チェッカーズが果たした偉業
いきなりで恐縮だが、チェッカーズに関する以下の事実をあなたはどれだけご存じだろうか。
1.デビューから解散まで全シングル(31作)がトップ10入りした初のバンド
2.デビューから解散まで全オリジナルアルバム(10作)がトップ5入りした初のバンド
3.別名義(Cute Beat Club Band)作品や12インチシングルもすべてトップ10入り
4.オリコンで史上初の3曲同時トップ10入りを達成
5.メンバー7人全員がソングライティングを手がける
6.アマチュア時代からドゥーワップを好み、抜群のアカペラを聴かせる
7.12thシングル「NANA」(1986年)以降は自作曲中心の活動を展開
8.音楽ソフトの総売り上げ(約260億円)は解散時点でバンド部門2位(1位はサザンオールスターズ)
9.解散まで9年連続で紅白歌合戦に出場した最初のバンド
時代の寵児となった登場時のインパクトがあまりにも鮮烈だったこと、そして女性からの支持が圧倒的だったことなどから、ややもすると “アイドルバンド” と括られがちなチェッカーズ。確かにそういう側面もあり、本人たちもそう見られることを楽しんでいたようだが、実際はセルフプロデュース能力に長け、確かな音楽性に裏打ちされたアーティストでもあった。
そのチェッカーズは1980年に福岡県久留米市で結成。翌年、ヤマハ主催の『ライトミュージックコンテスト』ジュニア部門で最優秀賞を受賞するなど、早くから頭角を現す。メンバー全員が高校を卒業した1983年春に上京し、同年9月に「ギザギザハートの子守唄」でデビュー。エディターの秋山道夫をヴィジュアル面のプロデューサーに迎え、“明るい不良” をコンセプトにした髪型・衣装と、オールディーズを基調としたネオロカビリー的な音楽性を打ち出す。オリコン2位を獲得したセカンドシングル「涙のリクエスト」(1984年1月)でブレイクを果たすと、ファッションも含めて社会現象となった。前述の “3曲同時トップ10入り” はその頃のことである。
プロデビューしてからの活動期間は9年3ヶ月。通常、それほどのキャリアを重ねると “脱アイドル” を図ってマニアックな方向に行くなどして、セールス的には低迷したりするものだが、彼らに関してはそれがなかった。デビュー4年目の1986年、メンバーが作詞・作曲を手がけたオリジナル曲中心の活動に移行したあともファン離れを起こすことなく、シングルもアルバムもコンスタントにヒット。1990年代に入ってテレビの歌番組が急減したため、メディアへの露出は少なくなったものの、毎年2回の全国ツアーを行ない、日本武道館を4~5日間満席にするほどの動員力を維持し続ける。
解散30年を経てリマスター「THE CHECKERS LAST TOUR “FINAL”」
そんなスーパーバンドの魅力を堪能できる映像が解散30年を経た今年、視聴できることになった。1992年12月3日から全国7ヶ所で開催された『THE CHECKERS LAST TOUR “FINAL”』。その千秋楽として12月28日に日本武道館で行なわれたライブの模様を収めた映像が、最新技術を駆使した4K画質相当のリマスター版として、7月9日18時から配信されることになったのだ。
同映像は今年1月15日にNHK BSプレミアムで『伝説のコンサート / チェッカーズ ファイナル・ツアー in 武道館 リマスター版』として初放送。5月29日には全国37スクリーンで “一夜限りの劇場上映” も実施され、いずれもSNSで「#チェッカーズ」がトレンド入りするほどの話題となった。幸運なことに筆者はその劇場上映を鑑賞する機会に恵まれたので、ここからはその体験を記したい。
場所はTOHOシネマズ日比谷で、同劇場最大の座席数(約500)を誇るスクリーン12は満席。そのうち9割以上が女性で、ちらほら若い人も見受けられたが、多くは40~50代と言っていいだろう。そのためか場内には同じ時代、同じ推しを共有してきた者たちによる同窓会的な雰囲気が漂っていた。
上映開始は午後7時。360度回転のセンターステージを上部から俯瞰した映像が高揚感をかき立てる。そして最後の舞台に登場するメンバーの映像がフラッシュ的に挿入され、オープニング曲「FINAL LAP(Instrumental)」の演奏が始まる。さらにあとから登壇したボーカル陣(藤井フミヤ、高杢禎彦、鶴久政治)が加わったところでお馴染みのイントロが流れだす。そう、彼らを世に出したデビュー曲「ギザギザハートの子守唄」だ。会場は早くも大絶叫。伝説の一夜が幕を開けた。
ちなみに筆者はメンバー最年少の藤井尚之の1学年下にあたるチェッカーズ世代。根っからミーハーで、トップ10入りするようなヒット曲はあらかたチェックしていたが、チェッカーズに関してはシングル中心でアルバムまで聴き込んでいたとは言い難い。コンサートに足を運んだこともなく、ライブ映像作品も近年CSで放送されるまでは視聴したことがなかったので、ライトファンと言っていいだろう。当然、解散公演の映像は未見。だからこそワクワクしてこの日の上映会に参加した。
セットリストで見えてくるものは?
