1995年 10月2日

2023年を感じながら聴く【90年代ロック名盤ベスト10】懐かしむより超えていけ!

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オアシスのアルバム「モーニング・グローリー」が米国でリリースされた日
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リマインダーが掲げる「懐かしむより超えていけ」スピリット満載の企画第2弾『2023年に聴きたい!90年代ロック名盤ベスト10』。これは、単純に私の好きな90年代洋楽ロックのアルバムをカウントダウンするという主旨だけではなく、“2023年の今こそ聴きたい / 聴くべき”作品、即ち現行のロック / ポップとの関連性や影響力を強く感じさせるアーティスト、作品を優先して選盤させて頂いた。

また、取り上げた90年代作品と関連性が感じられる現行のロック / ポップ作品も併せて紹介させて頂いたので、温故知新なリスニング体験の一助になれば幸いだ。

第10位:ネバーマインド / ニルヴァーナ


90年代ロックが80年代と明らかに違うことを決定付けたアルバムだ。カート・コバーンの怒りや鬱屈とした感情は、ノイジーなギターと声に込められ、痛いほど伝わってくる。しかし、楽曲、もっと端的に言うとメロディーはとても分かりやすく耳に残るもので、本作が記録的なメガヒットになった理由であることは明白だ。リリースされた時は、グランジ・ブームの中で語られることが多く、カート・コバーンのキャラクターやファッションが話題になっていたが、今改めて聴いてみるとロックらしいロックだということを再認識できるだろう。そんな部分に着目して聴き直してみると、作品としてのクオリティの高さを再認識できる作品だ。

そして、現在、グランジの香りをプンプンと感じさせつつも、2020年代のポップ感覚を併せ持ったバンドがホースガールだ。

ホースガールはシカゴ出身のガールズバンドでメンバー3人はまだティーンエイジャー。カート・コバーンが生きていた頃には生まれてない世代だ。音楽的には、ニルヴァーナよりもソニック・ユースに近い感じなのだが、彼女たちの父親がグランジ世代で、親からの影響も大きいそうだ。

今どきのZ世代らしく、グランジやオルタナをユーチューブで知ったようで、ネット経由でイギリスのインディーやシューゲイザーにも夢中になっていったとのこと。同じくティーンバンドのリンダ・リンダズが日本では注目を集めているが、ホースガールの鳴らす気だるいノイジーでポップなサウンドにも是非とも注目して欲しい。



第9位:ザ・ソフト・ブレティン / フレーミング・リップス


もともとは、サイケデリックなガレージ・サウンドを聴かせるバンドだったが、本作からは音響にこだわり、偏狭的ポップサウンドを聴かせるバンドへと変貌を遂げた。

プロデューサーにデイヴ・フリッドマンを迎え、ストリングス、キーボード類のカラフルな音が加わったことで、シンフォニックなサイケデリック・ポップを作り上げることに成功している。本作以降もバンドは、デイヴ・フリッドマンと共にサイケデリックな作品を作り続けているが、ロックバンドとしての体力と音響サイケのバランスが最も分かりやすいバランスで表現されているのが、本作だ。

そして、本作を語る上では、何と言ってもオープニングナンバー「レース・フォー・ザ・プライズ」の素晴らしさに言及しなくてはならない。一度聴いたら忘れられない印象的なイントロから極彩色のポップサウンドが鳴り響く。この曲を聴くと、とてつもない開放感を感じ、日々の山積みになっている厄介ごともどうにかなってしまうような全能感に包まれるのだ。まさに至福のサウンドと言えるだろう。

さて、フレーミング・リップスも充分に現在進行形のバンドなのだが、さらに新しいサイケデリック・サウンドを聴かせてくれるバンドを紹介しよう。それは、ニューヨーク出身のMGMTだ。彼らもプロデューサーに、デイヴ・フリッドマンを迎えてアルバムを制作しており、夢見心地な音作りは、カラフルな音の万華鏡といった趣きだ。

彼らの代表曲「キッズ」は、そこに踊れるダンス・ミュージックの要素が加わり、ロック系クラブイベントでは盛り上がり必至の鉄板ナンバーだ。

第8位:パークライフ / ブラー


ブリットポップの代名詞的なアルバムだ。シングルとして大ヒットした「ガールズ&ボーイズ」によって、イギリスでも国民的知名度を獲得し、欧州全体でのブレイクも確固たるものにした。“ポップなのに何か変な感じ”というのが彼らの特徴で、キンクス直系の英国ひねくれロックが魅力的だ。

