名付け親は小津安二郎。中井貴一「連合艦隊」で俳優デビュー
1980年代始め、男性アイドルは “たのきん” 全盛期。一方俳優の方は、アクションが売りの真田広之が『忍者武芸帖 百地三太夫』『吼えろ鉄拳』『冒険者カミカゼ』『燃える勇者』と言った主演映画を連発。そんな中、正統派としてデビューしたのが中井貴一でした。
1961年9月18日生まれ。父は『君の名は』で知られる往年の二枚目俳優・佐田啓二。小津安二郎監督により「貴一」と名付けられた男の子は、2歳半の時父を交通事故で亡くします。その後母に厳格に育てられ、小学1年生の頃から映画を通じ俳優としての父親の姿を追うものの、高校時代はインターハイに出場するくらいテニスに熱中。
成蹊大学在学中、父の17回忌の法要の席で映画監督の松林宗恵に声をかけられ、1981年公開の松林監督『連合艦隊』の特攻隊員役でデビュー。同作品で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞、順風満帆なキャリアのスタートを切ります。
テレビドラマ「ふぞろいの林檎たち」で体当たり演技
1983年には『父と子』『ふしぎな國 日本』『プルメリアの伝説 天国のキッス』『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』と出演映画が4作品も公開に。中でも『プルメリアの伝説 天国のキッス』で松田聖子の相手役となったことでアイドル雑誌等での露出も増え、若年層での認知が高まります。この手の作品の場合、主演の二人が実際恋に… なんて宣伝もしたいところですが、この頃の聖子さんは某大物歌手との交際が噂され、そこまでは望めず…。
また、この年は5月にテレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』がスタート。四流大学に通う生真面目で不器用な青年・仲手川良雄を演じます。やけくそで行った風俗店でお尻を露にするといった、アイドルだとNGなシーンも体当たりで演じます。それまで映画やドラマで演じた硬派で繊細な役とも、お育ちから感じられる気品のある貴公子イメージとも違う、気が弱く人に優しすぎるキャラクターでお茶の間での認知は一気に高まります。
映画の方で三原順子、紺野美沙子、松田聖子、杉田かおると言った当時のアイドルたちと共演するも、本ドラマで奔放な看護学生・晴江を演じた石原真理子とのコンビがしばらく続くことになります。
石原さんの後年の著書『ふぞろいな秘密』(双葉社)によれば、お二人このドラマの始まる前、実際おつきあいはされていたようで。大学生と17歳、デートは彼の田園調布の自宅や別荘で家族も一緒にと言う、家族ぐるみのお付き合い。一線を越えたのかどうなのかは「これ以上は書けません」…とか。
歌手としてもデビュー。ドラマ、映画の主題歌を歌う
1984年4月にはテレビドラマ『青春泥棒・徹と由紀子』と映画『F2グランプリ』が同時期にスタート。共に相手役は石原真理子。ドラマはコミカルに、映画はクールに演じ分け。
また、このタイミングで歌手としてもデビュー。A面の「青春の誓い」(作詞:岩谷時子、作曲:加瀬邦彦、編曲:飛沢宏元)はドラマ、B面の「セカンド・ヒーロー」(作詞:大津あきら、作曲:鈴木キサブロー、編曲:川村栄二)は映画の主題歌。
「青春の誓い」は加瀬邦彦作曲、ワイルド・ワンズを彷彿させるさわやかな湘南サウンド。一方の「セカンド・ヒーロー」は映画のストーリーに合わせたクールな歌詞にドラマティックなメロディ。
オリコンシングルランキング最高22位 / 累計売上枚数7.8万枚ではあるものの、『ザ・ベストテン』『夜のヒットスタジオ』に出演。当時の記事には “加山雄三以降本格的な兼業歌手” なんて書かれたりして、新人歌手としての注目度は高かったのでしょう。朗々と物怖じしない歌い方は役者ならではの表現力なのかな。
この年、渋谷・西武劇場で初コンサートを開催。シングル第2弾「噂のルーズガール」、サザンオールスターズの「チャコの海岸物語」「いとしのエリー」、大瀧詠一の「雨のウェンズデー」、ビリー・ジョエルの「オネスティ」等20曲を軽快にさわやかに歌唱。客席には大原麗子、時任三郎、坂本スミ子、中井貴恵らの姿が。アンコールは短パン姿で登場。さわやかなテニス・ボーイのイメージ!?
任された大役、NHK大河ドラマ「武田信玄」に主演
1985年は3月から『ふぞろいの林檎たちⅡ』で順調にスタート。そして7月に『ビルマの竪琴』が劇場公開。地味な反戦映画ながら、大ヒットした『南極物語』に続くフジテレビの巧みな宣伝で、最終配収29.5億円… と、この年の邦画では一番の大ヒットになります。
80年代後半になると、役者としては、市川崑、小林正樹、木下恵介、山田洋次と言った大ベテラン監督との仕事が続き、1988年にはNHK大河ドラマ『武田信玄』で主演と20代にして大役を任されます。
この頃は石原真理子さんの方にも某大物歌手との交際報道があったせいか、相手役は『鹿鳴館』『竹取物語』で共演した東宝シンデレラ沢口靖子や、南野陽子、国生さゆりと、旬なアイドルたちとの共演は続きます。
しかしながら週刊誌で報道された恋愛ゴシップのお相手は『新・喜びも悲しみも幾歳月』で義理の母親役であった大原麗子(当時39歳)…。
音楽活動は止まったけれど、俳優として第一線で活躍中!
音楽活動の方はと言うと、1988年に3枚目のアルバム『Blue Shade』をリリース。青や白のスーツ、黒いサングラスをかけたジャケット写真の印象からしても、さわやかと言うよりアダルトなイメージ。
先行シングル「黒の似合うひと」(作詞:松本隆、作曲:中崎英也、編曲:鷺巣詩郎)をはじめ、多くの曲を鷺巣詩郎がアレンジ。シンセサウンドをフィーチャーし、アダルトの中にデジタルな味わいのあるアーバンポップに。デビュー時の70年代青春歌謡から大きく進化(?)したものの、結局この時期で音楽活動は止まります。
そこから約40年、俳優として第一線でご活躍。個人的には小泉今日子と共演したドラマ『最後から二番目の恋』の “続々編” を期待。貴一さん演じる鎌倉市観光推進課に勤務する長倉和平は『ふぞろいの林檎たち』の仲手川くんがそのまま50歳になったような生真面目で理屈っぽく説教臭いけど憎めないキャラクター。還暦を過ぎ、今後も安定して色々な役を演じ続けてくれることを楽しみにしています。
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2022.09.18