1974年 12月10日

昭和アイドルソングにおける “口紅” の意味【bayfm Wave Re:minder】連動コラム

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昭和アイドルソングにおける口紅


みなさんこんにちは! 浅野ナナです。

平成生まれながらも、80年代に青春を過ごしたかったという願望を具現化し「令和の昭和体現者」という活動をしています。

本日のコラムはラジオbayfm 『Wave Re:minder』にゲスト出演させていただくにあたり、そのテーマである「昭和アイドルソングにおける口紅」についてオンエアされる曲の内のいくつかを取り上げて深掘りします! 本日放送回は70年代のアイドルソングを中心に選曲しました。

山口百恵「冬の色」に見る、時代と共に変化していくアイドル像とは?


 あなたから許された 口紅の色は
 からたちの花よりも 薄い匂いです

これは少女の清らかな恋心を描いた山口百恵「冬の色」(1974年 リリース当時15歳)の出だしのワンフレーズ。
しかし、平成生まれの筆者は思った。自分が身につけるはずの口紅の色に対して、 “許された” ってなんだ?── と。

「冬の色」は女性がつけるはずの口紅の色を男性が制限するということを筆頭に様々な世界観が盛り込まれている。

・少女が恐ろしいほど一途に恋に没頭するさま
・女性の自己犠牲精神
・幸せを求めないという姿勢
・♪突然あなたが死んだりしたら 私もすぐあとを追うでしょう 、というヘビーな一節

など、これらは当時流行した四畳半フォーク的な世界観だ。しかもこれを15歳の少女が歌っているのだ。もし現代でリリースしてしまったら、批判殺到どころではすまないだろう。

この衝撃をきっかけに、昭和歌謡を純粋に楽しむためには、自分の中に培われた価値観を己の知識でとっぱらう必要があるかもしれないということ、そして逆に、歌から知れる時代背景・価値観があるということを知ったのだった。

私が冒頭で疑問を抱いた口紅の描かれ方は、「求められるアイドル像」が時代と共に変化していく様子がわかるアイテムのひとつだ。

“ツッパリ要素” が皆無だった70年代のアイドルに求められたものとは?


70年代から80年代にかけて変化したアイドルの概念において、いちばん大きいのは “ツッパリ要素” が存在するか否かではないだろうか。

この “ツッパリ要素” をアイドル界に持ち込んだのが、冒頭で筆者が衝撃を受けた「冬の色」を歌った山口百恵と、「横須賀ストーリー」(1976年)以降、数々の楽曲を彼女に提供した宇崎竜童・阿木燿子夫妻であるというのが面白いところである。



“ツッパリ要素” が皆無だった70年代のアイドルは “かわいらしさ、純粋さ” をひたすらに求められた結果、“口紅は純粋な素顔を隠してしまうもの=よくないもの” として描かれていたのだろうと考えられる。

石野真子「狼なんか怖くない」(1978年リリース当時16歳)では、

 はじめてのルージュの色は
 紅過ぎてはいけない

―― というフレーズがある。

「冬の色」同様、他者による制限が示されているのだが、若い女性がつける口紅はなるべく素の色に近いものにするべきだという考えが、単なる男性の好みというだけでなく世間一般にある考えであったということが読み取れる。

太田裕美「木綿のハンカチーフ」(1975年リリース当時20歳)でも、

 恋人よ いまも素顔で
 くち紅も つけないままか

―― と、女性に素顔=無垢のままを求める… というより無垢のままでいてほしいという男性の理想の押し付けが描かれている。

ツッパリアイドルソングの代表曲「少女A」に登場する「口紅」の描かれ方


では80年代になるとどうだろうか。

70年代と80年代のアイドル像のいちばん大きな違いとして “ツッパリ要素" の有無をあげたが、ツッパリアイドルソングの代表曲ともいえる中森明菜「少女A」(1982年リリース当時17歳)にも口紅が登場する。

 素肌と心はひとつじゃないのね
 ルージュの口びる かすかに震えてるわ

直接、口紅がどうこうという歌詞ではないが、口紅を当たり前のようにつけているという描写が世間への抵抗、つまり、ツッパリの証であることが読み取れる。



この1982年からまた少し時が進むと口紅は、女性や少女が自らおしゃれをするためにつけるもの、そして自身を表現するものとして捉えられるようになる。

わかりやすいのが「冬の色」からちょうど10年後にリリースとなった岡田有希子の「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」(1984年リリース当時17歳)だ。

 鏡の前にすわり ふるえる指でそっと
 口紅をつけたこと ママには内緒よ

綺麗になりたい、おしゃれをしたい、憧れの大人の女性を目指して背伸びしたいという気持ちが全面に表現されている。しかもこの少女が気にしているのはあくまで “ママ” ひとりで、男性や世間の目は直接介入していないのである。



時代の流れや背景、価値観を深掘りできる歌の中の “口紅”


筆者は当時を生きていないため想像の域に留まるが、女性の立場向上が社会の動きとしてあったことや、「ツッパリ」がブームになったことで世間の「女性らしさ、純粋さ」の押し付けが弱まったのではないだろうか。

現代でも、多様性を尊重する社会の動きやK-POPの流行に伴い、“男性の化粧” が不思議なことではない風潮に変化しつつあるが、この感覚に近しいものを感じる。

歌の中の口紅というアイテムひとつで、時代の流れや背景、価値観をこんなにも深掘りできるというのだから面白い。

さて、次回のラジオ放送は8/30(水)25:00から。

第2回は80年代にフォーカスしてじっくり時代の流れを味わえるので、ぜひ聞いてくださいね!


さあ、今日はどんな色の口紅で自分を飾ろうか。

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2023.08.24
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カタリベ
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浅野ナナ
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