1994年 2月2日

小泉今日子「My Sweet Home」幸せのこわれやすさに気付かされるセツナソング

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夕暮れのワンシーンを歌った、小泉今日子「My Sweet Home」


夕方という時間帯は、昼と夜、オンとオフとの境目に位置する特別なひと時。赤く染まる夕暮れを見ると、一日が終わるもの悲しさを感じたり、心の奥に沈んでいた記憶がフッと蘇ることもある。

昔の日本では夕暮れ時を「逢魔が時」と呼んだそうだが、日常生活では決して思わない非日常の感情が魔物と出くわすように頭をよぎるのも、夕暮れの魔力かもしれない。

そんな夕暮れに心が揺れ動くワンシーンを歌ったのが、小泉今日子35枚目のシングル「My Sweet Home」である。

人気ドラマ主題歌として45万枚のヒット


この曲は、山口智子と布施博がダブル主演したドラマ『スウィート・ホーム』の主題歌として、1994年2月に発売された。作詞は小泉今日子、作曲と編曲は、当時、ミスチルのプロデューサーとして活躍していた小林武史。大ヒットした「あなたに会えてよかった」と同じ布陣である。

90年代のキョンキョンは、ミリオンヒットした「あなたに会えてよかった」の印象が強いが、このシングルも約45万枚を売り上げている。当時はトレンディードラマ全盛期。ドラマの人気と比例して、主題歌も売れたのだ。

その『スウィート・ホーム』は、山口智子扮する妻が自分の子を受験戦争に追いやるコメディータッチのストーリー。「お受験」という言葉を流行らせ、最高で20%を超える高視聴率を記録した。

しかし、この曲をドラマの主題歌で終わらせるにはもったいない。彼女が心の奥に沈めていた非日常の感情が伝わってくるからだ。

モチーフはキョンキョンの踏切での実体験


キョンキョンはドラマ『愛するということ』の撮影中に、小田急線の踏切で厚木方面に向かう電車を見た。この時の心情が曲のモチーフになっている。

「その時通り過ぎる電車を見送りながら『あ、これ、厚木に帰るんだな』って見送ったりして切なくなった。その情景と自分の気持ちを、すごくよく覚えていましたね」

… と、彼女は書籍『コイズミシングル~小泉今日子と50のシングル物語』の中で述べているが、その思いが冒頭の歌詞に凝縮されている。

 夕暮れの街を急ぐ電車は疲れた心乗せて
 誰かが待つ場所へと運んでゆくの
 踏切でそっと見送ってたら急に淋しくなって
 走り出した まるで子供みたいに

しかし、この時に彼女が感じたのは淋しさだけではない。歌詞を書く直前に、キョンキョンは父を亡くしていた。その父への思いがサビで込み上げる。

 大好きだった背中を思い出して
 大きな声で一人泣いたの
 大切な心の中の My Sweet Home
 遠くで抱きしめていて

夕暮れの電車を見て感じた淋しさが、父の記憶を呼び覚まし、涙がこぼれる。この心情の変化が、この曲の一番の聴きどころだ。そして、その変化を増幅させているのが、小林武史さんのメロディーの力だと思う。

小林武史の “一点セツナメロディー”


この曲はアレンジやコード進行が独特で、いかにも小林さんが手掛けた90年代の作品とわかる何かを感じる。Aメロはメジャー系の音から入って淡々と進むが、サビでは急に音程が上がり、哀愁が漂い始める。抑えていた父への思いが決壊して、あふれ出すように。

思えば小林さんの作品には、ピンポイントで切なさを感じる曲が多い。「あなたに会えてよかった」で言えば、サビの「上手に言えなかった」の部分、小林さんが翌年に結成したマイラバ(『My Little Lover』)の大ヒット曲「Hello Again」の「今も胸に響くよ」の部分など。当時の私はマイラバを好んで聴いていたが、そんな小林さんの “一点セツナメロディー” に惹かれたのかもしれない。

真の主題は “幸せのこわれやすさ”


小林さんのセツナメロディーに載せて、亡き父との思い出を、少し淋しげに歌うキョンキョン。しかし彼女には、父への思い以上に言いたいことがあった。それが、2番の後のリフレインで歌われる。

 幸せはいつもこわれやすくて
 小さな声で一人泣いたの
 大切な心の中のMy Sweet Home
 優しく抱きしめていて

父を回想するうちに「幸せはこわれやすい」ことに気付き、「小さな声で」泣く。この表現からは、直接的ではないが重く鈍い悲しみを感じる。

確かに人生は、いつ何が起こるかわからない。災害、疫病、戦争はもちろん、些細な出来事でも幸せは瞬く間に失われてしまう。そうした重い現実に日常の中で気付く瞬間を、この曲はサラリと歌っているのだ。

ちょうどこの曲が発売された1994年は、バブルが崩壊し、日本経済の先行きが見通せなくなった時期。不動産の価値急落や会社の業績不振などで、幸せのはかなさを身を持って体験した人も多かったと思う。しかし、そうした不安な時こそ、帰る家がある有り難さを実感できる。また、安心できる拠り所が心の中にあれば、何とか生きていける。そうした日常ではなかなか気付けない現実を、キョンキョンは “My Sweet Home” という言葉に込めて歌った。

「この曲だからたどり着ける心の中の我が家が、きっと誰にでもある」前述の書籍では、この曲をこう紹介している。何かと不安な時代に向けたメッセージソングとして、聴いてみてほしい。


参考文献
『コイズミシングル~小泉今日子と50のシングル物語』~『コイズミクロニクル~コンプリートシングルベスト 1982-2017~』(ビクターエンタテインメント)初回限定盤プレミアムBOX収録

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2022.03.24
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カタリベ
1966年生まれ
松林建
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