そんなブラーは、今年の夏、大々的なライブといくつかのフェスのヘッドライナーとして復活ライブを行うことが決まっており、イギリスでの単独ライブはウェンブリー・スタジアムで行うことになっている。チケットの争奪戦は大変な盛り上がりで、瞬殺ソールドアウトとなったそうだ。この勢いで日本にも来てくれたりすると嬉しいところだ。フェスのヘッドライナーでブラーなんて最高だ。是非、黒ビールを呑りながらライブを堪能できたら、最高の夏の思い出になるだろう。

現在進行形の英国印のロックを聴きたいのなら、マイルズ・ケインをオススメしたい。アルバム『チェンジ・ザ・ショウ』を聴くと「うわ〜、イギリスのロックだな〜」という感じが凄くする。それまでのアルバムでは、様々なタイプの楽曲を作り歌ってきたが、ブリットポップ通過後のロックンロールという印象で正直、さほど強い印象が残るアーティストではなかった。

しかし、本作ではポップとソウルをベースにした落ち着いた王道感あるシンプルなアレンジが全曲に施され、聴き応え充分の作品になっている。アレンジの王道感とは裏腹に、彼の声はマーク・ボランを彷彿とさせる鼻にかかった声で、それもどこか英国的だ。この相反する組み合わせは、とてもキッチュな魅力を醸し出しており、ソウルミュージックの本場アメリカの音楽にはない別の魅力となり、彼の個性となっている。

「まがい物の王道感」とでも言おうか、そこに英国流のポップ・ミュージックの妙味を感じることができるアーティストだ。



第7位:ウィーザー(ザ・ブルー・アルバム) / ウィーザー


嵐のようなグランジのブームは、アメリカのロックシーンを一変させてしまった。その直後にウィーザーがシーンに登場した。彼らは、グランジにより焼き払われた荒野でメロディアスなパワー・ポップを奏で始め、そして、大きな共感を得ることになったのだ。そのサウンドや歌の世界は、泣き虫ロックとも呼ばれ、ウィーザーの大きなチャームポイントにもなっている。

デビューアルバム『ウィーザー(ザ・ブルー・アルバム)』は、特に泣き虫感が満載で、リーダーでボーカルのリヴァース・クオモのナード・キャラも文系ロックファンのハートを撃ち抜いた所以だろう。現在もウィーザーは、精力的に活動しており、昨年(2022年)も春夏秋冬をそれぞれテーマにしたミニ・アルバム2枚、フルアルバム2枚をリリースしており、バンドは絶好調で創作意欲が爆発している。

ウィーザーの泣き虫ロックは、日本人の琴線に触れるからだろうか、我が国にも多くのフォロワーを生み出している。そんなバンドの中でも「うわ〜、ウィーザー大好きに違いない!」と一発で感じさせるバンドが、パワー・ポップ大阪代表ナードマグネットだ。バンド名は、ナードを引き寄せる素敵な女性という意味とのこと。ボーカルでほとんどの楽曲を手がける須田亮太は黒縁メガネで彼のルックスからもナードっぽさがプンプンする(ゴメン)。

また、メンバー全員が普通のサラリーマンでフルに会社勤めをしているにも関わらず、2016年から現在までに3枚のフルアルバムと4枚のミニアルバムをリリースしており、リリースペースの早さも本家ウィーザーに負けず劣らずだ。

いわば兼業音楽家であるにも関わらず、極上のパワー・ポップを生み出しており、そのバンドイメージやルックスとは裏腹にとんでもない音楽への情熱の為せる技だと感じる。彼らにも感じる泣き虫ロックな感覚が最も分かりやすく表現されている楽曲がデビューアルバム『CRAZY, STUPID, LOVE』に収録の「Mixtape」と言える。

切なくて泣けるパワー・ポップ・ナンバーなのだが、まさか自分が50代になって、こうしたセンチメンタル全開な泣き虫ロックで不覚にも目頭を熱くするとは思わなかったのだが、未だにロックの熱病から覚められないモラトリアムな“駄目な僕”を再認識させられた楽曲だ。



