ところで、このミュージックビデオは日本人らしき男の語りから始まるが、これを観ると、どうしても例の事件を思い出してしまうのは僕だけだろうか。
第2位:ロード・トゥ・ノーホエア / トーキング・ヘッズ
アルバム『リトル・クリーチャーズ』に収録。このバンドは、世界的に有名な美術学校であるロードアイランド・スクール・オブ・デザインの学生たちによって結成され、パンク・ムーブメントの中で登場したが、本作はそれまでの彼らのサウンドとはだいぶ印象が違う。何と言うか、とてものどかな雰囲気が漂っていて、この曲もカントリー感のあるゴスペル風コーラスから始まっている。当時ホンダ・シティ(2代目)のCMに使われていたので、皆さんも聴けば思い出すのではないだろうか。
第1位:禁じられた愛(You Give Love A Bad Name) / ボン・ジョヴィ
初の全米No.1アルバム『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ(Slippery When Wet)』に収録。本作以前のボン・ジョヴィは、日本や欧州ではそこそこ売れていたものの、米国では殆ど無名だったから、彼らを大スターの座に導いたこの作品は、文字通りの “出世作” と言えるだろう。ところで、このイントロを聴いて椿鬼奴の顔が思い浮かんだ人は、間違いなくTVの観過ぎなので、ほどほどに。
Billboard Chart & Official Chart
■ Take A Chance On Me / ABBA(1978年2月18日 全英1位、7月8日 全米3位)
■ Bicycle Race / Fat Bottomed Girls / Queen(1978年11月25日 全英11位、79年1月13日 全米24位)
■ Renegade / Styx(1979年6月9日 全米16位)
■ Lonesome Loser / Little River Band(1979年9月29日 全米6位)
■ Pilot Of The Airwaves / Charlie Dore(1979年11月24日 全英66位、1980年5月3日 全米13位)
■ Seven Bridges Road / Eagles(1981年2月7日 全米21位)
■ Road To Nowhere / Talking Heads(1985年11月30日 全英6位)
■ You Give Love A Bad Name / Bon Jovi(1986年9月13日 全英14位、11月29日 全米1位)
■ I Want Action / Poison(1987年7月25日 全米50位)
■ My Brave Face / Paul McCartney(1989年5月27日 全英18位、7月8日 全米25位)
Billboard Chart&Official Charts(Album)
■ The Album / ABBA(1978年2月4日 全英1位、7月22日 全米14位)
■ Pieces Of Eight / Styx(1978年12月2日 全米6位)
■ Jazz / Queen(1978年12月2日 全英2位、79年1月6日 全米6位)
■ First Under The Wire / Little River Band(1979年8月18日 全米10位)
■ Where To Now / Charlie Dore(1980年5月24日 全米145位)
■ Eagles Live / Eagles(1980年11月22日 全英24位、12月20日 全米6位)
■ Little Creatures / Talking Heads(1985年6月29日 全英10位、7月27日 全米20位)
■ Slippery When Wet / Bon Jovi(1986年10月25日 全米1位、11月29日 全英6位)
■ Look What The Cat Dragged In / Poison(1987年5月23日 全米3位)
■ Flowers In The Dirt / Paul McCartney(1989年6月24日 全英1位、7月1日 全米21位)
編集部注:本文にあります「ギターリフ TOP5、ドラムイントロ TOP5、ベースライン TOP5、ピアノ曲 TOP5…」については、
『80年代は洋楽黄金時代【ギターリフ TOP5】ギターはまだ終わってない!』
『80年代は洋楽黄金時代【ドラムイントロ TOP5】記憶に残る名演!』
『80年代は洋楽黄金時代【ベースライン TOP5】記憶に残るプレイは誰だ!』
『80年代は洋楽黄金時代【ピアノ曲 TOP5】記憶に残るプレイは誰だ!』
…でも紹介されています。是非こちらもご覧ください。
▶ ボン・ジョヴィのコラム一覧はこちら!
2022.01.28