ほとんど洋楽を聴いて中学時代を過ごしてしまった私ですが、日本のグループで好きだったのがブレッド&バター。澄んだ素敵な声の茅ヶ崎出身の兄弟デュオでした。
TVK の『ファンキートマト』の司会をザ・ワイルド・ワンズの植田芳暁さんがやっていた時に紹介していたのを聴いて、興味を持ったのが馴れ初めだったかと… 同じ湘南サウンド繋がりでブレッド&バターを紹介してくれていたのかもしれません。
聴き始めたのが中学生の時だったので、ちょっと大人な歌詞を実体験と重ねて理解できていた訳ではありません。でも、神奈川県民にとって、曲に出てくる風景は頭の中に次々と浮かんでくる、まさにご当地ソングばかり。そんな親しみやすさも好きだった理由の1つでした(例えば、「あの頃のまま」で友達に出会ったターミナルは私の中では藤沢駅のターミナルなのです)。
数多い彼らの曲の中でも夏といえば、やはり「ホテル・パシフィック」。
ここで歌われているパシフィックホテル茅ヶ崎は、ちょっと未来的で目立つ建物だった。1965年の開業当初は、上原謙、加山雄三がオーナーだったとのことなので当時は最先端で高級リゾートだったそうだけれど、残念ながら1988年には廃業―― 多分、湘南の人で知らない人はいないし、サザンオールスターズがこのホテルのことを歌っていたというくらい有名な場所です。
私の中にあるパシフィックホテルは、遊びに行った海から浜辺を見たときの茅ヶ崎の道標のようなもの。真っ白な建物が夏の空に映えて見えたことをよく覚えています。
それにしても、この曲、夏の曲なのになんでこんなに切ないメロディー?
中学生の頃はわからなかったけれど、大人になった今だからこそ心に響いてくるようになりました。なんたって、作詞がユーミン! 彼女の歌詞と岩沢兄弟の声が切なく良いんですよね。
遠い日は 蒼い馬さ
煙るように 駆けてくる
ひさしぶり 肩よせ歩けば
ああ ここはすこしも変わらない
パシフィック 想い出の
海が 聞こえる
友達が湘南に住んでいたので、夏は茅ヶ崎の海に遊びに行き、私はこの曲を聴きながら海で遊んでいました。大人になったら仲間同士の楽しい夏もいつかは切ない思い出になってしまうのかなぁ? なんて思ったりしながら…
そんなある日、この曲のように思い出が切なく変わる出来事があったのです。
高校生になって、私はイギリスのアーティストに夢中になり、イギリスの音楽ばかり聴くようになって、ブレッド&バターはそこまで追いかけなくなっていました―― そんなある日、湘南に住んでいる仲良しの友達からあらたまった感じで声をかけられたのです。話したいことがあると。深刻そうな顔で彼女が言うには…
「本当にごめんなさい。私、あなたに内緒でブレッド&バターの家を探して会いに行ってきたの。本当ならば、誘わなくちゃいけないのに、黙って行ったこと本当に申し訳ないと思ってる。言えなくてずっと辛かった…」
いやいやいや、そんなことで? そんなに思いつめちゃったの? たしかに私がブレッド&バターを紹介したのだけれど、それからずーっと彼女は彼らのファンだった。むしろ彼女の方が私よりよっぽど深くブレッド&バターのことが好きだった…
それなのに、先に私が知って、彼女に紹介したというだけで私にものすごく遠慮していたらしい。私に黙って彼らに会いに行ったことが良心の呵責になっていたと言う。そんなこと、どうでも良いことだし、ファンとして家まで行く彼女の熱意の方が尊いというのに。
でも、高校生の時って、それぞれ、自分だけが持つ不思議なルールがあるから彼女は自分なりに考えて悩んでしまったんでしょうね。高校生、恐るべし! そして、その思い込みは愛おしくも切ない。
「全然気にしなくていいよ。これからも、仲良くしてね」
なんて、私は答えて、その後、わだかまりは全くない。けれど、彼女と私の好きなものにズレを感じてなんとなく疎遠になってしまったのも事実――
あれから連絡を取らなくなってしまった彼女も、ピュアなあの頃のまま、ブレッド&バターを聴いていると良いなぁ… なんて、夏の暑さの中で切なく思い出してしまいました。そして、嬉しいことにブレッド&バターのお二人は、今も精力的に音楽に取り組まれており、コンサートも行っているようです。
歌詞引用:
ホテル・パシフィック / ブレッド&バター
2018.08.13
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