第6位:ジャミロクワイ (Emergency on Planet Earth) / ジャミロクワイ


アシッド・ジャズ・ムーブメントが生み出した最大のスターが、ジェイ・ケイ率いるジャミロクワイだ。

ジャミロクワイが登場した時、イギリスから凄くお洒落なバンドが出てきたなというのが、私の印象だった。メディシン・マンをあしらったバンドのロゴマークやジェイ・ケイのスポーティーなファッション、70年代ニュー・ソウルの影響を受けたアシッド・ジャズ・サウンドはどれもイカしていて、全てがピタッとハマっていた。

反面、歌われる歌詞の内容は、環境問題や先住民族保護などメッセージソングが多く、ジャミロクワイがただのお洒落バンドではないことを伝えていた。鮮烈にデビューした彼らは、イギリスを中心に大成功をおさめ、ここ日本でも当時の音楽トレンドでもあった渋谷系と共振し、若者から圧倒的な支持を得た。

しかし、大ヒットによりとんでもないお金が入ってきたからか、ジェイ・ケイは、この数年後にはフェラーリをブンブン乗り回すようになる。まだ、ハイブリッドも電気自動車もない時代だったので、結構な排気ガスをブリ撒きながらご機嫌なドライブを楽しんでいたのだろう。このように主義主張のいい加減さも手伝ってか、ジェイ・ケイは、スーパースターになり、現在に至っている。今年は、久々に復活ライブを行うそうで、イギリスでは結構な話題になっているようだ。

そして、現在、ヴィンテージなソウルを演奏する白人バンドとして注目したいのが、ザ・ディップだ。シアトル出身の実力派で、レコードからも演奏技術の高さと熱気が伝わってくるサウンドだ。生演奏とヴィンテージな音の質感にこだわっているところは、初期のジャミロクワイと共通しており、この音がすこぶる心地良いのだ。

ザ・ディップの奏でるヴィンテージ・ソウルは武骨であるため、ロック・スピリットも同時に感じさせてくれる。そんな無骨なロック感がお洒落とは言い難いものなのかもしれないが、その無骨さこそが、彼らの魅力と個性になっていると私は感じる。

第5位:カマキリアド / ドナルド・フェイゲン


ソロデビュー・アルバム『ナイトフライ』から11年を経てリリースされたセカンド・アルバム『カマキリアド』を第5位に選出した。世間一般的な評価からすると、『ナイトフライ』が圧倒的に高い支持を得ているが、今の時代、特にサブスクリプションで聴くなら私は『カマキリアド』を是非とも推したい。

それまでのスティーリー・ダン〜ソロ・アルバム『ナイトフライ』までは、名うての名プレイヤーの演奏を軸に完璧な音を作り上げてきたフェイゲンだが、本作は1993年の作品ということで、キャリア初のデジタル録音作品となっている。デジタル技術を駆使したレコーディングは、それまでの膨大な金と時間を使ったレコーディングを一変させたようだ。豪華なセッション・ミュージシャンを多用するというよりは、プロデューサーにウォルター・ベッカーを迎えて、実質的なスティーリー・ダンの再結成アルバムとして、演奏メンバーもスティーリー・ダン、フェイゲンのソロとしてはコンパクトになった。

それまでの作品との端的な違いはドラムの音像だ。『ナイトフライ』までの作品は、アナログなドラムの音色とある種の揺らぎがグルーヴを生み出していた。一方で『カマキリアド』は、アルバムのコンセプトがハイテク自動車「カマキリ号」に乗って旅をするという近未来的なものなので、電気処理された均一なビード感と音色で統一されている。実際はドラマーが叩いている音なのだが、まるで打ち込みのような音色とビートに仕上げており、アルバムのテーマに即した近未来的な感覚を表現したかったのだろう。

この音色がスティーリー・ダンのオールドファンにはウケが悪く、本作が『ナイトフライ』に比べて一般的な評価が低い理由ではないか?しかし、ヒップホップ以降の感性が求められる2023年のポップミュージックにおいては、『カマキリアド』で鳴っているビートの方がスマートで自然体な音像と言えるだろう。そうしたビートを30年前の作品に取り入れ、成功させたドナルド・フェイゲンの感性の鋭さは流石の一言に尽きる。

