8月15日

RCサクセション「COVERS」忌野清志郎の作詞家としての力量をみよ!

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photo:kiyoshiro.co.jp  

追随を許さぬ描写力と言葉選びのセンス、作詞家・忌野清志郎の魅力


4月2日は忌野清志郎の誕生日――
伝説的ロックアーティストとしてその死後も愛され続ける忌野清志郎、本格的ソウルショーのスタイルを昇華させた迫力あふれるステージングも素晴らしかったが、パフォーマーとしてだけでなく、「スローバラード」「トランジスタラジオ」そして井上陽水と共作した「帰れない二人」などの名曲を生み出したソングライターとしても高く評価されるべき人だと思うのだ。

彼の個性的なメロディラインも好きだが、なにより作詞家としての忌野清志郎は本当に魅力的だ。とくに思春期から青年期の男の子の心情を繊細に描き上げる描写力と言葉選びのセンスは、ちょっと追従を許さないんじゃないかと思う。けっして説明的な詞ではないのに、情景、そして主人公の心の動きがじわりと伝わってくるのだ。

日本語詞でカバー、ザ・モンキーズ「デイ・ドリーム・ビリーバー」


そんな作詞家としての忌野清志郎の力量は、オリジナル曲でもいかんなく発揮されているが、さらに感心させられるのがカバー曲だ。たとえば、最近でもCMとしてオンエアされていた「デイ・ドリーム・ビリーバー」。オリジナルはアメリカのアイドル・グループ、ザ・モンキーズの1967年のヒット曲で、忌野清志郎は1989年にザ・タイマーズとして日本語詞でカバーしている。ちなみにクレジットでは、日本語詞ZERRYとなっているが、もちろん忌野清志郎のことだ。

ザ・モンキーズのオリジナルバージョンをつくったのはジョン・スチュワート。50年代末から60年代初頭にキングストン・トリオに参加してモダンフォークソングのムーブメントをリードした。1966年にキングストン・トリオが解散したのちにソングライターとして彼がモンキーズに提供した曲が「デイ・ドリーム・ビリーバー」で、作詞・作曲ともにジョン・スチュワートが手掛けている。

曲のポテンシャルを広げるクリエイティブなカバー


「デイ・ドリーム・ビリーバー」のオリジナル詞の主人公は、彼女と一緒に暮らす若い男性。少しは現実を意識しながらも、白昼夢(Daydream)のようなまったりした気分に浸り込みたい彼の思いが歌われている。忌野清志郎の日本語詞でも、「Daydream」がテーマとなっているけれど、オリジナルとは違って、もう終わってしまった過去の夢として描かれている。この詞の “彼女” という言葉には3歳で死別した母が投影されているとも言われているがそれはさておき、日本語詞の「デイ・ドリーム・ビリーバー」からは、同じ夢でもどこか哀愁が感じられて、その影が曲に深い余韻を与えているという気がする。

忌野清志郎の日本語詞は直訳ではないが、けっして原曲の世界観を無視してはいない。むしろ、オリジナルの曲が描こうとしていたテーマを理解しリスペクトした上で、自分なりの想いや解釈を加えることによって、曲に新たな表情を加えたり、イメージを発展させている。言ってみれば、曲のポテンシャルを広げるクリエイティブなカバーになっているのだ。

日本語詞カバーの魅力を堪能できる「COVERS」


そんな忌野清志郎の日本語詞カバーの魅力を堪能できるアルバムがRCサクセションの『COVERS』だ。

このアルバムは、1987年12月に日本武道館で行なわれたコンサートで、ボブ・ディランの「風に吹かれて」を歌ったのがきっかけになって、RCサクセションによるカバーアルバムとしてレコーディングされた。そして8月にアルバム、6月には先行シングル「ラブ・ミー・テンダー」(エルヴィス・プレスリーの1956年のヒット曲のカバー)が発売される予定になっていた。

しかし6月に入り、所属レコード会社が、「素晴らしすぎて発売できません」という新聞広告で発売中止を発表。結局、理由は明らかにされなかったが、歌詞に込められていた “反原発メッセージ” が、レコード会社の親会社との関係で問題となったと推測された。

