目指せ湘南の海! カーステで聴きたいシティポップ
これからの季節、海へドライブデートするならこれを聴け! という70's〜80'sのシティポップを10曲選ぶ企画。
迷った挙句、今回は僕が高校を卒業した翌年の1986年夏、彼女と湘南海岸を丸ごとドライブデートしたときに聴いた曲を紹介しようと思う。
ちなみに、何日も前からデートコースをシミュレーションして厳選したので、これを読む君も、脳内で映像と音楽を同時に再生してデートコースを疑似体験してみるのはどうかな?
では早速車に乗り込もう。当時に倣ってカセットテープで聴くことをイメージして欲しい。この時の僕は彼女とのデートなので奮発してちょっと良いテープを用意した。1985年から発売が始まった新ブランド『AXIA』のカーステレオ用カセットテープ「GT-I」だ。
さて準備はいいかな? 出発しよう! 時刻は午前4:00… 僕は車のエンジンをかけた。これより遅い出発だと首都高速が混んでしまうのだ…。さあ、首都高速横羽線から湘南に抜けるドライブの始まりだ。このルートでピンときた人は間違いなくユーミンファンだよね。
A-1:COBALT HOUR / 荒井由実
アルバム『COBALT HOUR』(1975年)から。
ギターのカッティングと白玉のベース、そこにフェイドインしてくるドラム… 今日を予感させるイントロだ。コロコロと転調するコード進行とユーミンの歌声が、目眩く空色のように僕の高揚感を思いっきり煽ってくる。まさにコバルトアワー。ちなみに歌詞では「ベレG」(いすゞ ベレット1600GT)が突っ走るが、彼女を乗せた僕の愛車はスズキの軽自動車である。
夏の夜明けは早い… 朝日が差し込む街を高速道路から眺める時間…なんて贅沢なんだろう。高速道路のことを「♪まるで滑走路」とユーミンは歌ったけれど、僕らの車はいま海に向かって飛び立つほどの勢いで走っている──
A-2:愛を描いて –LET'S KISS THE SUN– / 山下達郎
アルバム『MOONGLOW』(1979年)から。
JAL沖縄のキャンペーンソングとしてヒットしたこの曲は、高校の文化祭でバンド演奏するために選んだ思い出の曲だったりもする。
二人の行く手には
さえぎるものはない
―― というゴージャスな吉田美奈子の歌詞が、助手席の彼女に対して照れてしまうほど愛を語っているようで恥ずかしい。黙って運転しよう(笑)。少しだけ窓を開けると、潮の匂いが感じられた… 海が近い。海が見えたら聴こうと決めていたのは、重厚なコーラスが美しいこの曲だ。
A-3:夢伝説 / スターダストレビュー(1984年)
シンセベースのイントロが期待させ、そこに根本要のハイトーンボイスが語りかけてくる。そこからのサビは、重厚で美しいコーラスの響きが一気に押し寄せる。それは、車のフロントガラス越しにバーンと広がった海岸線が僕らを出迎えてくれるように── という、これは僕なりの演出だった(笑)。
カルピスのCMソングとしてヒットしたナンバーだから海は関係ないけれど、楽曲の壮大なスケール感が大海原をイメージさせるんだ。この曲を選んだのは、彼女が根本要のファンだったという理由もある。
A-4:海 / サザンオールスターズ
アルバム『人気者で行こう』(1984年)から。
歌詞の内容が切ないのはさて置き、美しいメロディーと曲の構成がリッチな「海」は、ファンのなかでも特に女性に人気がある曲だ。間奏のギターが泣かせてくれる。
湘南の海といえばやっぱりサザンオールスターズ。「サザンはシティポップか?」と問われると困るけど、数あるサザンオールスターズの曲でシティポップ度の高いこの曲は僕好みである。
A-5:音楽のような風 / EPO(1985年)
コーラスのサポートメンバーとしてサザンオールスターズに参加した繋がり… ということで、次はEPOをセレクトしてみる。
忘れられない。忘れたくない。
―― というキャッチコピー。ビクタービデオテープのCMでサビの部分を覚えている人は多いだろう。
爽やかな風が吹き抜けるようなEPOの声が、ランチで満腹になった僕らに心地よい眠気を与えてくる。しかし、僕だけは我慢してロッテのクイッククエンチ-Cガムを噛む(このガム流行ったよね)。よし、鎌倉はもうすぐだ。
鎌倉に到着。鶴岡八幡宮でお参りをしたら、そのまま小町通りまで行って白玉あんみつを食べる。ランチでデザートを我慢したのはそういうわけなのだ。