また、当時はCDで音楽が聴かれることが一般的でレコードに比べると音が固く、粒立ちの良いシャキっとした音が鳴るリスニング環境であることもこうした音像を取り入れた要因と言えるのではないだろうか? さらに付け加えさせて頂くと、現在の主なリスニング環境であるサブスクリプションのスポティファイで聴いてみたが、CDと同様にシャキッとした音像で、こちらも時代との相性は最適化されている。

そうした、オーディオ的な音質・音像へのこだわりもドナルド・フェイゲンらしい。そうした要素も含めて、2023年の今だからこそ、再度、聴き直したい作品として選盤させて頂いた。

そして、現在、ドナルド・フェイゲン的な音像、特に『カマキリアド』的なスッキリとした音像を届けてくれるアーティストとしてトム・ミッシュを挙げたいと思う。

トム・ミッシュは、イギリス出身のシンガーソングライター。正式なボーカルもののデビュー・アルバムを発表する前に、トラックメイカーとしての作品も発表しておりサウンド・デザイナーとしての活動からスタートした点もどこかドナルド・フェイゲンと共通する。

彼の作り出すサウンドは、超がつくほどにクールで洗練されている。加えて、デビュー・アルバム『GEOGRAPHY』ではポップミュージックとしてのわかり易さも兼ね備えており、絶対必聴の名盤と断言しておこう!

第4位:ブラッド・シュガー・セックス・マジック / レッド・ホット・チリ・ペッパーズ


デビューから数年間のレッド・ホット・ペッパーズ(レッチリ)は、ファンク、ラップ、ロックをハードコアにミクスチャーするという面白くも破天荒なアイデアを持っていたが、正直、音楽的な体力が追いついていなかったという印象だ。こうした状況の打開の最初のステップになった作品が『母乳(原題:Mother's Milk)』と言って良いだろう。

音楽的な体裁を整え、ある意味、聴きやすさを備えた『母乳』は、新加入したギタリスト=ジョン・フルシアンテの初お目見えとなった作品だ。それまでのレッチリはメンバーの出入りが激しかったが、『母乳』に伴うツアーをこなしたメンバーによって、その後『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』は制作された。固定されたメンバーによるレコーディングにより、それまでのとっ散らかっていた音楽的要素が整理整頓され、整合感ある音像を獲得しつつも、バンドの破天荒さを失うことなく提示することに成功している。

このあたりの手腕はプロデューサーのリック・ルービンの功績も大きかったのだろう。アングラ変態バンド扱いされることの多かったレッチリだが、破天荒な振る舞いはそのままに、メインストリームに進出し、好き放題やりながらも、どんどんメジャーな存在になっていくさまは何とも痛快だった。メジャー・シーンのド真ん中に土足どころか、ほぼ全裸でドカドカと乱入していくレッチリの音楽とバンドの佇まいは、最高にカッコ良かったし、「あぁ、これで暗黒の80年代が終わるのだ!」と思わせてくれる痛快さに溢れていた。

この時期のレッチリは、様々な音楽的要素をミクスチャーする技巧がレベルアップしただけではなく、王道ロックバンド、しかもシリアスな一面へのアプローチが始まった変化の兆しの時期とも重なっている。その代表的な楽曲が、「アンダー・ザ・ブリッジ」や「パワー・オブ・イコーリティ」と言えるだろう。

前者は、ドラッグを絶とうとするアンソニーが、孤独感と故郷であるロサンゼルスへの愛をセンチメンタルに歌う名曲だ。また、後者はアメリカに巣食う差別に対するアンチを攻撃的に歌うメッセージソングになっている。

こうしたロックバンドの王道とも言える切なさと攻撃性を表現できるようになったことも、バンドがそれまでより格段にスケールアップしたからだろう。ロサンゼルスのアンダーグラウンド・シーンの変態キワモノ・バンドから世界中のフェスのヘッドライナーを担うナンバーワン・バンドへ飛躍するターニングポイントになった作品が『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』と言えるだろう。そして、レッチリは、現在もナンバーワン・バンドとして、ロックシーンのど真ん中にいる。



さて、レッチリの影響を分かりやすく反映した現行のアーティストを紹介させて頂こうと色々と考えたところなのだが、現在のレッチリも相変わらず最強なのは、皆さんもよくご存知のことだと思う。昨年、ジョン・フルシアンテがバンドに復帰し、2枚のフルアルバムをリリースしている。

そんな絶好調の現在のレッチリについて、この機会に是非とも語らせて頂きたい!