その結果、発売を要望するファンの声に押されて、このアルバムだけRCサクセションが以前所属していたレコード会社からのリリースという変則的スタイルで、8月15日に発売された。

この発売にまつわるいきさつが話題ともなり、『COVERS』はRCサクセションとして唯一のチャート1位獲得アルバムとなった。しかしその余波として、このアルバムは、発売に関するトラブルやメッセージ性に関心が向けられることが多い割に、作品性への注目度はそれほど高くない、とも感じられる。気のせいかもしれないが、日本のリスナーには、オリジナルの方をカバーより高く見る傾向があるのかもしれない。しかし、『COVERS』はその選曲の妙を味わうとともに、忌野清志郎の作詞家としての力量がたっぷり堪能できる、非常にクオリティが高いアルバムだと思うのだ。

プロテストソング、ロックアンセムそしてポップス… バラエティ豊かな選曲


『COVERS』には11曲が収められているが、ほとんどが1950~60年代のエポックメイキングな曲だ。

アルバム制作のきっかけとなったボブ・ディランの「風に吹かれて(Blowin' in the Wind)」(1963年)、バリー・マクガイアの「明日なき世界(Eve of Destruction)」(1965年)、そしてジョン・レノンの「イマジン」(1971年)といったプロテストソングもあれば、「サマータイム・ブルース」(エディ・コクランの1958年のヒット曲、ザ・フーなど多くのカバーがある)、「マネー(Money-That's What I Want)」(1959年のバレット・ストロングのヒット曲、ビートルズのカバーでも有名)、ローリング・ストーンズの「黒くぬれ!(Paint It, Black)」(1966年)といったロックアンセムもある。

さらにアルバート・キングの「悪い星の下に(Born Under a Bad Sign)」(1967年、ブルースの名曲。クリームのカバーでも知られる)、ジョニー・リバースの「シークレット・エージェント・マン」(1966年、アメリカのテレビドラマ主題歌)もあれば、西ドイツのバンド、レインボウズの「バラ・バラ」(1965年、日本でヒット。ザ・スパイダースがカバー)、サルヴァトール・アダモの「サン・トワ・マミー」(1962年、シャンソン)といったヨーロッパのポップスもあるという、非常にバラエティ豊かな選曲。

当時を知っている世代にとっては、どれもおなじみの曲ばかりなのだ。これらの曲に忌野清志郎がどんな影響を受けていたのかを想像するのも非常に興味深い。

オリジナル詞と聴き比べながら味わいたい、忌野清志郎による日本語詞


『COVERS』に収められている曲は、すべて忌野清志郎による日本語詞がつけられているが、詞のつけ方にはいろいろなパターンがある。

アルバムのイメージを代表しているのは、ストレートな反核ソングに書き換えられた「ラブ・ミー・テンダー」「サマータイム・ブルース」や、鋭い風刺をこめた「マネー」「シークレット・エージェント・マン」のような、メッセージ色の濃い詞だろう。しかし、同じメッセージソングでも詞のつけ方はワンパターンではない。

例えば「明日なき世界」では、1969年に高石友也がP.F.スローンの原詞を日本語訳して発表しているが、忌野清志郎はこの高石版の日本語詞をもとに、より時代にフィットするように手を入れて歌っている。

「悪い星の下に」や「イマジン」ではオリジナルの英語詞の世界観によりくっきりした陰影を与えるような日本語詞をつけている。もともとラブソングだった「バラ・バラ」では、“バラバラ”という語感だけを活かしたオリジナルなメッセージソングに変身させている。

また、メッセージソングではないけれど、「サン・トワ・マミー」も1964年に越路吹雪がヒットさせた時の岩谷時子の訳詞をベースに忌野清志郎がニュアンスを変えているなど、多彩な視点から “日本語詞” への取り組みを見せていること。これもまた『COVERS』の大きな魅力なのだと思う。

もし時間に余裕があれば、改めてオリジナル詞と聴き比べながら『COVERS』の魅力を味わってみて欲しいと思う。



2021.04.02
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カタリベ
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