TM NETWORKのボーカリスト、宇都宮隆の存在感
「ウツ、ありがとう!!」
そんな歓声が飛び交った中野サンプラザの熱い夜。2020年2月6日、7日に開かれた宇都宮隆のツアー『Dragon The Carnival』の光景だ。
宇都宮隆―― 言わずと知れたTM NETWORKのボーカリスト。抜群のルックスと甘く美しい歌声は、今なおファンの心をつかんで離さない。少しタイムマシーンに乗って時間を戻したい。
1984年にデビューを果たしたTM NETWORKはキーボードの小室哲哉、ギターの木根尚登、そして宇都宮隆の3人からなるグループだ。1986年にリリースされた「Come on Let's Dance (This is the FANKS DYNA-MIX)」のダンサブルな曲は、あまりにも衝撃的で、当時中学生だった私を瞬く間に虜にさせた。
よく地方キャンペーンにも訪れてくれて、ラジオ局やレコード店にやってくるという情報を仕入れては 中学生にして “追っかけ” になった。まだこの頃は、駅で会っても話しかけてくれるほどファンとの距離も近くて、生のウツの姿にいつもドキドキしたものだ。1987年、「Self Control(方舟に曳かれて)」、「Get Wild」をリリースすると音楽番組への露出も増えて、あっという間にヒットチャートを駆け上っていった。
少年っぽさとセクシーさの共存、素敵で無敵のカッコよさ
これでもか! というほど転調を繰り返していく斬新な小室サウンドと、たくさんのキーボードが並ぶ要塞に世間の関心が集まる一方で、当時のウツはルックスに注目されることが多かったように思う。誰が見たってウツはカッコよかった。立ち姿も、マイクスタンドを握る姿も、ダンスパフォーマンスも何もかもが輝いて見えた。幼心にも「少年っぽさとセクシーさが共存するなんてズルイな…」と何度も思った。
それほどウツは無敵だったし、素敵だった。それだけに歌声の素晴らしさについて語られる機会はそう多くはなかったように思う(なんというもったいなさよ…)。一度でもTMの曲を歌ったことがある人なら、TMの曲を歌い上げることがどれほど難しいか分かるはずだ。当時はイヤモニすらなく、激しいダンスをしながら見事に歌い上げていたウツは「すごい…」としか言いようがない。
丁寧にまっすぐ歌い上げていく歌声の魅力
以前、ウツは自身の歌い方について―― わざとサラッと歌った方がかえって奥に秘めた感情みたいなものが出ることもある―― と話していたことを記憶している。また、木根尚登もウツの歌について以下のように語っている。―― ウツってTMの場合、結構メッセージ性のある曲でも、それが過剰に前に出ないよさがあるんですよ(『小室哲哉ぴあTM編』より)――
ビブラートはほとんど使わない。歌声に飾りなんて施さない。ただ真っすぐに歌いあげていく。だからこそウツの歌声には “永遠の少年性” が生まれるのだと思う。感情を込めすぎない歌詞との絶妙な距離の取り方、その歌い方はメッセージ性の強い押し付けを生まず、そっと聴き手に委ねてくれる。一つひとつの言葉を丁寧にリズムにはめていくことに重点を置く歌い方をとることで、歌詞の意味は無限に広がり、ウツの美しくてどこかせつない歌声が、曲の世界を聴く人それぞれの色へと染め上げていく。
ソロツアーなのに全部がTMの曲!
2020年はTM NETWORKにとって35周年を迎えたアニバーサリーイヤーだった。そんな中、ウツはソロツアーで、“全曲TM” というレアなライブを行った。温かさと包容力が増したウツの歌声で紡がれていくステージは最高に素晴らしかった!
3人でのステージが叶わない中、最後に流れたウツからのメッセージ「僕なりの35周年」という言葉に、会場中が胸を熱くした。フロントマンには珍しく、シャイで寡黙な性格の彼が35周年を背負いTMの曲を届けてくれたこと。それがどれほど感動的で幸せなことだったか、言葉に尽くしがたい。
FANKSたちの「ありがとう!」の声はウツにはもちろん、観に来ていた小室にも届いたと信じている。パントマイマーが出てくるステージの演出だって、舞台にそっと置かれたキーボードのEOSだって、選び抜かれたセットリストにだって…… すべてに意味があり、すべてにウツの愛が詰まっていた。
同年4月21日には、ツアーのもようを収録したブルーレイ『Takashi Utsunomiya Tour 2019 Dragon The Carnival』をリリース。この日はTMの記念すべきデビュー日でもある。そんなところにもまた、“ウツなりの愛” が溢れている。また、3月18日にはTM NETWORKベストアルバム『Gift from Fanks T』『Gift from Fanks M』も発売された。ぜひ、それぞれの作品でウツの素晴らしい歌声を堪能してほしい。
※2020年3月18日に掲載された記事をアップデート
2021.10.25