リリースされた2枚のアルバムはどちらも傑作なのだが、特に『リターン・オブ・ザ・ドリーム・カンティーン』の出来栄えは素晴らしい。ジョン・フルシアンテの復帰は、バンドに大きな影響をもたらしたようで、切なさとファンキーな感覚が同時に鳴り響く、レッチリ独自のサウンドをさらに極めたように感じられる。

やはり、ジョン・フルシアンテのいるレッチリが最高だ。

第3位:ポスト / ビョーク


シュガーキューブス解散後にソロデビューしたビョークのセカンド・アルバム。前作に引き続き、ネリー・フーパー(ソウル・Ⅱ・ソウル)、グラハム・マッセイ(808ステイト)を迎えて、テクノ / クラブサウンドを突き詰めている。

その時代の最先端のクラブサウンドを導入すると、数年後には古臭くて聴けないというほどクラブサウンドのトレンド・サイクルは目まぐるしく変わるのだが、本作はこうした時間の経過による風化に影響されない魔法がかけられているかのようで、今だに新鮮さを失っていない。

勿論、その魔法の正体は、唯一無二のビョークのボーカルにほかならない。トラックメイカーたちもその声を最大限に活かすことを第一に考えて制作に臨んでいるのだろう。どの曲も充実しているのだが、アルバムのハイライトは「ハイパーバラッド」に尽きるだろう。

序盤は静かに始まって、少しずつ音が重ねられ、ビートも増えていくという、90年代テクノ王道パターンなのだが、そこにビョークのボーカルが乗ると、得も言われぬ開放感と多幸感を感じることができるのだ。この1曲のためにアルバムを購入しても損はないほどのアンセムだ。



さて、ビョークのようなサウンド、個性的なボーカルスタイルの現行女性アーティストは誰かと考えたのだが、なかなかいなくて正直なところ困ってしまった。しかし、志向する音楽性やアーティスト、ボーカリストとしての資質は違えども、クラブサウンドをポップミュージックに上手く取り入れている点やボーカリストとしての力量、アーティストとしての存在感や魅力的なキャラ立ちの現行の女性アーティストとして、デュア・リパを選んでみた。

2020年リリースのセカンド・アルバム『フューチャー・ノスタルジア』は、記録的なロングヒットとなっており、シングルカットされた曲も軒並み大ヒットとなっている。

取り入れられているクラブサウンドは、2020年代のトレンドである80年代ポップであるが、ヒップホップ以降のボトムの効いたビートになっているので、古臭い印象はない。

女性ボーカリストとしては、声が低くポップな楽曲とは裏腹に芯の強い女性という印象を強く与える。私がビョークからデュア・リパを連想した要因も、声からイメージされる自立した女性の強さと最先端のクラブサウンドをポップミュージックに取り入れることに成功しているアーティスト像がとても似ていると感じたからだ。

ビョークがそうであるように、デュア・リパも女性ボーカリストとして無限大の可能性と魅力を持っている。今はクラブサウンドを取り入れているが、そこにとどまらず様々な音楽スタイルを歌いこなせる魅力的な声だと感じるので、これから彼女がどのように変化を遂げていくのか将来がとても楽しみなアーティストだ。

第2位:OKコンピューター / レディオヘッド


ロックはどこまで行けるのか?そんなことを考えさせられる作品であり、ロック史に残る大傑作アルバムだ。

デビュー間もないレディオヘッドは、シューゲイザーの変わり種というか、オーソドックスなギターロックという印象だったが、セカンド・アルバム『ザ・ベンズ』でギターロックとしてできることを大きく拡張するような新たな世界観を提示した。続くサード・アルバムである本作では、前述のとおりロックの限界のその先を私たちに示した作品と言える。

限界突破のために取られた手法は、徹底的にロックにこだわり、静と動のコントラストをハッキリさせるという正攻法だった。静寂とノイジーなギターサウンドを組み合わせたサウンドにトム・ヨークのうめき声のようなボーカルが乗ることで、聴き手にも緊張感を与えている。決して聴いていて楽しい作品ではないし、聴くこと自体に体力を使う作品なのだが、その疲労感は、心地良いものだ。また、ロックの新しいページがめくられる瞬間に立ち会えていると実感でき、その充実感はハンパないものだ。こうしてロックの向う側にリーチしたレディオヘッドは、次の作品『キッドA』からは、ギターではなくシンセサイザーや打ち込みを多用し、エレクトロニカに接近する。