それに先立ち、公開されている情報をもとに、スタジオ音源によるプレイリストを作成した。1993年に発売されたライブ盤では全上演曲を網羅していないからである。そのセットリストは以下の通り。
M1.FINAL LAP(1992年)作曲:藤井尚之
M2.ギザギザハートの子守唄(1983年)作詞:康珍化 / 作曲:芹澤廣明
M3.Yellow Cab(1992年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:大土井裕二 / メインボーカル:高杢禎彦
M4.80%(1989年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:鶴久政治 / メインボーカル:鶴久政治
M5.NANA(1986年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:藤井尚之
M6.Lonely Soldier(1984年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:藤井尚之 / メインボーカル:藤井尚之
M7.I Love you, SAYONARA(1987年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:大土井裕二
M8.夜明けのブレス(1990年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:鶴久政治
■アコースティックコーナー
M9.涙のリクエスト(1984年)作詞:売野雅勇 / 作曲:芹澤廣明
M10.青い目のHigh School Queen(1985年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:徳永善也 / メインボーカル:徳永善也
M11.時のK-City(1986年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:武内享 / メインボーカル:鶴久政治
M12.神様お願い(TRICKLE TRICKLE)… ザ・ビデオズのカバー
M13.Hello(1990年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:武内享
M14.ミセス マーメイド(1991年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:鶴久政治
M15.HEART IS GUN~ピストルを手に入れた夜~(1989年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:大土井裕二
M16.愛と夢のFASCIST(1988年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:鶴久政治 / メインボーカル:鶴久政治
M17.IT’S ALRIGHT(1989年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:武内享 / メインボーカル:高杢禎彦
M18.See you yesterday(1990年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:武内享
M19.90’s S.D.R.(1991年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:武内享
M20.Present for you(1992年)作詞・作曲:THE CHECKERS
■アンコール
E1.Long Road(1986年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:藤井尚之
E2.Friends and Dream(1989年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:鶴久政治
E3.Standing on the Rainbow(1988年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:藤井尚之
E4.Rainbow Station(1992年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:大土井裕二
E5.I Have a Dream(1991年)作詞:藤井郁弥 / 作曲:藤井尚之
構成と演出、パフォーマンスに圧倒!
いかがだろう。おそらく「え、「星屑のステージ」や「ジュリアに傷心」は歌わなかったの?」とか「あんなにヒット曲が多いバンドなのに、知ってる曲があまりない」と驚く方が多いことだろう。かくいう筆者もプレイリストを作ったときはそう思った。実際、上演された25曲の内訳は初期のシングルA面が2曲、メンバー自作のシングルA面が6曲、カップリング曲が2曲、アルバム曲が14曲、洋楽カバーが1曲。チェックの衣装に身を包み、前髪を垂らしていた頃のオリコン1位曲は1曲もない。「果たしてついていけるだろうか」と一抹の不安があったのは否めない。
