10月21日

松田聖子「December Morning」… アルバム「風立ちぬ」より

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松田聖子「風立ちぬ」懐かしく優しい、秋冬に聴きたいアルバム

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photo:SonyMusic  

アイドルではなく、ミュージシャンとしての松田聖子


僕が音楽に興味を持ち始めたのが中学入って間もなくだった。そして、ロックに興味を持ち、入れ込むようになったのが中1の終わり。この1年の間に何を聴いていたかというと、当時、日本を席捲した YMO であったり、あとは、テレビでよく流れるヒットソングぐらいのものだった。しかし、その中でも特別だったのが松田聖子だった。人生で初のコンサートはちょうど「白いパラソル」がリリースされた後の81年の松田聖子のツアー『Nice Summer Seiko』の確か相模原市民会館の昼の部だったし、同時期にリリースされていた3枚目のアルバム『Silhouette~シルエット』は繰り返し繰り返し聴いた。

これから僕にも訪れるであろう青春の世界がそこには凝縮されたれいた。今改めて思い出すと、1曲目の「Summer Beach~オレンジの香り~」で炸裂する軽快なロックンロールが良かった。松本隆作詞の「白い貝のブローチ」で描かれる夏の終わりからの季節の移ろいをメランコリックに歌い上げる切なさもよかった。つまり、僕は松田聖子をアイドルとしてではなく、歌手として、ミュージシャンとして好きになっていたんだと思う。

そんな松田聖子のアルバムの中で最も印象深いのは、『Silhouette~シルエット』の次にリリースされた『風立ちぬ』だ。このアルバムは、ダビングしてもらったカセットでしか持っていないが、僕はこれからもこのカセットを聴き続けるだろう。

最も印象深いアルバム「風立ちぬ」と友人 M の存在


—— カセットのラベルには鉛筆で書かれた少し丸文字の雑な走り書き。中学1年の時、同じクラスだったMからこのカセットをもらったのは、冬が始まる少し前の今のような時期だった。

Mとは中学1年で同じクラスになった。僕らは私立の受験組だったので、中学から電車通学。Mとは家も離れていたが、日曜日にはお互いの家を行き来するほど仲良くなった、そんなMが「お前、松田聖子好きだろ」と唐突に渡してくれたテープ。

しかし、僕は程なくするとロックに夢中になり、松田聖子も聴かなくなくなった。Mともクラスが別々になり、疎遠になっていった。その後、互いに附属の高校に進学すると、Mは柔道部に入った。健全なヤンキーになり、学校の人気者になっていた。僕はバンドをやったり、ディスコにいったりと学校と距離を置くのがカッコいいと勘違いした痛いロック少年になっていた。高2高3でクラスが一緒になったが、それでも会話のない日々が続いた。

そして高校生活もあとわずかというある日、社会科で選択した政経の授業で、席が前後ろになった。それでも会話がない日が続いたが、ある日Mが、「おい、一緒の大学行こうぜ」と、いくつかの大学のパンフレットを僕のところに持ってきた。その時、Mも僕もお互い遊び過ぎて附属の大学の推薦から漏れていた。そんな時に真っ先に声をかけてくれたのはMだった。そんな優しいやつだった。疎遠になっている間、互いを気にしなかったわけではない。その時、話さなくてもずっと友達って、そういう関係もあるんだなぁと妙に嬉しかった。

友人 M と「December Morning」街がクリスマスソングに彩られる前に…


Mと数年ぶりに話した夜、僕は家に帰り、中1の時にもらった『風立ちぬ』のカセットを聴いた。重厚なストリングスを効かせた大瀧詠一のウォール・オブ・サウンド「風立ちぬ」もよかったが、その晩にしんみり聴いたのがこのアルバムのラストを飾る「December Morning」だった。

 冬は真っ白な物語
 想いで書き込む二人
 私にスキーを
 教えてくれる
 約束を守ってね
 LaLa December Morning

この歌詞の中の恋人はもう会えないのかなぁ。それとも彼氏はどこか遠くに行ってしまったのか… そんなことをぼんやり考えた。Mと久々に話したのが嬉しかったのか、この晩のことは今でもはっきり覚えている。

それから1年後、東京では珍しい吹雪の夜、Mは、恋人を家まで車で送り届けた帰り道、タイヤをスリップさせて帰らぬ人となってしまった。結局別々の道を歩むことになった僕らの最悪の再会だった。僕たちはまだ19歳だった。「M、何カッコつけてるんだよ!ジェームス・ディーンじゃねえぞ!カッコよすぎじゃないか!」当時のやり切れない思いは今も自分の中にある。人気者だったMのお通夜と葬儀には、僕らクラスメイトが長い列を作った。空が悲しく曇った寒い日だった。

 風花にサラサラ
 風に舞う雪
 目覚めれば銀世界
 LaLa December Morning

風に舞う雪の中、Mは突然いなくなってしまった。その日の雪はサラサラと舞う雪ではなかったと思う。でも冬がやってきて、Mを思い出すと、「December Morning」がぼんやりと頭の中で鳴り響く。Mとはずっと会っていなくても、ずっと話していなくても友だちのままだ。それは、中学、高校の頃からなにひとつ変わっていない。Mからもらったカセットは今も手元にある。街が冬支度を始め、クリスマスソングに彩られる少し前のこんな時期、僕は普段は使わないカセットの再生ボタンを押したくなる。

2019.11.27
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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