トレードマークだった3本のギターがギュンギュンと唸りをあげて絡み合っていくサウンドは影を潜め、ロックの向う側を見ているバンドの姿が伺えるのだが、本人たちは『キッドA』を一貫してポップミュージックであると主張していた。こうした主張は、ポップミュージックの領域を広げることで、多様な音楽が商業ベースで聴かれることや、メジャー・レーベルの商業主義に対するアンチテーゼであり、音楽業界全体に対する辛辣なメッセージだったようだ。

私個人の趣味や好みで言うと、『ザ・ベンズ』、『OKコンピューター』の時期のレディオヘッドがやはり好きなのだが、アルバムを出すたびに「次は一体どんなサウンドを聴かせてくれるのだろう」と新譜を聴くことが常にワクワクするバンドなのだ。そして、その変化の過程こそがレディオヘッドというバンドの醍醐味であり最大の魅力なのだ。その姿勢は、新たなロックの、音楽の未来の道標を示すことを自らに課しているようで、ロックの向う側に突き抜けてしまって以降もロックなアティテュードを感じさせてくれる。

そして、現在、変化を恐れずに新たな領域に踏み出す勇気を見せてくれるバンドが、アークティック・モンキーズだ。2006年にデビューし、ストロークス以降の新しいロックンロールを鳴らすバンドとして一躍人気バンドとなる。

全てのアルバムが英米で大ヒットしており、現行のロックバンドとしては、最も安定した人気と実力を誇っていると言っていいだろう。また、2012年のロンドン・オリンピックの開会式でも演奏を披露したことからも、本国イギリスでは国民的人気を獲得している。そんな彼らの変化の兆しが感じられ始めた作品が、2013年発表の5枚目のアルバム『AM』のオープニング・ナンバー「ドゥ・アイ・ワナ・ノウ?」だろう。
それまでのアップビートなロックンロール・ナンバーやギターロック然とした曲調からテンポをグッと落としているが、ビートの一音一音は強く重たく鳴っており、重心が低い、ドッシリとした演奏を聴かせるようになってきた。

そして、昨年リリースされた最新作『The Car』では、60〜70年代のソウルをベースにした、ファンキーな演奏を聴かせてくれる。このように、近作の作品では音楽性が実に鮮やかに変わってきているのだが、その変化に私は違和感を全く感じることなく、すんなりと受け入れることができた。こうした変化の過程をレディオヘッドのそれと比較すると、アークティック・モンキーズの変化はとても自然体であると感じる。
ただし、その変化を楽しんでいるという点では、アークティック・モンキーズとレディオヘッドは新譜が出るたびに私をワクワクさせてくれるバンドという共通点を有している。

アークティック・モンキーズは、今年3月、久しぶりの来日公演を行うことが決定している。チケットの一般発売は本稿がリマインダーに掲載された数日後に予定されているが、あっという間にソールドアウト確実のプラチナペーパーになりそうだ。

私もプラチナペーパーの獲得を目指したいと意気込んでいる。

第1位:モーニング・グローリー / オアシス


今、聴くべき90s洋楽ロックアルバムの第1位には、オアシスの『モーニング・グローリー』を選盤させて頂いた。

オアシスは、マンチェスターの労働者階級の出身で、中心メンバーはギターのノエルとボーカルのリアムのギャラガー兄弟。この2人はフーリガンみたいに素行が悪くて、デビュー当時は酔っ払ってはトラブルを起こしたり、ステージ上でも兄弟喧嘩を始めて、ライブが途中でキャンセルになるなんてこともチラホラ。そのへんにいる、しょーもないヤンチャな兄ちゃんたち… この頃のオアシスは、そんなイメージだったのだ。

そして、肝心の音は、もろにビートルズの影響を受けたメロディーとラウドなギターの組み合わせ。本当に何の工夫もないストレートなロックバンドなのだが、ソングライターのノエル・ギャラガーが作り出すメロディーが神がかっていて、ポップな曲は楽しく、バラードは切なく、1枚のアルバムを全て名曲で埋め尽くすほどの力量だ。特に天才メロディーメイカーぶりをこれでもかと発揮した作品がセカンド・アルバム『モーニング・グローリー』だ。

