9月25日

門あさ美と米津玄師に共通する “小節のアタマを見失う問題” を徹底分析

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ラグビー日本代表がワールドカップで活躍する姿を観て、TBS テレビで放送された日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』を思い出した僕は、自然と主題歌である米津玄師の「馬と鹿」を口ずさんでしまった。まさにテレビ局の思惑通りで、恥ずかしいくらいドラマに乗せられたオジサン丸出しである(笑)。

さて、カラオケでこの曲を歌ってみた人が読者にもいると思うけれど、曲全体を通して少しだけ歌いにくい箇所があったと思う。ところどころ歌い出しに違和感があるような… そう、それは小節の頭が分かりにくくなるような “リズムの遊び” が施されているからである。

ちょっと語弊があるけれど、ミュージシャンというのはそういうアレンジの “遊び” をしたがるもの。この「馬と鹿」は、“バード” と呼ばれ親しまれたジャズの巨星チャーリー・パーカーの名曲「Billie’s Bounce」のフレーズ構造をリスペクトしているはずだ。

僕は高校生の頃、この “遊び” で悩まされた思い出がある。門あさ美の「月下美人」だ。今回は、当時文化祭で演奏するにあたって挫折してしまった門あさ美のヒット曲「月下美人」のリズムを徹底的に分析して、不甲斐なかった当時の自分自身に敵討ちをしてみたいと思う。


時は1982年の夏――
軽音楽部に入部した僕は、待ちに待ったロック解禁の夏休み、憧れていた助川先輩のグループには入れずに(助川先輩の話はこちら)ナミ先輩がリードボーカルのグループに振り分けられ、文化祭のバンド演奏に挑むこととなった。

その先輩の選曲が門あさ美だったのだ。セットリストは覚えていないけれど、1981年7月リリースのサードアルバム「セミ・ヌード」から、「お好きにせめて」「気まぐれKitten」「Season」「Nice Middle」そして問題の「月下美人」が選ばれていた。

知らない人も多いと思われる。まずは、門あさ美… だろう。門あさ美は、80年代に活躍したシンガーソングライターで、当時はメディアへの露出が極めて少なくミステリアスな存在であった。

楽曲ほとんどの作詞作曲を手掛けるも、編曲によって印象は変化に富み、初期の戸塚修、鈴木茂、松任谷正隆、松岡直也あたりの16ビートやラテン調のアダルトな雰囲気から、後期は一変して高橋幸宏プロデュースにより8ビートを前面に押し出す POP チューンで爽やかさが演出された。

初期の門あさ美は実にエロティックであった。バラードの歌詞などは、男女の情事そのものをオブラートに包んだ際どいフレーズの連続で、それを風呂場のエコーの如くディープなリバーブをかけて “あんあん” 歌っていたのだ。イメージはバラエティ番組でエッチなシーンに挿入される「あーん♡」という効果音とほぼ同じである(ちょっと言い過ぎだが聴いてもらえばわかるはず)。

暗い照明のバーカウンターで、隣に座って内腿あたりをソフトタッチして耳元でささやくような… 門あさ美とは、当初そんな情感たっぷりに甘美で悩まし気に歌うシンガーだったのだ。

何故そんなアダルトなお色気ムンムンのアーティストを、若干17歳のナミ先輩が選んだのかは不明だ。けれども「月下美人」に至っては、東亜国内航空キャンペーンのタイアップだったので人気があったのだと推測する。ナミ先輩のハスキーな声質も確かに似ていたし。

さて、僕ら1年生軍団がナミ先輩のサポートをして演奏するのだけれど、「月下美人」だけは異常に難しかった。僕はピアノを担当、そのピアノのバッキングはモントゥーノセクションにおける “トゥンバオ” のリズム主体で、“ズンチャズンチャズズンチャンズチャンチャン…” というアクセントが拍の裏表を行き来する特徴的なフレーズ。まだあどけない高校生がラテンを演奏するなど、文化祭で僕らの音楽を聴きに来た人は「なんだこりゃ?」だったかもしれない。ヘビーメタル全盛だったバンドの中で不釣り合いこの上なかったろう(笑)

それでは、前説が長かったけれど、いよいよ問題の楽曲解説に移させてもらおう。

僕らが挫折した、小節の頭を見失い悩まされる「月下美人」のギミックは、いきなりAメロから登場するのだ…。


 夏の夜 密かに
 咲くの 一夜だけ
 月と語り合うの
 月と消えてゆくの 人知れず


この「♪ 人知れず」の部分からドラムレスになって “ダダダ” というブレイク、そして “チャーラララ” のフレーズ三連発、そしてAメロに戻るのだが、ここが僕の拙いミュージシャン人生において一番演奏に悩まされた部分である。リズムが分からなくなるのだ。

どうしても、“チャーラララ” のフレーズを拍の頭で聴いてしまう。人間だれしもそれは普通の感覚だから仕方ない。これはその前のブレイク “ダダダ” が引っかけになっているのだ。

細かく譜割りしてみるとこうなる。
歌が終わる最後の小節からドラムレスになり、1小節目から完全に浮いたリズムで流れ4小節目で “12345ダダダ” (数字を8分休符でカウント)とブレイク、1小節目に戻り “123チャーラララ” なのである。つまり “チャーラララ” のフレーズは裏拍で始まるのであって、これが3回繰り返されることで頭の中が馬鹿になってしまう。

実は3小節目の「ラ」の部分が4小節目を食ったリズムで、拍数を数えると最後ぴったりと4小節に収まるのだけれど、馬鹿になった感覚だとAメロに戻るとき半拍ずれてしまうのだ。聴いているだけだと「おや?」くらいだと思うけれど、演奏する身としてはバンドなので全員揃わなくちゃ話にならない。当時の僕らではこの山を乗り越える意思も技術も伴わなくて、いい加減に拍数を整えて文化祭を乗り切ったのだった。

音楽というのは4小節が2回繰り返されるパターンで概ね構成されていて、Aメロ8小節、Bメロ8小節、サビ16小節の32小節が基本のパターンである(最近はもっと複雑化しているけれど)。

この状態から逸脱すると、人は違和感を覚えるようにできている。それを8小節の括りの中で意図的に作り出して引っ掛かりを作るという、なんとも手の込んだ “遊び” が今回の分析だ。

ものすごく難しい説明で申し訳ない。音源を聴いて両手でタカタカとリズムを刻みながらこの難しさをぜひとも体感して欲しい。超イライラするはずである(笑)。

さて、本編はここで終わりだけれど、冒頭の「馬と鹿」が気になっている人がいるかも知れないのでこちらもサラっと解説してみたい。


 歪んで傷だらけの春
 麻酔も打たず歩いた
 体の奥底で響く
 生き足りないと強く


普通に聴くと「強く」のあとBメロの「♪ まだ味わうさ~」に入るとき違和感があると思う。それは歌詞冒頭の「♪ 歪んで~」を食ったリズムに捉えてしまうからだ。実は1小節目を1拍おいて「♪ 歪んで~」が正解で、4小節のルールはちゃんと守られている。

意地悪なことにBメロの「まだ~」は拍のアタマで入り、次の「ひとつ~」の「ひ」は前小節を食って入ることで聴くものを揺さぶり、極めつけでサビの直前に楽曲を盛り上げるため “チャンチャンチャンチャン” というギターフレーズを2拍分追加している。いくら何でもこれは確信犯だと思う。

拍数を完全に見失ってしまう… 頭の中が馬鹿になっている状態… これ、タイトルのウラの意味として絶対にアルと思っている。米津さん… どうかな?(笑)

2019.10.17
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  YouTube / 米津玄師
 

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カタリベ
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