「ふぞろいの林檎たち」や「岸辺のアルバム」など、多くの名作がある山田太一ドラマ。中でも、印象深いのが、1981年に放送された「想い出づくり。」だ。
このドラマを思い出すと、パンフルートというルーマニアの民族楽器が奏でる主題歌が、頭の中でぐるぐる回り出す。ふぞろいの「いとしのエリー」や岸辺の「ウィル・ユー・ダンス」のようなインパクトはない。だが、物悲しい曲調が華やかさとは一切無縁な「想い出づくり。」の世界にぴったりハマっていた。
「想い出づくり。」のヒロインを演じたのは、森昌子、古手川祐子、田中裕子。結婚前の想い出をつくりたいと奮闘する彼女たちを襲う出来事はそれなりに過酷なのだが、大映ドラマみたいなやりすぎ感や嘘くささはなく、かなりリアルだった。
3人のヒロインの中で、特に適役だったのが森昌子だ。演歌のスターでありながら、どこか垢抜けない印象が、下町で育った工員という役柄にぴったり。そして、昌子の相手役は、つかこうへい劇団のスター、加藤健一。この加藤が強烈だった。田舎でガソリンスタンドや食堂を経営する、ポマードべったりの小金持ちで、昌子を嫁にしようとズーズー弁で口説きまくる。この人、気持ち悪い。中学生だった私は、加藤が出てくるたびにぞわぞわした。
忘れがたいのが、昌子のロストバージン翌朝の場面だ。ホテルの部屋を訪ねた昌子の弟の目に映ったのは、ベッドの片隅に畳まれたブラジャー、ごみ箱の中にある大量のティッシュ。照れなのか、高揚感からなのが、弟に対して妙に冗舌になる昌子。ドラマでありながら、妙に生々しかった。
残り2人のヒロインの恋愛も、ダメ男やさえない上司が相手で、かなりしょっぱい。バックにはあのパンフルートの物悲しい音色がのべつ幕なしに流れ、彼女たちを一層しょっぱく見せる。このドラマをきっかけに、私は不器用な人たちの心情を丁寧に描く山田太一ドラマのファンになった。
数年前、CSで30数年ぶりに「想い出づくり。」に再会したが、今見ても、彼女たちの恋愛はしょっぱいし、主題歌は物悲しい。ただ一つ、あれ、そうでもないじゃん、と思ったことがある。加藤健一、そんなに気持ち悪くないよ。エネルギッシュでまっすぐで、いい男じゃないか。昌子、決めちゃいなよ! なんて、30数年前の昌子に思わず訴えたくなったりするのだ。
2016.06.06