本作は、セールスもとんでもない実績を残しており、イギリスでは歴代5位となる470万枚、全世界では2500万枚という天文学的なセールスを記録し、世界のトップバンドにまで登りつめた。その音楽スタイルが新しいわけでもない、ルックスが良いわけでもない、その時代を象徴するようなアンセムがあるわけでもないのに、オアシスはナンバーワン・バンドにまで上り詰めることができたのは、圧倒的に曲が良かったことが最大の理由だ。

しかし、その曲の良さのレベルがハンパないレベルの高さだったのだ。そして、そのへんの兄ちゃん風情が鳴らすストレートなロックだったことも、とっつきやすいイメージを与えることに繋がっていたのかもしれない。その結果、本作は、皆が歌える『モーニング・グローリー』となったのだ。

特に「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」は、2017年5月に発生したアリアナ・グランデのマンチェスター公演で起きたテロの追悼集会で歌われたことをきっかけに、追悼アンセムのように扱われるようになった。また、同曲はソロになったノエル・ギャラガーのライブでもラストに歌われることが多く、会場は大合唱に包まれるのだが、それは本当に感動的なライブ体験だ。

さて、オアシスは、解散後も再結成の噂をたまに聞くことがある。仮に再結成したとしても、本作のような完全無欠のポップなロックンロール・アルバムを作ることはできないだろうと私は感じる。なぜなら本作は、オアシスというロックバンドの体力と勢いがバランス良い状態であったこと、そして、ノエル・ギャラガーがバラードからアップ・チューンまで天才的なメロディーを書きまくっていたことが奇跡的にぶつかり合った結果、生み出された歴史的名盤であることは明らかだ。今聴きたい名盤というより、本作は10年後も20年後も永遠に聴き継がれるであろう歴史的名盤なのだ。

オアシスに負けず劣らずグッド・メロディーを紡ぐ現行アーティストとして、私が真っ先に頭に浮かぶのはエド・シーランだ。

エド・シーランの最新作『=』は、かなり突き抜けたポップなものになっており、今どき感のある打ち込みと80年代風のシンセサイザーに乗せられるメロディーは、どれも強力なフックを持っている。イギリスでは、シングル・カットされた3曲がチャートの2位から4位までを独占する寺尾聰状態となるほど、シングルヒットのポテンシャルも高いのだ。

革新的なサウンドや過激な表現で聴き手を惹き付けるのではなく、メロディーと歌の素晴らしさを最大限に活かしている。そんなポップチューンは、何気ない日常生活に溶け込む音楽として、私の傍らにそっといてくれる。エド・シーランが奏でてくれる音楽はとても自然体で疲れないのだ。

エド・シーランのアルバム『=』で奏でられるメロディーは忙しいところが全くなく、息をつく余裕がちゃんと用意されている。余裕のある音楽は、何か妙に落ち着く。すんなり入ってきて、サッと馴染む感じだ。無理やり作り出したポップなメロディーではなく、自然に生み出されたメロディーの心地良さが滲み出ている。だから、生活に溶け込む音楽になり得るのだ。

最新作のタイトルを「=」としたエド・シーラン。『=』という記号は解答を出す時の記号だ。本作『=』は、エド・シーランから出されたポップへの究極の解答なのではないかと思うほどに充実したメロディーで溢れている。

音楽性やアーティストとしての立ち位置はオアシスと全く違うのだが、日常にフィットするグッドメロディーが満載なアーティストとしてエド・シーランを選ばせて頂いた。


―― 90年代のロック名盤を振り返り、現在のロックシーンを感じてみるという本企画。楽しんでいただけたでしょうか?

ただ純粋に自分の好きなアルバムを10枚選ぶという企画であれば、ここに挙げた作品も半分以上は入れ替わると思うのだが、今回、何よりも私が気を留めたことは、2023年の今、この作品がどのように受け止められ、どのように現在の感性にマッチする作品なのかということに拘って選盤させて頂いた。

このコラムが、「懐かしむより超えていけ!」というリマインダー・スピリットを感じられるものとして、皆さんに届くことを期待したいと感じている。

なお、本コラムで紹介したアーティストの楽曲を90sアーティスト→現行アーティストといった具合に並べたプレイリスト『2023年に聴きたい! 90年代ロック名盤ベスト10』をSpotifyで作ってみたので、興味のある方は実際の音を聴いて楽しんで頂きたい。

▶ オアシスのコラム一覧はこちら!



2023.01.09
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