自分でも意外だが、さほどフリッパーズ・ギターにハマっていた訳ではない。小沢健二のソロデビューにも思い入れはなかった。93年当時、私は某外資系大型CDショップで邦楽を担当していた。デビュー曲「天気読み」のサンプルCDを初めて聞いた時「山下達郎みたいだな。」と思った。そこがオザケン人生の始まりだ。
あれから早幾年。渋谷系ムーブメントを超え、王子様狂騒曲を超え、海外での活動等を横目に、オザケンへのリビドーは完全に深い眠りについていた。結婚して子供をもうけたというニュースや、ライブチケットがとれないという話題が、チラチラと耳に入る程度で。
それがなぜ、2017年7月29日、50代へのカウントダウンが迫りくるこの歳で、私は苗場のフジロックくんだりまで来て、雨に打たれながら初のフェス参加となる小沢健二のステージを待っていたのか。同日出演となったCorneliusこと小山田圭吾との再会騒動に血が騒いだわけじゃない。
体力だってないのに! どうしてこうなった!?(笑)
会場のホワイトステージは小沢健二のキャパとしては狭い。入場規制は確実だったので、現地には6時前に入った。何だよー、巷ではオリーヴおばさん集結などと噂されていたけれど、オリーヴおじさんもたんまりいるじゃないかよー!
開始まで2時間以上待ち。徐々に人波が膨れ上がる。伝説への予感や期待が膨れ上がる。たくさんの懐かしいSEが流れていく。
8時過ぎ。まず観客に10カウントさせて、ステージにスチャダラパーが登場、演奏陣にはスカパラホーンズ。
そして「今夜はブギーバック」が始まった!
皆、前に押し寄せる! 一緒に叫ぶ叫ぶ! 将棋倒しスレスレ! なぜブギーバックでモッシュなのかよくわからないまま、祝祭の荒波に飲み込まれ、オリーヴおばさん&おじさんは、アムールを爆発させるのであった。
「愛してるぜ、ロック好きな人、マジで!」
キャー!オザケンー ー!
わずか1時間ほどでライヴは終了。人が多過ぎて退場規制までかかり、土砂降りの中1時間動けず待たされた。死ぬかと思った。
でもね。フジロックのあの場にいられたことは本当に幸せだった。繰り出される音の喜び。噛み締める歌。大衆音楽への強い愛。夜が深く長い時を超え、さまざまな場所から私達があの場に集ったことの意味。
その意味を、ライブ前のSEからうかがい知ることができるような気もしたのだ。
矢沢永吉「イエス・マイ・ ラブ」やサザンオールスターズ「いとしのエリー」、松任谷由実「甘い予感」、アグネス・チャン「ポケットいっぱいの秘密」の他、RCサクセション、椎名林檎、cero、平尾昌晃、沢田研二、往年のCMソングやアニメ主題歌(うろ覚えなので、違っていたらご勘弁!)などなど。そんなメロディーがずっと流れていたのである。
ブギーバック発売前に「平成の〝悲しい色やね〟にしたい。」とインタビューで答えたオザケン。「大衆音楽の一部であることを誇りに思う。」とかつて語ったというオザケン。
果たして小沢健二はどうなりたいのか、ちょっと考えさせられた。父親となり、そのプライドを新たな普遍にスライドさせて、更なる物語を紡ぎだしていくのかな。なんてね。
そして毎日は続いていく。その毎日に寄り添い、時代を映し、大衆音楽は心に残っていく。
帰宅したら、大学生の甥からLINEが来た。「サークル夏合宿を越後湯沢でやるから、俺も下見でフジロック行けばよかったな。オザケンの新曲あれよかったよね。“流線形について”」
いや、甥っ子君惜しい。“流動体” だからね。
2017.08.12
YouTube / kumacks
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