が、それは杞憂に過ぎなかった。3時間を超えるライブだったが、長さを感じることも、退屈することもなく、存分に楽しめたからだ。事前にプレイリストを作って予習していた効果に加え、大スクリーンや立体音響の力もあったかもしれない。だがそれ以前に構成と演出、そして何よりもパフォーマンスに圧倒された。活動期間中はテレビでヒット曲を歌う姿しか知らなかったので、新しい発見もたくさんあった。本日6月7日が誕生日にあたる徳永善也(ドラムス)が2004年に40歳の若さで旅立ったため、7人のステージは2度と観ることが叶わないが、「こんなに楽しいライブをどうして生で観ておかなかったのだろう」と後悔したほどだ(そうは言ってもチケットを取るのは至難の業だったろうが…)。
チェッカーズの豊かな音楽性と高いエンターテインメント性
ではどこに魅力を感じたか。まず構成である。彼らが得意とするオールディーズスタイルのロックンロールやR&Bを中心にしながらも、軽快なポップスあり、ラップあり、スカビートありのバラエティに富んだ選曲。他のバンドのように、演奏陣を従えたフロントマンが延々と歌うのではなく、フミヤ(当時は“郁弥”)以外のメンバーがメインボーカルを務めたり、メンバー全員でアカペラのドゥーワップを聴かせたりしてオーディエンスを飽きさせない。当時からクオリティの高さが評価されていたものの、ライブで観る機会が皆無だったアルバム曲が半数以上を占めたのも筆者には嬉しかった。ヒット狙いのシングル曲だけでは分からない、彼らの音楽性の豊かさを今さらながらに感じ取ることができたからだ。
次に演出。中盤のアンプラグド・コーナーでは7人が久留米で出会った頃の状況や印象が1人ずつ開陳され、メンバーの人となりやバンドにおける関係性を窺い知ることができた。解散公演ならではの企画だが、劇場のそこここで笑ったり手を叩いたりする人が多かったのはファンにはお馴染みのエピソードだったのだろう。今は亡き徳永が自ら作曲した「青い目のHigh School Queen」を歌う姿や、久留米のことをテーマにした「時のK-City」がこのコーナーで披露されたことに改めて胸を熱くした参加者も多かったのではないか。
そうかと思えば「HEART IS GUN~ピストルを手に入れた夜~」ではフミヤがピストルでメンバーを1人ずつ撃ち抜き、最後は自分のこめかみに銃口を当てて倒れるという演劇的な展開。等身大の緩いトークも、作り込まれたスタイリッシュな演出も、同時に楽しめるのがチェッカーズのライブなのだ。
演奏、コーラス、ダンス… 最高だったパフォーマンス
そして特筆すべきは7人のパフォーマンス―― 正確にはサポートメンバーの八木橋カンペー(キーボード)とアンディ桧山(パーカッション)を加えた9人だが、これがまた素晴らしかった。MCで明かされたことだが、フミヤは4日間の武道館公演の直前に過労で倒れ、前日は39度4分という高熱だったとのこと。連日点滴を受けている状態で、27日までは声がガラガラだったそうだが、最終日のこの日はそう言われなければ、体調不良と分からないほどの歌声だった。ダンスもキレキレで得意のターンや開脚を連発。若干、目が虚ろになる瞬間があったのは気力を振り絞っていたのかもしれないが、最後まで見事なボーカルを聴かせてくれた。そんなフミヤを支えた他のメンバーも3時間、25曲で渾身の演奏とコーラスを披露し、時にはダンスを交えて360度の回転ステージを走り回る。武道館を埋め尽くしたファンの拍手と歓声に応え続ける姿は感動的であった。
筆者はエンターテイメントの楽しみの1つは「成長の過程を見守ること」にあると思っている。特にティーンエイジャーのときに出会った憧れのアイドルは自分も一緒に成長していく特別な存在だ。最終公演の映像にちらちら映った観客の多くが肩パッドの入ったスーツ姿の女性だったことを考えると、10代の頃にチェッカーズと出会った少女たちが20代の社会人になってからもずっと彼らを応援し続けていたことが窺える。それは彼女たちが一般には馴染みが薄いアルバム曲も泣きながら合唱していた姿からも明らかだ。
チェッカーズが今も愛され続けている理由と魅力が一目瞭然!
チェッカーズはライブに足を運んでくれたファンに「バラードでは手拍子をしない」「ステージに物を投げない」などの鑑賞ルールを徹底していたという。そうやって二人三脚で“より良いライブ”を創り上げてきた集大成がこの日のステージだったのだろう。当日はチケットを確保できなかったファンが武道館を幾重にも囲んでいたため、アンコールでは会場の扉を開けて歌と演奏を届けたそうだが、それは約10年間、ともに歩んだファンに対する彼らなりの「Present for you」だったに違いない。
同じ時代の空気を吸ってきた筆者は“作られたアイドル”としてデビューしたチェッカーズが、アイドル性と音楽性を兼ね備えた唯一無二の実力派バンドに成長していく姿をリアルタイムで体験した。この日の映像は久留米から大志を抱いて上京し、ファンと幸福な関係を築いた7人が惜しまれながら去っていく様子を余すところなく捉えた濃密なドキュメント。ヒットパレードを期待する向きにはいささか取っつきにくいかもしれないが、いざ視聴すれば彼らがどうして伝説のバンドになったのか、そして今なお愛され続けているのか、当時を知らない若い世代にもその理由や魅力が伝わることだろう。
「みんなの心の中のチェッカーズをどうかみんなの宝物にしてください。そして俺たちはみんなを宝物にします。10年間愛してくれてありがとうございました」
アンコールのMCでフミヤが語った言葉である。7月9日18時からの配信では、このスペシャルなライブ映像に加えて、ラストステージとなった1992年の紅白歌合戦における歌唱シーンなど、約1時間に及ぶ特典映像も視聴できるという。音楽ファン必見のプログラムだ。
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2022.06.07