A-6:鎌倉物語 / サザンオールスターズ
アルバム『KAMAKURA』(1985年)から。
EPOがサポートコーラスとして参加しているのはこのアルバムのこと。懐かしい原由子の歌声でまったりした雰囲気に包まれる。ちなみに歌詞中にある日影茶屋は葉山の老舗。今なら小町通りに和菓子店があるのでお土産が買えるはずだ。葉山のお店は若造が行くようなお店じゃないので、行かれる方は覚悟してご予約を。
ここからは今日の最終目的地。鎌倉からちょっと戻る感じで海岸線をひたすら走り、湘南平のテレビ塔を目指す。いざ平塚へ――
B-1:夏の恋人 / 竹内まりや
アルバム『BEGINNING』(1978年)から。
二人は夏の恋人
陽射しの中に溶けるの
陽射しの中に溶けるの
夏の恋人 すてきな
作詞・作曲は山下達郎である。このデビューアルバムでは、まだ竹内まりや “らしさ” は封印されている。まったりと歌う竹内まりやの歌声を聴きながら134号線をひた走る。
ランチを食べた七里ヶ浜を過ぎ、江ノ電(江ノ島電鉄)とお別れして、さらに江の島を背にして茅ケ崎に突入。湘南平のテレビ塔はもうすぐだ。
B-2:ファッシネイション / 門あさ美(1979年)
寄せる寄せる 押し寄せる波
遠く近く 揺れ続けてしあわせ
この曲は高校の文化祭で演奏した思い出がある。お色気お姉さんのイメージが強いけど、実際歌っている姿を見たことがない不思議なアーティスト門あさ美。上記のとおり彼女の曲はどれも歌詞が際どくて彼女の視線が少し気になるけれど、そんなことはお構いなしに聴いていく。
美しいメロディーにボサノバの曲調は、この当時まだまだ新鮮だった。門あさ美の一連のアルバムは、シティポップとしてもっと注目されてもいいと個人的に思っている。
ちょっと眠くなりそうなので、ゴキゲンなサウンドのテープに切り替える。ベースのスラップと16ビートのキメがバシバシくるならやっぱり杏里でしょう――
B-3:Gone with the sadness / 杏里
アルバム『COOOL』(1984年)から。
角松敏生プロデュースということで、アルバム全体がかなりアダルトなアレンジに仕上がっている。前年の1983年に「CAT'S EYE(キャッツ・アイ)」、「悲しみが止まらない」をヒットさせ、洗練されたシティポップのイメージが定着した杏里。ノリノリで聴いている彼女をよそに、フュージョン小僧だった当時の僕は、演奏するミュージシャンのフレーズについ耳を傾けてしまう。
杏里といえば「オリビアを聴きながら」という、デビューにしてスタンダードという名曲を歌っているけれど、その繋がりから次のカセットはこのアーティストに――
B-4:ハートの色は海の色 / 尾崎亜美
アルバム『Air Kiss』(1981年)から。
尾崎亜美の曲も、シティポップとしてもっと取り上げられてもおかしくないと思うなぁ…。ちなみに、このアルバムのアレンジもDAVID FOSTER(デヴィッド・フォスター)という豪華さである。
湘南平のテレビ塔は、高麗山公園の一番高い所にあるテレビ電波の中継局だ。このテレビ塔の展望台の金網の柵に “南京錠” を取り付けるのが今回のドライブの最終目的だった。恋人たちが永遠の愛を誓って南京錠をかける… この噂を聞いて「ぜったいやろう!」と、わざわざやってきた僕らなのである。
B-5:パレード / 山下達郎
アルバム『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』(1976年)から。
1983年の上半期に『オレたちひょうきん族』のエンディング曲として使用されたよね。「あぁ楽しかった土曜日が終わっちゃう…」という感覚が、彼女と楽しかった一日を振り返るような雰囲気にも感じられてキュンとなる…。
―― 湘南海岸ドライブデートはどうだったかな? カセットテープには、どのアーティストもアルバムで録音していて、デートのときには全部で15本くらい用意してたんだ。
いまの時代、音楽は持ち運ばなくてよくなったけど、カセットテープのインデックスに気合を入れる文化は楽しかったなぁ… なんて、このコラムを書き終わって懐かしんでいる。
2022年6月18日に掲載された記事をアップデート
特集 FMステーションとシティポップ
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2023.07.09