1998年 8月26日

2026年を感じながら聴く【1990年代ロック名盤ベスト10】懐かしむより、超えていけ!

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Re:minderが掲げる《懐かしむより、超えていけ》というコンセプトは、過去の音楽を語るとき、常に意識しておきたい指針だ。1990年代は既に四半世紀前の時代。その時代のポップミュージックを “2026年の現在形” として聴き直すことを試みてみよう。同様の趣旨で、2023年にも1990年代ロックの名盤を選ばせていただいたが今回は当時取り上げたアーティストとは被らないようにしつつ “2026年を感じさせる作品” という視点を加えてみた。

2026年がどんな年になるのかは誰にも分からない。ただ、世界の分断、価値観の揺らぎ、テクノロジーとの共存といった空気は、すでに私たちの日常に色濃く漂っている。このベスト10は、そうした時代の気分のなかで、私自身が “今、あらためて聴きたい” と感じた1990年代の音楽を選んだものだ。2026年を想像しながら読み進めていただけたら嬉しい。

ストーンズ、コーネリアス、パブリック・エネミーと多種多様な音楽が続々とランクイン


第10位:ザ・ローリング・ストーンズ『ブードゥー・ラウンジ』(1994年)
少子高齢化が進む日本社会において、年齢というものは常に語られるテーマだ。そんな時代背景を思うとき、どうしてもローリング・ストーンズの存在が頭をよぎる。当時も今も、現役最高齢を更新し続けるロックバンド。ロック=若者の音楽という概念は30年前には希薄だったのだ。

1994年にリリースされた『ブードゥー・ラウンジ』は、ストーンズがブルースやR&Bといったは自らのルーツと真正面から向き合った作品だ。派手な実験や時代迎合はない。一聴すると地味にすら感じるかもしれない。しかし、聴き込むほどに楽曲の粒立ちの良さが浮かび上がってくる。

現在の正式メンバーは、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロン・ウッドの3人。ミックとキースは80歳代、ロンも70歳代後半だ。それでも彼らは、引退という選択をしない。 転石苔むさずという言葉を、ここまで文字通り体現しているバンドはいないだろう。年齢を理由に創作をやめない。その姿勢は、2026年を生きる私たちにとって、極めてリアルなメッセージとして響いてくる。



第9位:コーネリアス『ファンタズマ』(1997年)
ここ数年のK-POPの躍進、日本アニメの世界的成功に伴うJ-POPの世界進出。サブスクリプションの普及も相まって、ポップミュージックにおける国境は、ほとんど意味を持たなくなった。そんな状況を、1990年代の時点で先取りしていた日本人アーティストが、コーネリアスだった。アルバム『ファンタズマ』は、アメリカのマタドール・レコードからリリースされ、世界中で高い評価を受けた。

ありとあらゆる音をコラージュし、ジャンルを軽やかに横断しながらも、小山田圭吾のフィルターを通すことで、アルバム全体に不思議な統一感が生まれている。知的で、実験的で、なおかつポップ。完成度は当時の世界最高水準だったと言っていい。日本のポップミュージックが、特別な説明なしに世界の音楽として受け取られる時代。その地ならしをしていたのが、この作品だったのではないか。2026年の感覚で聴いても、『ファンタズマ』はまったく古びていない。



第8位:デペッシュ・モード『ヴァイオレーター』(1990年)
AIは、すっかり私たちの生活の一部になった。50歳代の私ですら仕事で活用しているのだから、若い世代にとっては、もはや空気のような存在だろう。テクノロジーは冷たいものという認識は、すでに過去のものになった。

デペッシュ・モードは、1990年にリリースした『ヴァイオレーター』で、エレクトロニクスを極限まで突き詰めながらも、驚くほど人間的な感情を鳴らしていた。機械的な音のなかに、欲望、孤独、祈りといった生々しい感情を宿らせる。そのバランス感覚は、現在のテクノロジー社会にも通じるものがある。

彼らはその後、ブルースやゴスペルに傾倒し、アルバム『ソングス・オブ・フェイス・アンド・デヴォーション』(1993年)を発表するが、メンバーの脱退、自殺未遂、死といった過酷な現実に直面することになる。それでも彼らは歩みを止めなかった。ニューウェイヴ世代として、長く険しい歴史を生き抜いてきたバンド。その存在感は、2026年においてもなお巨大だ。




第7位:パブリック・エネミー『フィアー・オブ・ア・ブラック・プラネット』(1990年)
2026年に世界は平和になっているだろうか。正直、そうは思えない。政治信条、アイデンティティ、人種、宗教。人々はますます細分化され、分断の溝は深まっている。パブリック・エネミーは、差別される側の立場から声を上げたグループとして語られがちだが、本質はそこではない。彼らが糾弾したのは、差別や不正を生み出す構造そのものだった。

『ブラック・プラネット』で鳴り響くのは、重く、速く、直線的なビート。その上でチャックDは、太く低い声で演説するようにラップする。ギャングスタ・ラップの自己顕示とは真逆の、ストレートエッジな姿勢。沈黙は害である、という彼らのメッセージは、分断が深まる2026年の世界にこそ有効だ。



第6位:ティーンエイジ・ファンクラブ『バンドワゴネスク』(1991年)
現代社会は、とにかくややこしい。コンプライアンス、ハラスメント、働き方改革。実際の仕事とは直接関係ないところで、神経をすり減らすことも多いだろう。SNSの人間関係に疲れている若者も珍しくない。2026年には、きっと癒しが必要になる。そんなとき、ティーンエイジ・ファンクラブが『バンドワゴネスク』で鳴らした音は、静かに心をほぐしてくれる。

ノイジーなギターの上に、牧歌的でレイドバックしたメロディ。音は丸みを帯び、聴き手を包み込むような温かさがある。しかし、そこにはやるせなさや切なさも同居している。その詩情こそが、彼らを単なるギターポップに終わらせない理由なのだ。



第5位:シュガー『コッパー・ブルー』(1992年)
1980年代の米ハードコア・パンクシーンで活躍したバンド “ハスカー・ドゥ” のボブ・モールドが、1992年に結成した “シュガー”。そのデビュー作『コッパー・ブルー』は、ノイジーなギターを基調にしながら、圧倒的にメロディアスな楽曲を畳みかける決して目新しいサウンドではなく、むしろ正攻法すぎるほどのギターロックだ。しかし、楽曲の完成度と構築力が、他バンドとの決定的な差を生んでいた。

後のメロコアやエモへの影響を考えても、このアルバムの重要性は大きい。ボブ・モールドはゲイであることを公表し、LGBTQ+の権利運動にも積極的に関わってきた。その姿勢は、ロックが持つ表現の多様性と現代社会の潮流にリンクしている。2025年の再結成も含め、彼の存在は極めて2026年的だ。



第4位:プライマル・スクリーム『スクリーマデリカ』(1991年)
分断の原因を糾弾するパブリック・エネミーとは対照的に、プライマル・スクリームは、快楽によって分断を溶かそうとした。『スクリーマデリカ』で鳴らされるのは、カッコよければいいとか、気持ちよければいいという、極めてシンプルな思想だ。ロックンロールも、アシッドハウスも、サイケデリックも、すべてを本能のままに混ぜ合わせる。理屈ではなく身体感覚によるジャンル横断。その結果生まれた音は、ジャンル意識が希薄化した2026年の感覚と見事に重なる。分断を解決する決め手は、本能や快楽なのかもしれない。



トップ3は、時代に響くヒップホップ、オルタナ、そして女性シンガーが登場


第3位:アレステッド・ディベロップメント『3 Years, 5 Months, and 2 Days in the Life Of…』(1991年)
サステナブル、共生、環境意識。これらの言葉はもはや理想論ではなく、2026年を生きる私たちの日常に直結した現実的なテーマになっている。企業活動も個人のライフスタイルも、持続可能かどうかが問われる時代だ。ヒップホップは、その成り立ちからして圧倒的に都市型の音楽である。コンクリート、貧困、格差、暴力。そうした現実を背景に発展してきたジャンルだ。しかし、アレステッド・ディベロップメントは、その文脈から少し距離を取るようにして、アフリカのルーツへの回帰、農村的な生活、コミュニティの重要性を表現の中心に据えた。

彼らはギャングスタ的な価値観を排し、生活者の視点で世界を見つめ直そうとした。環境問題に対しても、現状を激しく糾弾するのではなく、自然とともに生きることの豊かさを穏やかに提示する。その姿勢からは、強いメッセージでありながらも、どこか人懐っこい優しさが感じられる。また、オーガニックで温かみのあるサウンドはヒップホップとして異色だが、その違和感こそが、今の時代に新鮮に響く。分断を煽る言葉が溢れる2026年において、アレステッド・ディベロップメントの共に生きるという視点は、もっと評価されていい。静かだが、確かな強度を持った名盤である。



第2位:スマッシング・パンプキンズ『メロンコリーそして終りのない悲しみ』(1995年)
サブスクリプションが音楽体験の中心になってから、アルバムを通して聴くという行為は、少しずつ日常から遠ざかっている。収録曲数は減り、再生時間も短くなり、プレイリスト単位での再生が当たり前になった。それが悪いことだとは思わないが、どこか寂しさも感じる。そんな感覚を、真っ向から吹き飛ばしてくれるのが、スマッシング・パンプキンズの2枚組大作『メロンコリーそして終りのない悲しみ』(Mellon Collie and the Infinite Sadness)だ。

全28曲、2時間1分。今の感覚で言えば、ほとんど狂気じみたボリュームである。ノイズギターが炸裂するグランジ、ストリングスが美しく響くシンフォニックな楽曲、打ち込みを用いたニューウェイヴ的アプローチ。そのすべてが、ひとつのアルバムに詰め込まれている。テーマは決して軽くない。成長とともに失われていく純粋さ、孤独、疎外感、心の痛み。それでもなお、希望をあきらめない思いが、アルバム全体を貫いている。

何より圧倒されるのは、これだけの物量にテンションと情念を注ぎ込み続けた、バンドの中心人物であるビリー・コーガンの存在だ。その執念は、時代やフォーマットを超えて、今なお生々しく伝わってくる。1990年代オルタナティブ・ロックの枠を超え、ロック史全体で語られるべき名盤であると、あらためて断言したい。また、アルバムという表現方法が復権することを願って、あえて現代にそぐわない大作を選盤させて頂いた。



第1位:ローリン・ヒル『ミスエデュケーション』(1998年)
2026年も、女性アーティストの活躍は間違いなく続くだろう。テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュ、オリヴィア・ロドリゴ、サブリナ・カーペンター、チャーリーXCX、チャペル・ローン、リナ・サワヤマ。彼女たちは皆、自分自身に正直であることを恐れず、その姿勢によって多くの共感を集めている。
その源流にいる存在こそが、ローリン・ヒルだ。

彼女の革新性は、ラップと歌、成功と不安、信仰と怒りといった、本来であれば分断されがちな要素を、ひとりの人間の延長線上として自然体で提示した点にある。自分の中にある矛盾を無理に整理せず、むしろそのまま差し出す。その姿勢は、1990年代のポップミュージックにおいて、極めて画期的だった。

自己主張はするが、過剰にはならない。その絶妙な距離感もまた、彼女の表現の強度を高めている。商業音楽と芸術表現、そのどちらかを選ぶのではなく、両立させてみせたことは、ローリン・ヒルが圧倒的な表現者である証だろう。
ローリン・ヒル以前、女性アーティストは、セクシーであるか、強硬なフェミニズムを掲げるか、どこか極端なキャラクターを求められがちだった。しかし彼女の登場以降、女性アーティストは、強さも弱さも、迷いも怒りも含めて、自然体で表現することが可能になったように思う。

1998年に『ミスエデュケーション』を発表して以降、彼女はフルアルバムをリリースしていない。四半世紀以上にわたって、その続きを聴けていないことは、ポップミュージックにとって大きな損失だ。それでも、このアルバムは今なお色褪せない。自分であることに向き合った本作は、2026年の今こそ改めて聴き直されるべき作品なのだ。


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